何度も惹かれ合う2人
受験シーズン到来の冬、学校の生徒が帰宅する中、康子(やすこ)と冬馬(とうま)の二人は教室で話していた。
「康子は進路決めた?」冬馬は部活終わりの荷物を片付けながら尋ねた。
「冬馬くんは?私はA高校!こんな時期まで部活なんて偉いね」康子は答えた。
「俺も志望校同じ!部活の方は、後輩があと少しでいいところまで成長しそうだから見てあげたくて」という冬馬の答えに、康子は興味がなさそうな雰囲気で「ふーん」と言いながら教科書を見る。康子は嬉しさがバレないよう必死だった。
冬馬は、柔道に打ち込む中学3年生で、活発なクラスの人気者。身長も高く、人懐っこい笑顔で男女問わず、また先生からの信頼も厚い生徒だ。
康子は、教室に残って勉強をしている真面目で大人しい生徒。ただそれは口実で、柔道部の部活終わりに教室に荷物を取りに来る冬馬と話したいのだった。
二人はパズルのように、お互いにないピースを持っている存在で性格こそ違うものの想い合っていた。
同じ塾に通う二人は、寒空の下、色々な話をしながら帰っていた。志望校の過去問が難しい、受かるか不安、塾講師の噂話。話しているうちに康子の家の前に着いた。
「同じ高校に行けると、いいね」そう言ってお互いの手を握りしめた。
同じ高校、同じクラスに!!

同じ高校、同じクラスに入ることができた二人。冬馬は多くのスポーツ系部活から勧誘を受け、バスケ部とサッカー部に入部。康子は楽器が好きということもあり、室内楽部に入部した。
冬馬と康子は家が近いこともあり、帰るタイミングが同じになったら二人で帰っていた。高校2年生の春、帰り道に近所の公園に立ち寄ったときに冬馬から付き合って欲しいと言われ、康子は大きく頷いた。
それから1年半後、大学受験まで残り4か月と迫った頃、二人の進学先が違うことがわかる。冬馬は家から通えて理系の大学ならどこでもよく、康子は有名な室内楽部がある大学1択だった。
部活引退後に受験勉強に励んだ成果もあって、冬馬も康子も見事に合格することができた。違う学校で過ごすことに不安を感じた康子だが、家も近いからいつでも会えるという冬馬の言葉に安心したのだった。
新しい出会いと別れ

冬馬は第一志望に敗れたものの、家から通える理系大学に入学でき、バンドサークルに入った。康子は第一志望の大学に入学し、憧れの室内楽部のメンバーになることができた。
平日はアルバイトやサークル、バンドの練習を頑張り、土日に二人でデートをすることが多かった。高校生までの違い、大学生は時間に余裕があり、自由に使えるお金も増えるので、映画・水族館・観光など色々と出かけることができた。
「面白い先輩がいる」「室内楽部にモデル並みにかわいい子がいる」そんな新しい出会いは二人を刺激し、毎日が楽しくなっていった。
大学2年目の夏休み、冬馬がサークルの合宿に行くため、2週間ほど会えない期間が続いた。サークル合宿後の冬馬は、どこか素っ気なく、土日もバンドの練習があると会えないことが多くなった。
康子の好きなバンド・おしゃべりモンキーのライブや話題の映画に誘っても、冬馬は「忙しいから無理」としか答えなくなり、ある時冬馬から別れを切り出された。康子は、自分にダメなところがあったのか腑に落ちないまま冬馬とは疎遠になってしまった。
同窓会で再会

成人式の後、高校時代の同窓会が大規模に開かれることになった。別れてから半年以上経つが、康子は冬馬のことが好きだった。同窓会の会場に着いた時、久しぶりに会う同級生との会話で盛り上がりながら、無意識に冬馬の姿を探していて。
冬馬は、1時間ほど遅れて同窓会会場に到着した。康子は何度も話しかけようかと思ったが、冬馬は人気者。話しかける間もなく、同じ部活の仲間、クラスメイトたちとわいわい盛り上がったいた。
同窓会が終わり、自由参加で2次会が開かれることになった。康子は、少し疲れたため2次会に参加せずに帰ることにした。自宅方面行きのバスに乗り込み席に座ったところ、冬馬が乗ってきた。
横の席に腰掛けた冬馬から「久しぶり」と言われた康子は驚きのあまり「うん」としか言えなかった。そのまま沈黙が続き、最寄りのバス停に着いたバスを降りる二人。「暗い道は危ないから」と冬馬は康子の手を握って家の前まで送ってくれた。帰り道も沈黙は続いたが冬の寒さを忘れるほど温かい気持ちになった。まるで高校時代に戻ったような気持ちだった。
あの頃のように戻れたら

同窓会で再会した二人はその後、会うことはなかった。連絡先を交換したものの、どちらからの連絡もなかった。そのまま康子は社会人になり実家から都内の会社で事務職に就いた。冬馬は一人暮らしを始め県内の企業で営業マンをやっていた。
社会人生活も3年目を迎え、周りでは「エリートと合コンした」「相席屋で商社マンの彼氏を見つけた」という話を聞くようになったが、康子は興味がなかった。そもそもよく知らない人と話すこともできないし、気を遣って疲れることが目に見えていたからだ。
退屈な毎日が続いていたある日のお昼休憩中に、康子のスマホから着信音が鳴り響いた。昨日の夜中に、ドラマを観ていた時にマナーモードを切ったことを思い出しつつ、お昼休憩まで何も連絡がないと言うことに改めて驚きとも呆れとも言えない感情が湧いた。
スマホには「今日、あの公園で会える?」冬馬からのメッセージだった。「夜8時くらいなら」と返した。休憩時間が終わる寸前ということに気付き、慌ててオフィスへ戻り仕事を終わらせた。
夜8時まで少し時間があるが、康子は公園に着いていた。すると冬馬も同じタイミングで到着した。「お疲れ!」今度は康子から話しかけてみる。冬馬は「おう、お疲れ」と少し照れながら答えた。
公園のベンチで缶チューハイを飲みながら、会社の上司や同僚の愚痴をこぼし、時間を忘れて話をしていた。そろそろ帰ろうと康子が立ち上がると、冬馬は「ちょっと待って」と言った。
冬馬から「もう一度、付き合って欲しい」と言われた。康子は「どうして?別れを切り出してきたのは冬馬くんなのに」と少し強い口調で返事をした。「やっぱり康子が好きだ。前に別れたのは、サークルの合宿で先輩と一度だけ浮気をして、そんな自分が許せなくて別れたんだ。だけど、同窓会の帰り道に二人で帰った時に、やっぱり康子が好きだって確信したんだ。それからずっと連絡しようと思ったけど、できなくて…もしダメならもう諦めるから。」そう言うと冬馬はじっと康子の目を見てきた。

康子は冬馬の方に足早に駆け寄った。冬馬は頬をビンタされる覚悟で目をつぶると、「おしゃべりモンキーのライブ、連れてってくれる?」と康子に抱きつかれた。冬馬は目を開くと、康子が目から涙を流しながら笑っているのが見えた。「うん、一緒に行こう」冬馬は康子の身体を強く抱きしめた。
一度は離れた二人の想いが、パズルのピースのように引き寄せられ、一つになった。
miyuki著









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