幸せへの扉

私が恋愛について興味を持ち始めたのは、小学1年生の初めての夏休みでした。長期連休になると毎年、母親と妹、私の3人で、車で8時間ほど離れた祖父母の家に帰省してました。帰省中、学校では気が付かなかった“あること”に私は子供ながらに気が付いてしまいました。それは「生まれて初めて恋をした」ということ。

毎日会っていた同じクラスのサッカーが得意な男の子。会えない時間が続き、モヤモヤしていました。何をしていても、その子のことが頭から離れずにいて、ついつい祖父母に「おばあちゃんとおじいちゃんはどうやって出会ったの?」と聞いたことがあります。

普段は人を楽しませるのが好きな性格の祖母。「おじいちゃんとは出会うべくして出会ったのだから、理由なんてないんだよ」と、にこにこと頬を赤くしながら、教えてくれました。祖父にも聞きに行きましたが、祖母と全く同じことを話しており、小学1年生の私には「出会うべくして出会ったのは、当たり前のことだよね?」とその意味が全く理解できず、ずっと心が晴れずにいました。

答えの真相がわからないまま、気づいたら私は専門学生の2年生になり、少しだけ心も身体も大人になっていました。普段と変わらない朝、母親がこんなことを話してきました。

「おばあちゃんとおじいちゃんは認知症になって、今は別々に暮らしているみたいだよ」

どこか悲しそうな表情で私に教えてくれた母親。あの日のことを今でもよく覚えています。それを聞いた私は、心がぎゅー――っと痛くなりました。祖母は病院生活を送っており、祖父は介護施設でリハビリをしながら毎日を一生懸命に過ごしているとのことです。

あれから更に月日が流れ、長期休暇に入った私は、母親と妹、父親と私の4人で祖父母の地元に帰省しました。祖父母がそれぞれ生活している病室と介護施設へ行き、あの日「2人の出会いについて聞いたこと」を大人になった今なら理解できるかもしれない。そう思い「おじいちゃんとおばあちゃんはどうやって出会ったの?」ともう一度聞いてみました。

しかし、祖母と祖父の口から言葉を耳にすることはありませんでした。別人のようになっていた大好きな2人の姿を見た私。「おばあちゃんとおじいちゃんはどこに行ったの?」と悲しい気持ちでいっぱいになりました。

そんな中、突然その日はやってきました。祖母が亡くなったと病院から連絡があり、涙が止まりませんでした。私は祖母の手を優しく握り「ありがとう」と何度も何度も伝えました。その後、祖父の介護施設へ行き「おばあちゃんは安らかな顔して天国に行ったよ」と、祖父を悲しませないように、涙を堪えながら伝えました。

認知症になってから、会話もできずに反応もなかった祖父ですが、私はその姿を見て、衝撃を受けました。周りの介護職員さんたちも驚きの表情を隠せない様子。そこには、目から溢れるほどの涙を流し、何かを頑張って話そうとしている祖父の姿がありました。私は「認知症でも、おばあちゃんのことを忘れずにずっと愛し続けていたんだね」とそう思いました。

翌日、介護施設から祖父が亡くなったと1本の電話がありました。私は祖父の元へ家族で駆けつけ、祖父に「おばあちゃんを最期まで見守っててくれたんだね、、」と伝えました。私が小学1年生のときに祖父母に聞いた、あの日の質問の答え。なんとなくわかったような気がしました。おばあちゃんとおじいちゃんは出会うべくして出会い、今も天国で一緒に暮らしている。そして、私たちに幸せを残してくれたのだと。

この実体験から、初めは男女が出会うことに理由なんてなくても「お互いを大切に想う気持ちこそが、後に出会いの理由になる」のだと学びました。私が今、こうして“誰かを愛し、愛されている”と実感できているのも、大切なことを教えてくれた、祖父母のおかげだと思っています。もし、この体験がなければ、私は今隣にいる人との出会いをこんなにも大切にできていなかったのだろうなぁ、、と思います。

今、祖父母と会話できるとしたら、私は「誰かを大切にする気持ちを教えてくれてありがとう!」と感謝の気持ちを真っ先に伝えに行きたいです。そして、2人の出会いが「私たちを出会わせてくれたこと」を伝えたいです。

男女の出会い方は人それぞれですが、出会いが「恋愛の扉」だとしたら、その出会いを大切にし続ける気持ちこそが、幸せの扉を開ける「鍵」なのではないかと私は思っています。

r655著

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回は、初恋を経験した主人公が祖父母の人生から愛を学ぶ物語を書いていただきました。

    小学1年生の頃、自身の初恋をきっかけに祖父母がどうやって出会ったのかが気になり聞いてみた著者でしたが、当時の著者には祖父母が言う言葉の意味が分かりませんでした。
    答えが分からないまま専門学生となったある日、祖父母が認知症になり別々の生活を送っていることを知り胸を痛める著者。
    それからさらに月日が経ち祖父母に再会する時、幼少期の答えが今ならわかるかもしれないと再び祖父母に出会いについて聞いてみました。
    しかし祖父母の口からその答えを得ることは出来ず悲しみに暮れてしまいます。
    ある日祖母が亡くなりそのことを祖父に伝えに行くと、会話は出来ませんが何かを話そうとたくさんの涙を流す祖父の姿を見ました。そしてその翌日に祖父も亡くなりました。
    この祖父母の人生を目の当たりにして、著者は当時分からなかった出会いについての答えを知るのです。
    出会いが恋愛の扉ならば、それを大切にする気持ちこそがその扉を開ける鍵になると著者は語っています。

    幼少期の初恋をきっかけに、家族や恋愛、別れというテーマに触れながら、人生や愛について学びを得る内容です。
    祖父母の人生を目の当たりにしながら幼少期に分からなかった答えを一つ一つ理解していく姿は、読者に深い感銘を与えます。
    人とのつながりや愛を大切にすることについて考えさせられる、感動的で素晴らしい作品です。

    検収者 kitsuneko22

    ㉒kitsuneko22-10

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