勘違いはごみ箱の中へ

皆さまこんにちは。今日は私の古い友人であるMという男性が経験した
悲しい恋のお話を紹介します。


 「同じ故郷を持つ」

数年前、会社員のMはインターネット上で二つ年下のYという女性と知り合いました。
何通かのメッセージを送り合った後、彼らは実際に会って食事へ出掛けることにしたそうです。

二人はとても趣味が合いました。好きな小説や漫画、アニメや音楽など、いくら話しても
話し足りなかったようです。飲食店の閉店間際まで夢中で喋り続け、気付けば彼ら以外の
お客さんは誰も残っていないことも多かったそうです。

出身地は別々でしたが、二人は同じ故郷を持つ者同士のようだったとMは言っていました。
そのくらい一緒に過ごすことが居心地よく、「息」が合ったのでしょう。彼らは出会ってすぐに
お互いの存在に安心や懐かしさを感じていたのだろうと思います。

Yは綺麗な黒色の髪の毛を伸ばしていて、前髪を眉毛の辺りで真っすぐに切り揃えていました。
思慮深く賢そうな顔立ちをしていますが、少女のように無邪気に笑います。

当時、私もMも結婚を意識し始めるような年齢でした。Yが奥さんになってくれたら
どんなに素晴らしいだろう、とMは交際すらしていない時から何度も思っていたようです。


「ペンギンを学ぶ」

二人は頻繁に連絡を取り合い、外出を重ねました。ジビエ料理の店で羊の肉を食べ、
カラオケでお互いの歌う歌をリクエストし、彼らが子供時代に見ていたアニメの映画を
見に行ったりもしたそうです。

ある時、MはYにどんな男性が好きか尋ねました。彼女は「ペンギンを見分けられる人が
格好いいと思う」とこたえたそうです。彼は素直にペンギンの勉強を始めました。

聞けば、ペンギンというのは18種類もいるそうです。よく名前を耳にするような
皇帝ペンギンやオウサマペンギン以外にも、フンボルトペンギンやケープペンギン、
マゼランペンギンなどなど。胸の模様や顔の形がそれぞれ少しずつ違っているようです。

商店街の隅の小さな居酒屋で飲んでいる時、Mはすべての種類のペンギンの名前と特徴を
紙に書いてYに見せました。彼女は「すごい!」と言って喜んだそうです。

ペンギンの知識を身に着けたから、という訳ではないと思いますが、MはYに告白しました。
彼女は「あなたは大切な友達だから、男性として見ることは出来ない」と言って断ったそうです。


  「いろは歌を作る」

Mはひどく落ち込みました。しかし、Yからの誘いが途絶えることはありませんでした。
二人はその後も今までと変わらず度々一緒に出掛けたようでした。

Yはとてもたくさんの「自分の遊び」を持っていました。その中でも特に変わっているものが
ひとつありました。彼女はいろは歌を自作しているのでした。
いろはにほへと ちりぬるを、という歌がありますが、Yはそれと同じように平仮名を
一度だけずつ使って、意味が通るように文章を作っていたのでした。

Mはその話を聞いて自分でも作ってみたいと思ったそうです。

つきよみなもに あわゆれて
めまいけす ほおぬるゐろ
ちゑのやねへ さそひ
こえはらむふたり しんくうをとかせ

これが彼の作ったいろは歌です。平仮名を使い尽くすことから、「かなづくし」とも
呼ぶのだと聞きました。YはMのいろは歌を見て、「格好いいじゃん」と短く褒めたそうです。

いつものように二人で会った帰り道の途中、駅の中を歩いている時にふいにYが口を開きました。
「素朴な疑問があるんだけどね」「うん」「これもう、付き合ってるよね、わたしたち」
確かに彼らは月に何度も会い、Mの部屋にYが泊まることもあったそうです。傍から見れば
仲良しの恋人同士にしか見えないのでした。

彼は彼女の言葉通りに、一度は振られたものの、今は二人は交際している状態にあって、
それを改めて明らかにしたものと思ったそうです。おそらく私も同じように考えるでしょう。
Mはとても幸せそうでした。しかし、それは勘違いだということが後に判明します。


「違和感を覚える」

彼らはそれからも連絡を取り合いました。ただ、何かおかしいのだとMは言います。
彼から誘っても断られることが多くなったそうなのです。晴れて交際している筈なのに
逆に彼女が素っ気なくなったように感じられるのでした。

Yの誕生日が近付いた頃のことです。Mは彼女の欲しいものを尋ねました。
彼女はしばらく悩み、強いて言えば、あるアニメ映画監督のDVDボックスが
欲しいとこたえたそうです。彼は早速それを注文し、届くのを待っていました。

12月のある日、Yから食事へ行こうと連絡がきます。彼女へのプレゼントは
すでにMの手元にありましたが、誕生日はまだ数日先だったので、彼はそれを持たずに
待ち合わせ場所に向かいました。

誕生日が過ぎた後は、クリスマスイブも一緒に過ごそう、とMはYに提案しました。
彼女は何故か渋っているようです。他に用事が入るかもしれないし、となかなか
受け入れようとしません。

食事が終わり、店を出ました。本当に、クリスマスイブは別々に過ごすのかと
彼はもう一度尋ねました。自分たちは付き合っているのに、と。
「いや、付き合ってないよ」Yは冗談交じりにこたえたそうです。
「あの時わたしが言ったのは、付き合っているってことじゃなくて、
 付き合っているみたいだねって意味で言ったのよ」

Mはその言葉を聞いて、これまでの彼女の言動がいっぺんに腑に落ちたそうです。
彼を誤解させるような発言をしてしまい、それを訂正する機会もなく、
ばつが悪い気持ちを抱えた結果、素っ気ない態度をとるようになっていたのでしょう。

納得した直後、強い悲しみがMを襲ったそうです。彼はいつもYとの別れ際には
「またね」と言って彼女が見えなくなるまで見送っていました。この時初めて、
彼は「バイバイ」と言ったのでした。

電車に乗ってMは帰りました。席に座っている間、周りの人の話し声が
とても小さく聞こえたそうです。

部屋に着くとすぐに、彼はYのために買っておいたプレゼントをごみ箱に捨てたのでした。

i541著
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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回は、ある男性の勘違いの恋のお話を書いていただきました。

    会社員Mはインターネット上で、2歳年下のYという女性に出会います。
    2人は共通の趣味を楽しみ、Mは次第にYに好意を抱くようになります。
    彼女の思わせぶりな言動で、MはYと付き合っていると思っていました。
    しかし彼女は付き合っていないと言い、素っ気ない態度を取られてしまいました。
    彼女への思いを断ち切ろうと決心したMは、彼女のために買ったクリスマスプレゼントをゴミ箱に捨てるのでした。

    このストーリーからは、友情と恋愛の複雑さについて考えさせられます。
    お互いの気持ちと期待のずれから生じた誤解は、日頃からの誠実なコミュニケーションの重要性を読者に示しています。
    恋愛だけでなく普段の人間関係においても、自分の気持ちを伝えることが大切だという教訓が得られる作品です。

    検収者 kitsuneko22

    ㊳kitsuneko22-10

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