出会いのキーホルダー
「あの!落ちましたよ!!!」駅のホームで会社員らしい男性にレナは声をかけられた。
男性の息が上がっている。走ってきたのだろうか。
男性の差し出した手元を見てレナはハッとする。
リュックのファスナーの辺りを探り、そこにあるはずのものがないことを確認する。
「あ!!!すみません!!!ありがとうございます!!!」男性からキーホルダーを受け取り、ほっとする。
よかった〜〜〜〜!!!!!!これがどっか行っちゃってたら泣くに泣けない!!!!!
それは、レナがファンクラブに入っているアーティスト「アクア」のライブ会場限定グッズ。しかも数量限定。これを買うために、物販が始まる何時間も前から多くのファンが並んだ。
もちろん、レナもその中の1人だ。
「ほんとに助かりました!!ありがとうございます!!!」
「ははっ!いや。それ、おれも持ってます。アクアの・・・ですよね」
「!!!ほんとですか?!?!えっ!!あの・・・もしかして?」
「ファンなんです、おれも。これ買うのにすげー並んだから、落ちたの見て絶対渡さないとと思って。思わず走って追いかけちゃいました」
ははっ!と笑う男性をみて、レナは嬉しくなった。
アクアのファンの人はほんとにいい人ばっかり!!!
思い切って、話をしてみようか?
「あの、再来月ZEPPでありますよね。行かれますか?」
「もちろん!行きますよ!新曲も披露するっていってたし、今からめっちゃテンションあがってます!」
「わかります!!!わたしアルバムの3曲めの「ラバーズ」が好きで」
「あ!!!おれも!!!いいですよねぇ〜〜とくにイントロが・・・!」
「Bメロの歌詞もめちゃくちゃよくて・・・!」
「あなたも行かれますか?今度のライブ」
「もちろん!!仕事も半休とりました!!」
「ははっ!おれも!」
すごい気さくで話しやすい人だな・・・この近くで働いてるのかな・・・
あ!!!!
「すみません!!!わたし引き止めちゃって!!!」
「あぁ!!!やばい!!おれちょっと遅刻気味だったんだ!!!」
男性は「じゃ!」っと、足早に改札口のほうに向かっていく。
「あの!!」男性が振り向きざま叫ぶ。「もし会場であったら声、かけてください!!」
「・・・!はい!!会えたら!!」
レナが手をふると、男性はふっと緩んだ笑みを浮かべ、会社があるであろう方向へ駆けて行った。
・・・なんか、映画みたい
レナは自分の考えに、クスリと笑った。

待ちきれない!
「ちょっとレナ。あんた仕事に集中しなさいよ。ライヴまでまだ時間あんでしょ?」
「ごめんごめん〜〜!!」
「クロワッサンの値段も打ち間違えてたし、フランスパンの値段も!しっかりしてよね」
「だからごめんて〜〜〜」
呆れた同僚のミサがやれやれと首をふる。
駅前の青い看板がかわいらしいパン屋「クロッサム」でレナは働いている。
レナは愛想もよく気持ちのいい接客をするので顔を覚えられ、常連のおばあちゃんからはお菓子をもらうこともある。しかし・・・
ミサのおかげで、レジ入力の時点で間違いに気づいてお客様には迷惑はかからなかったけど、確かに今日緩みすぎてる・・・・
ぱしっと軽く頬を叩き、レナは気を引き締め直した。
そうだ、今日会うTwitterのフォロワーさんたちにお菓子買っていこう。初めて会う人もいるからちょっと緊張するなぁ〜〜〜〜!
「レナ!!また!!!」
・・・今日はどうも仕事になりそうにない・・・。
約束
会場に着くと、レナのテンションはマックスになっていた。
「うわぁぁぁあ!!!!ほんっとこの空気感、大好き!!!!!!」
入り口を入るとぐわっっと別世界に引き込まれたような感覚が体中をめぐる。
何万人という人が、自分と同じアーティストが好きで、同じ空間・同じ世界感の中に入って同じ世界をみる。
これってほんとすごいことだよね・・・!!!!
レナは約束をしていたフォロワーさんと一人一人会っていく。
あ〜〜〜〜楽しい!!!ずっと話してられる!!!
開演時間5分前になり、フォロワーさんとは一旦別れ、自分の席につく。
あっ!まだ1人会えてない!!!!
今回始めて合う予定の人で、アカウント名は「YOSI」という。
Twitterの画面を開き、「YOSI」さんへDMでメッセージを送る。
「公演が終わったら、会いませんか?」
数秒後、音がなる
「是非!お願いします」
その文字を見て、ふっとレナは笑った。
なんだかいい人そう。
そういえば、駅であったあの人、いないかな・・・・。
キョロキョロと周りを見渡してみるが、それらしい人はいない。
「ま、こんなに人がいるんじゃ、わからないか」
ちょっと残念だな。いろいろ話してみたかったのに・・・。
ライブ開始のアナウンスが流れ、レナの頭は男性のことを忘れ、アーティストのパフォーマンスに集中する体勢に入った。

また・・・!
「はぁ〜〜〜〜〜!!!もう今回のセトリ最っっっっ高だった!!!!」
「レナさんの好きな『ラバー』来ましたもんね!!!!!そりゃもう涙もんですよ!!!!」
ライヴ終了後、フォロワーさんと感想を言い合いながら会場をあとにする。
「あ、そうだわたしこの後会う予定の人がいるの。この人」
フォロワーさんにレナはYOSIのホーム画面をみせる。
「あぁ!!YOSIさんなら私知ってる!まだそのへんにいるんじゃないかな?
・・・あ!いたいた!!」
おーい!とフォロワーさんが声をかけると、一人の男性が振り返る。
あ!!!!
あの人だ!!駅で会った男性!!
男性は少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔で近くに来た。

「よかった!会えたらって思ってたんですよ」
「わたしも!!」
「あれ?二人はもう知り合い?」事情を知らないフォロワーさんは不思議そうに二人の顔を交互にみる。
「この前ね、駅でキーホルダー拾ってもらったの」
「そうそう、それで会えたらって話をしてたんだ」
3人でライヴの感想で話が盛り上がり、このあと飲みに行くことになった。
「あ、ちょっと待って」
男性はTwitterの画面を確認しながら少し考え込む。
「実は、この後会う予定の人がいたんだけど・・・どこにいるのかな。メッセージも既読にならないし・・・。もう帰っちゃったかな」残念そうにつぶやく男性をみて、まだ自分がその本人だと告げていないことにレナは気づいた。
「・・・大丈夫じゃないですか?」
「え?」
「だって、もう会ってますし」
「・・・・???え??」
「だから、それ、私です。「RENA」ってアカウントの人でしょ?私です」
「え・・・・・えーーーーーーー!!!!!!!!!!」
男性はびっくりしてマジマジとレナをみる。
「なんでもっと早く言ってくれなかったんですか」
「ごめんなさい、忘れてました」あははっと笑うレナをみて、呆気にとられていた男性の顔が徐々に笑みに変わる。
「おれたち、駅で会う前から知り合いだったんですね」
「ふふっほんとですね」
「・・・おれ、本名タチバナ ヨシキです」
「・・・わたしの本名、ホンダ レナ」です」
二人はお互いに見つめ合い、あははと笑い合う。
「改めて、よろしくおねがいします!レナさん」
「こちらこそ!よろしくおねがいします、ヨシキさん!」
「はいはい!自己紹介はそれくらいにして、飲みに行きましょ!」
フォロワーさんに促され、2人は駅前の居酒屋へと向かった。

looku著









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