捨てた初恋との拾えなかった再会

恋を捨てた日

アレはもう八年ほど前になるかもしれない。

当時青森の漁師の息子に生まれた俺はいつも金の問題が付きまとっていた。

家に帰るといつも両親は金のことに対して苛立っていて、俺はいつか東京に出ることを夢見るようになっていた。

だがそれは小学校に入る前からの幼馴染である彼女を捨てるのと同じこと、俺はすっと悩んでもだえていた。

「いつまでも待っているから東京に行ってもいいんだよ」

彼女から突然こう言われた。

彼女の名前はミヨ(仮名)という、いたって平凡でやさしい女の子。俺には過ぎたものだった。

俺は言葉が出なかった、ミヨに対して何か上手いことを言おうとするのだがわけのわからない言葉しかでてこない。

「すまない」

必死になって俺の口から出ていた言葉がこんな一言だった。

東京に染まれない俺

東京での生活は全くと言っていいほどダメだった。

青森の片田舎の高校生ができる仕事なんて、精々コンビニの店員か土方ぐらいで故郷に錦を飾るなんて夢のまた夢。

結局のところ俺はフリーターをしてあてもなく霧の中をさまよう日々。

いつもあのまま青森でミヨと一緒に生活できたら俺の人生はどう変わっていたのだろうかと妄想する毎日。

テレビで地元のことが取り上げあれるたびにミヨのことを思う。

そしてそんなことを考えるたびに目頭が熱くなる。

そんな俺だがある日突然青森へと帰ることになる。母親から連絡が届いた、父親が死んだからだ。

突然の出来事に俺は頭の中が真っ白になった、父親が死んだショックなのか、青森に帰れる理由ができたからなのか、それとも彼女に会うかもしれないからか。

当時の俺には何もわからなかった。

予想外の帰郷

八年ぶりに帰ってきた青森は駅前自体は新しくなってはいたが、都市部を離れて実家の方へと歩を進めていくとまるで変化のない光景が延々と続いてきた。

心臓が不自然に脈打つ、これから覚悟を決めなければならないからだ。

母親にも、そして彼女にも、打ち明けなければならない。

きっと世間一般的に成功している奴らは沢山の抱えきれない土産物と、体験談と、そして幸せそうな家庭とセットで帰ってくるのだろう。

そう考えると何もない俺は財布とスマホだけ、足取りも重くなる。

ただひたすらにやるせない思いが俺の中に渦巻いていた。

小さくなった母と過去になってしまった彼女

実家の母親は白髪交じりの老人になっていた。

昔の様にまで元気であった母の姿とは見違えるほどだ。

俺と母はあまり良好な関係を築けていなかったのだが、さすがにこの気弱な姿を見ると何も言えなくなってしまった。

「ここで仕事を見つけて暮らさないかい?」

その母の言葉に対して即答できなかった、この故郷で仕事を見つけられるのかということもあったが、どの面下げてミヨに会うことになるのかという不安もあった。

けどミヨには会うことはなかった、もう会えなくなったからだ。

「ミヨちゃん死んじゃったのよ、交通事故でねえ。三年ほど前に近所の交差点でねえ、可哀そうに。」

母のその一言が俺に対して、人生にはどうしようもできないことを深く刻みこんだ。

意思はどこに

ミヨの墓は町内の片隅にあった。

ミヨの実家の墓所に入ったのか苔むしたお墓であった。

ミヨのお墓の前で俺はただひたすらぼおっとしていた、何も考えられなかった。

故郷に帰ってくるまでに必死になって考えていたことはすべて無駄になった。

ミヨに伝えるべき言葉も、思いも、すべてが遅すぎた。

この俺にできることはただひたすらにこのお墓を綺麗に掃除してやることだけだった。

こうして俺の初恋はもはや手の届かないところで終わり、ミヨの意思を確認する手立ても残っていない。

もはやすべてが手遅れだ。

残ったのは惨めな俺の涙だけであった。

 

h517著

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回の作品では、初恋の人との再会が叶わなかった男性のお話を書いていただきました。

    青森の漁師の家で育った彼は、いつもお金のことで言い争う両親に嫌気がさし、いつか東京に出たいと夢見ていました。
    しかしそれは初恋の相手ミヨを置いていってしまうということ。彼はそのことについて悩んでいました。
    しかしミヨから突然「ずっと待っているから東京に行ってもいいんだよ」と声をかけられ、「すまない」という言葉を振り絞り一人東京へ。
    東京での生活は上手くいかず、故郷青森のことやミヨのことを思い出し目頭を熱くする日々。
    そんな時父が突然亡くなり、急遽青森に帰ることになります。
    東京で上手くいかない生活を送り、母やミヨにどう伝えればいいかとやるせない気持ちに苛まれていた彼。
    しかし、ミヨは交通事故で亡くなっていて、もう二度と会えなくなっていたのです。
    自分の思いや言葉も伝えられずに、彼は後悔の涙を流しました。

    たくさんの思いを胸に故郷を離れる決意をした男性の複雑な思い、そしてその決意が二度と叶わない後悔へと変わっていく様子は、悲しくやるせない気持ちにさせます。
    男性の、どうすることもできないやり場のない負の感情が、とても上手く表現された作品です。

    検収者 kitsuneko22

    ⑫kitsuneko22-10

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