彼女の初恋は幼稚園生のころ。足が早くて、面白い、同じクラスのAくんが好きでした。
『幼稚園に好きな子がいるの。』『私、〇〇くんと〇〇くんが好き。』『私、〇〇くんと結婚する!』と話している小さい子をよく見かけますが、彼女はそのような子とは正反対の性格で、恥ずかしがり屋で、誰にも自分の気持ちは話せませんでした。
もちろんAくんになど、伝えられるはずがありません。
そんな彼女は、素直に自分の気持ちを話せる周りの子が羨ましくて仕方ありませんでした。

大人からすると、そんな幼いころの恋など、忘れてしまうだろう、大きくなったら気持ちが変わるだろう、と考えると思います。
幼稚園を卒園し、幼かった彼女は、みんな同じ小学校へ入学するものと思っていました。
ですが、そんなことはありません。同じ市町村でも小学校はいくつもあります。両親の職場がたまたま近いだけかもしれません。
彼女は、ショックでした。『もう二度と会えないのかもしれない。最後のお別れも他愛もない話で終わってしまった。』こんな気持ちを幼いながらも彼女は抱えていました。
周りに聞けば、Aくんの居場所が分かったかもしれません。ですが、彼女にはできませんでした。

それから、小学校、中学校と月日が流れていきました。
学校でたくさん勉強して、たくさん遊んで、そんな毎日を過ごしていくうちに、初恋の気持ちもAくんの記憶も薄れていきました。
あっという間に月日は流れて、彼女は中学3年生になりました。
部活を引退し、受験勉強を必死に頑張る毎日。
彼女は、個別対応をしている塾に通っていました。
その塾は、生徒1人〜2人につき、先生が1人つくという塾でした。先生はある程度、固定されていましたが、毎回必ず同じ先生というわけではありません。生徒が2人のときも先生をはさんで座るので、自分以外のもう1人の生徒のことは、ほとんど見えません。見ようと思えば見えますが、人見知りな性格の彼女は、あえて見ようともしていませんでした。
ある日のことです。
彼女は、いつも通り、塾に来て、先生を真ん中にして指定の席に着きました。
先生がもう1人の生徒の名前を呼んだとき、彼女はハッとしました。どこかで聞いたことのある名前だ。
彼女は、一瞬で過去の記憶が蘇りました。
それは、幼稚園生のころ、好きだった初恋の相手、Aくんの名前だったのです。

その塾には、今まで3年近く通っていましたが、Aくんが通っていたことは知りませんでした。名前を耳にしたこともありません。
彼女は、本当にAくんなのかと、信じられない気持ちでいっぱいでした。時折、先生をはさんでAくんの声は聞こえてきますが、本人なのか分かりません。
それもそのはずです。Aくんの声を最後に聞いたのは、約10年近くも前なのですから。時間は無情なことに、Aくんは声変わりをしていて、あの頃と比べられません。彼女も幼いころの記憶なので、自信がありません。
ですが、人見知りの彼女には、Aくんの顔を覗くことはできませんでした。
ただ1つAくんの苗字は少し変わっていて、中々ない苗字でした。
彼女は、頭の中がゴチャゴチャして、勉強に集中できません。
そんな時、先生が資料のコピーをするために席を立ちました。確認するなら今しかない、と咄嗟に思いましたが、中々、顔を向けられません。
彼女がどうしようかと迷っていると、何やら視線を感じます。その視線の先は、2つ隣の席、Aくんからでした。彼女は、勘違いしているだけかもしれないと思いながらも、そっとAくんのほうに視線を向けました。
すると、Aくんと目が合いました。Aくんは、彼女の気持ちを見透かしたように、ニコッと笑顔を向けました。
突然のことに、彼女は笑顔を返すことで精一杯で何もできません。まもなく、先生が戻ってきました。先生は、2人のことには何も気づかず、そのまま授業に戻りました。
彼女は、隣の席にいるのは、Aくんだと確信しました。
少し大人っぽくなっていましたが、顔に面影がありました。彼女は、勘違いでも自分のことを覚えてくれていたのではないかと、とても嬉しくなりました。
それで満足した彼女は、授業が終わったらそのまま帰宅するつもりでした。
そこの塾は、授業終了後、自習のために残る人以外は、先生が出口まで送る流れでした。授業が終わり、彼女は、帰宅の準備をして、先生と他愛のない話をしながら出口に向かいました。Aくんとは、特に話すことなく、出口に着き、先生と別れました。私のほうが先に出口を出ていたので、先に歩いていました。
「〇〇〇ちゃん(彼女の名前)だよね?」後ろからAくんの声が聞こえました。Aくんは、しっかりと彼女のことを覚えていたのです。

そこから、Aくんと彼女は、今までの空いた時間を埋めるかのように沢山話しました。10年近く会っていないはずなのに、信じられないほどにすぐに打ち解け、2人はとても仲良くなりました。
仲良くなる中で、彼女は、勇気をだして、幼稚園生のころにAくんを好きだったことを話そうか迷っていました。話してしまったらせっかく仲良くなったのに、距離ができてしまうかもしれない。
そんなことを思いながら毎日を送る中で、いつもの塾の帰り道、今日もAくんと他愛もない話をしながら歩いていました。
Aくんはふと立ち止まり、幼稚園生のころから彼女を好きだったこと、今までずっと忘れたことはなかったこと、ずっと会いたかったことを話しました。
彼女は、あまりの驚きと嬉しさで涙があふれます。彼女は、この日、ようやく今までの気持ちを伝えることができました。

この日は、2人にとって、10年ごしに自分の気持ちを伝えることのできた、幸せな日になりました。
幼いころに離れた2人がまた会えて、お互いに同じ思いで過ごしていたこと、など奇跡が重なったようでした。
大学生になった2人は今、2人をもう一度引き合わせてくれた運命に感謝しながら、離れていた期間を埋めるように、大切な思い出を増やしながら過ごしています。
y554著






コメント
コメント一覧 (2件)
pr
今回の作品は、10年越しに叶った初恋のお話です。
彼女の初恋の相手は、幼稚園で足が速く面白いA君でした。
しかし彼女は恥ずかしがり屋で、A君に自分の気持ちを伝えることができず卒園を迎え、別々の学校へ通うことになります。
初恋はそこで終わりを迎えると思いきや、高校生になり、個別指導塾で奇跡的な再会を果たします。
彼も彼女のことを覚えていて話しかけてくれました。
今まで話せなかったぶん、たくさん話し打ち解けた2人。
実は彼もずっと好きだったことを明かしてくれて、2人にとって10年越しの思いを伝えられた幸せな日になりました。
初恋の相手との運命の再会が感情豊かに描かれています。
10年が経ってもお互いに同じ思いを抱き続け、伝えられなかった思いを伝えあう様子はとても感動的です。
運命や奇跡の存在を感じさせる素晴らしい作品です。
検収者 kitsuneko22
㉖kitsuneko22-10