文通で繋がった彼との儚い遠距離恋愛。

文通

現代のように携帯電話やSNSが普及していなかった時代、同じ趣味を持つ人たちはどのように出会っていたのでしょうか?

写真を撮るのが趣味だった加奈子は、周りに同じ趣味の人もなく語り相手が欲しいといつも思っていました。

そんな加奈子が見つけたのが、写真雑誌に載っていた「文通コーナー」の欄でした。

今の時代では考えられないことですが、SNSのなかった数十年前は、雑誌に自身の名前や住所なんかを載せて、遠く離れた同じ趣味の人同士コミュニケーションをとっていました。

加奈子は雑誌を手に取り文通相手募集の欄をじっくり眺めました。

写真雑誌だけあって皆自身で撮った写真を掲載されていて、同じ写真趣味でも個性豊かなものが並んでいました。

その中で一つ、加奈子の目を引いたものがありました。

「日本中のたくさんの光景を見てみたいです!連絡お待ちしております!」

そこに載っていたのは、東北の青空広がる綺麗な高原の写真。

九州に住んでいた加奈子は、行ったことのない東北の綺麗な景色に魅了されました。

(この人と文通やってみたいな!)

そう思った加奈子は、さっそく相手に手紙を送ってみることにしました。

ペンフレンド

「私は九州に住んでいる、加奈子といいます。写真とても綺麗で感動しました!私も九州の写真を送りたいと思います!」

加奈子は手紙に旅行先で撮った滝の写真を一枚添えて相手に送りました。

返事は一週間後に届きました。

「お手紙と素敵な写真ありがとうございます!僕は九州に行ったことがなくて、写真とても感動しました!僕のほうも東北の写真送りますね!」

そう書かれた手紙の裏に、とても綺麗な湖の写真が一枚添えてありました。

(同じ日本国内にこんな素敵な場所があるなんて!)

遠くて行く機会のない東北の風景を見て、加奈子は感動と「もっと見てみたい!」という好奇心が芽生えたのです。

「私も東北に入ったことがなくて、綺麗な風景の写真にとても感動しました!もっと東北の素敵な写真が見てみたいです!」

そして加奈子はまた旅行先で撮った九州の山の写真を一枚添えて手紙を送りました。

こうして加奈子と東北の彼はペンフレンドとなり、お互いに行ったことのない風景を送り合うようになったのです。

余命

しかし、加奈子はすぐに彼の悲しい事実を知ることになります。

「実は僕、重い病気にかかってしまって、医者からはあと一年だと言われています。」

いつものように写真付きで送られてきた手紙に書かれていたその文。

それを見た加奈子はショックと、ある使命感が沸きました。

(それなら、彼のためにもっといっぱい九州の写真を送ってあげなくちゃ!)

写真を撮るのは趣味でしたが近場で撮るだけで、遠くに旅行に行くことはあまりなかった加奈子。

しかし加奈子は毎週休みの日に車を走らせ九州の絶景を写真に収め、撮れた写真を手紙で送ることに決めたのです。

それはいつ頃か九州だけにとどまらず、山陰山陽地方、そして長い休みには四国や関西まで足を延ばすようになっていました。

手紙と写真を送るたびに「素敵な写真ありがとう!」と書いてくれる彼。

そんな彼にもっと日本中の素敵な風景を見てもらいたい一心で、写真を撮り続けた加奈子。

しかし、ある日を境にぷつんと、彼から手紙が届くことは無くなってしまいました。

旅行

それから3年経った頃。

加奈子は写真以外に旅行も趣味になっていました。

たった一人でカメラ片手に、その土地のたくさんの人に触れ合い、素晴らしい絶景を写真に収める……。

当時は「おひとり様」なんて言葉もなかったため、周りからは「寂しい人」とか「変わった人」と言われた加奈子でしたが、そんなことは彼女にとってどうでもいいことでした。

加奈子はゴールデンウィークに東北を周る旅行の計画を立てました。

三泊四日の荷物を背負い、飛行機に搭乗。

その荷物の中には、ペンフレンドだった彼が送ってくれた写真も入っていました。

空の旅を満喫している間、加奈子はその写真を一枚一枚眺め、ペンフレンドだった彼とのやり取りを思い出していました。

あれから手紙は途絶えてしまったけれど、もしかしたら奇跡が起こってまだ彼は元気かもしれない……。

そんな淡い期待も少し抱いていました。

空港に到着し、すぐに目的のバスに乗る加奈子。

一時間ほど揺られて現地に着くと、そこには大きな滝がありました。

(彼もここにいたんだね……。)

彼からの最後の手紙に添えてあった一枚の大きな滝の写真を見ながら、加奈子はカメラを構えました。

 

 

aoyama著

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