冴えないわたし
ヒロミは契約社員として百貨店で働く28歳。
業務は催事関係が担当で、それなりに楽しく、満足していた。
しかし、百貨店で働いていると言っても、周りでキラキラと輝く職員に比べたら、地味で冴えない自分に、ヒロミはコンプレックスをもっていた。
「容姿はこんなだし、出会いなんてないだろうなー」
そんなことを考えながら、日々の業務をこなしていた。

出会い
催事の内容が変わることに伴い、短期で何名か派遣・アルバイトさんが入ることになった。
「わからないことだらけだろうし、丁寧に教えてあげたいな」
どんな人がくるんだろうとドキドキしながら、ヒロミも新しくて慣れていない催事内容に右往左往しながら、あれこれ考えていた。「まぁでも、来るのは女性でしょ」
ヒロミの予想通り、ベテランのアルバイトの女性や、「初めて百貨店で働くんです」という女性の方が派遣された。
しかし、予想に反して男性が1人、入ってきた。

「タケルです。よろしくおねがいします」
タケルは爽やかで整った顔立ち、コミュニケーション能力も高く、漫画に出てくるようなイケメン青年。いかにもモテそうだった。
「住む世界が違うんだろうなぁ〜〜」
ヒロミは少し苦手意識を持ったが、タケルがうまく話をふってくれたりしたので、ヒロミは緊張がほぐれ、コミュニケーションをとることができた。
笑った顔が、かわいいな。
ヒロミは隣で話しをするタケルの顔を横目でみながら思った。
契約最終日
タケルとは業務以外では関わることがなく、得になにもないまま、あっという間にタケルの契約最終日がきた。
「ヒロミさんは、映画とか見ます?」「はい、好きでみますよ!人並みですが」
お客さんがいないタイミングで、2人は映画の話をした。
「あれは見ました?最近話題になってる○○○」
「あぁ!それわたしもちょっと気にはなってるんですよねぇ」
「俺、今度いこうと思ってて。でも一緒に行ってくれる人がいなくて・・・」
「そうなんですね・・・」
「1人でいくのは寂しいなーって」
「あー。わかります」
「・・・・」
・・・・・・もしかして、誘われてる?
ヒロミは一瞬思ったがすぐに「いやいや、ありえない」と、その考えを振り払った。こんなイケメンが、自分なんかを誘うわけがない。そもそも、会話だってそれほどしているわけじゃない。勘違いにもほどがある。
でも、ヒロミは心のどこかで、ずっと思っていた。
こんな人と付き合えたらいいな。付き合ってみたいな、と。

でもこれも彼にとってはコミュニケーションの一貫なんだろうし、そもそも、こんなに魅力のある人なら、彼女だってもういるに違いない。
でも・・・。
彼のような人と出会えるチャンスなんて、これから先、あるんだろうか?
そう思った瞬間、ヒロミの中で覚悟が決まった。
「あの・・・・!!よかったら、その映画、一緒に、行きませんか?」
「え?!」
タケルは大きく目を見開いた。戸惑っているようにも見える。
「あ!!!!いや!!!!私も気になってたので・・・!!!!!!!どうかなーと・・・!」
失敗した!!!!!やっぱり私の勘違いだった!!!!!
恥ずかしさと後悔でタケルに顔を向けることができず、ヒロミはうつむく。
しばらく、店内の音楽だけが響いた。
「・・・まいったな」
ほら。
ヒロミは泣きそうになるのを必死にこらえた。
「そんなつもりでいったんじゃないんだ」「彼女がいるんだけど、この映画に興味ないみたいで・・・」
なにを言われても、きっとヘコむ。初めて、自分から勇気をだした人からの否定の言葉だ。きっと、ヘコむ。
「それ、俺から言おうと思ったのに。ヒロミさんに言わせるなんて、カッコつかないな」
え?
ヒロミが顔をあげると、タケルは頭を掻きながらうつむいていた。
「しかも、めちゃくちゃうれしくなってるって・・・ほんと、カッコつかないな」タケルはものすごくうれしそうな顔をしながら、ヒロミを見て笑った。
満面の笑み。
それを見ると、ヒロミは胸がギューッと縮んだ。
この人と・・・この人がいい。付き合うなら、この人がいい。
二人はしばらく、お互いを見つめ合った。

約束のデートで
それから数日後、2人は約束どおり、デートをした。
映画を見て、食事をするというテンプレートなプランだったが、ヒロミにはなにもかも新鮮に感じた。それはきっと、タケルと一緒にいるからだろう。タケルといると、いつもの景色が違って見える。こんな感覚は、久々だった。
「今日はありがとう。とても楽しかったです」帰り際、駅の改札付近で笑顔でヒロミはお礼をいう。
しかし、タケルはなにか言いたげに黙っている。
なにか、不快な思いをさせてしまったんだろうか。
そんな不安がふと湧き上がった。
「・・・あのさ・・・」タケルは重たそうに口を開いた。
ヒロミは次の言葉を待った。手に力が入る。
「・・・こういうことは、やっぱりちゃんと言葉にするもんだよな」
「え?」
「ヒロミさん、俺と、付き合ってください!!!!!!」
まっすぐ、タケルはヒロミに右手を伸ばした。
ヒロミは一瞬、頭が真っ白になった。
まさかこんな自分が、映画のヒロインのようなシチュエーションを味わうなんて。
ヒロミは嬉しさのあまり、泣き出した。それをみたタケルはびっくりして、どうしていいかわからず、オロオロしている。
そんなタケルをみると、なんだか可笑しくなった。
ヒロミはタケルの右手をギュッと握った。
「もちろんです・・・!!付き合うなら、あなたがいいと思ってたの」
タケルは徐々に笑顔になり、優しくヒロミを抱きしめた。

tool著









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