私には恋愛経験がほとんどありません。
人と恋愛の話をするのは好きですし、恋愛相談を受けることが多いものですから、一丁前にその人の恋愛に私なりに助言したりすることもあります。
けれど、そういった相談を受けているとろくに恋愛経験のない私のアドバイスが参考になるのだろうかとふと思うことがあるのです。もちろん、適当に助言するわけではなく、客観的に私がその立場だったらどうするだろうと真剣に考えて助言をするのですが、やはり恋愛経験を実際に積んでいない自分にはわからないことは当然多いはずです。
そんな私ですが、一度、「人を好きになる気持ち」について深く考えることになった時期がありました。

本屋のアルバイト
大学生一回生の頃、とにかく暇で仕方がなかったのを覚えています。
私の入学した大学の学部が随分緩い学部で、とにかく課題をこなして、定期試験を失敗しなければ単位を落とすことはそうそうありません。
なので、自分から大学生活の範囲外で、なにかしらの「やること」を見つけ出さなければ本当にやることがない生活でした。
今思えばあまりにも贅沢な時期なのですが、当時の私はその退屈さに苦痛すら感じて、それまで経験したことのなかったアルバイトをやってみたいと思うようになったのです。
自分から「働きたい」なんて今の私からは考えられませんが・・・。
そうして、そこそこ大きな本屋のスタッフとして、不慣れな接客業に挑戦してみることにしたのです。

はじめての仕事仲間
その本屋のアルバイトで、私は初めて「仕事仲間」ができました。
当時私は19歳でしたが、私と同じ大学生のアルバイトが数人いて、私のようなアルバイトの研修をする社員の方も5人以上はいたと思います。
やはり本屋という職業柄なのでしょうか。
大学生の若い従業員も皆大人びていて、私のミスや質問にも丁寧に対応してくれる、とても馴染みやすい職場でした。
そのアルバイトの中で、もう勤務6年にもなろうという大ベテランの男性がいました。
彼は私から見ると眩しいくらいに明るくまさに職場のムードメーカーで、仕事においても当然勤務6年にもなりますのであらゆるトラブルに対応する方法は知り尽くしており、労働経験もなにもかも初めてで右も左もわからなかった私には一気に憧れの存在へとなりました。
とりあえず、業務内容でなにか困ったときには彼に教えを乞えばほぼ的確に望んだ答えをくれますし、研修で質問責めにしようと嫌な顔ひとつしないのが心の広さを感じさせます。
また、本屋といえど、大型デパートの中の一角であり、それなりに大きな本屋だったために客層も広く、ほぼ毎日のようにクレーマー紛いの厄介な客が訪れます。
私はクレーム対応が本当に苦手で、対応した後は露骨に落ち込んでしまうのですが、彼は厄介な客に絡まれているときにはすかさず声をかけてくれ、助けてもらったことは数えきれないと思います。
誰かがミスをして落ち込んでいても「俺もよくやったわ」と従業員をケアしてくれていました。
そのような細かな気遣いは、勤務を始めて長く経つベテランだからこその余裕というのもあるのでしょうが、将来の私に果たしてできるだろうかと思うほどに立派な上司です。
おまけに、彼はよく笑う人で、シフト上彼一人がいるかいないかで職場の雰囲気も変わるようなムードメーカーです。
本屋で働く従業員の人たちは良くも悪くも大人びた性格の人が多く、そのような性質を持つ彼の存在は貴重なものでした。
業務内容が案外ハードでお客様から厳しい言葉を受けて暗い空気になることも少なくない本屋の職場では大変ありがたいもので、従業員の皆から慕われていたことは間違いありません。

恋なのか?
そんな完璧に近い人だったので当然私も彼が好きでした。
心から異性を尊敬する経験がなかったものですから、当時の私はその感情が恋なのかと思い困惑しました。
なにしろまともに恋愛をしたことがないせいで、大抵の人は中高生で終わらせるであろう葛藤をそのときしていたのです。
悩みに悩みぬいた挙句、そのときの私は、それは恋ではないという結論に至ったのです。
何故なら私は彼とそれ以上の関係性を求めようとは思わず、その現状に満足していたのですから。
しかしそこに至るまでにかなり少ない経験と知識の中で時間を費やしたのを覚えています。
そんな結論をだした私ですが、彼が会社との契約期間を満了となり、仕事を辞めていくことを知ったときは多大なショックを受け、しばらく立ち直れない心境になったことを覚えています。
辞めていった彼を超えるような尊敬できる人は未だに身近で現れていませんが
やはりあれは恋だったのだろうか・・・
と今でもたまに考えてしまうときがあります。
721著著









コメント
コメント一覧 (1件)
こちらの作品は、本屋のアルバイトで出会った男性への想いについてのエピソードです。
著者は恋愛経験が少ないとしながらも、人を好きになることについて深く考えるきっかけとなる出来事を経験していました。
大学1回生で大きな本屋でバイトを始めた彼女は、そこで多くの仕事仲間と出会いました。
その中に大ベテランの彼がいて、完璧でムードメーカー的存在の彼のことを尊敬の眼差しで見ていました。
彼へ対する思いが恋なのか?恋愛経験が少なかった彼女は悩みましたが、それ以上の関係を求めず満足していたことから恋ではないと結論付けます。
しかし彼が仕事を辞めた時は多大なショックを感じしばらく立ち直れずにいたことから、本当に恋ではなかったのか?と今でも考えてしまうのでした。
アルバイトで出会った先輩の男性への想いが恋か憧れかで悩む女性の心情が描かれています。
恋愛経験が少ない中で感じる異性への尊敬の念がただの尊敬なのか恋愛なのかで悩む姿は、純粋で素直な心情が反映されており人柄の良さが伝わってきます。
尊敬できる人との出会いによって自分の感情に深く向き合い成長する姿が描かれた素晴らしい作品です。
検収者 kitsuneko22
㉕kitsuneko22-11