誰かを傷つけて手に入れても幸せにはなれない!彼との出会いで学んだこと

人を好きになること。それは「この人を好きになろう!」と決めて好きになるものではない。

気がついたら好きになっていた・・。きっとみんなそうだと思う。

顔が好み。趣味が一緒。好きな食べ物が同じ・・。

好きになる時、きっかけは人それぞれ。

でもその相手には、すでに他のパートナーがいたら?

「他の人のものだから好きになるのはやめよう」そう思うはず。

だけど、そう頭ではわかっていても、気持ちを切り替えるのは簡単ではない。

目次

年上の後輩

私は広告雑誌の出版社で働く武藤麻美25歳、独身。

大学を卒業してから3年間この職場で働いている。

仕事にも慣れてきて、楽しいと思えるようになっていた。

そんなある日、

「今日から働いてもらうことになった佐々木幸匡くんだ。前職では営業をされていたそうだから。今日から一員としてがんばってもらうので、みんなもよろしく。」

「はじめまして、佐々木幸匡と申します。今日からみなさんよろしくお願いします!」

これが私と彼の出会いだった。

「武藤さん、ちょっと」

課長に声をかけられ振り返る。

「新人の佐々木くんの教育係だけど、武藤さんにお願いしたい。」

「佐々木です。どうぞよろしくお願いいたします。」

深々と頭を下げられ私も慌てて頭を下げる。

「こちらこそよろしくお願いします。」

「じゃあ、後はよろしく頼んだよ。」

そう言って去っていく課長。

私は彼の教育係をやることになった。

仕事には慣れてきたとはいえ、教育係は初めての経験。

とても緊張していたが、転職で中途採用の彼はビジネスマナーもしっかりしていて私の方が教えられることも多かった。

「佐々木さんは28歳なんですね。奥さんいるんですか?」

「うん、3歳になる娘もいるよ。」

そう言って楽しそうに娘の写真を見せてくる。

彼はとても話しやすい人柄だった。

原稿締め切り間近になると残業が当たり前だったが、そんな時は二人でよく食事に行った。

気が付けば、私もため口で話すくらい仲良くなっていた。

年上だけど気を使わなくていい、でもしっかりしていて頼りになる。

そんな彼に私はどんどん魅かれていることに気が付いた。

でもこの時は、まだ自分の中で抑えておける自信があった。

この先どうなるかなんて考えもしていなかった。

止められない気持ち

自分の気持ちに気が付いてからも、私は彼と何も変わらず接していた。

そのつもりだった。

そんな私に同僚の幸子が話しかけてくる。

「ねぇ、麻美ってさ、佐々木さんのこと好きでしょ?」

突然のことになんて答えていいのかわからなくなる。

「えっ?そんな訳ないよ。だって相手は妻子持ちだよ。好きになっても先がないじゃん。」

そう言ってごまかす私。

「もうバレバレだよ。明らかに佐々木さんと一緒にいるときの麻美は違うもん。もう目がハートというか・・・」

そこまで聞いて私は仕事に戻る。

「そんなこと言って、佐々木さんだってやりづらくなるじゃん!変な噂とか流さないでよね。」

席についても動揺が止まらない私。

そんな私の様子に気が付いた彼が

「武藤さん、どうかした?具合悪いなら早退したら?」

私の顔を覗き込んで心配してくれる。

その動作に私の顔は更に赤くなる。

「本当に大丈夫!」

そう言って席を立った。

ドキドキが止まらない。

抑えることができない自分の気持ちに気が付いてしまった。

久しぶりの胸の高鳴りに、これから起こることを想像することもできなかった。

もっと彼と一緒にいたい

何でもないふりをしながら一緒に仕事をするのは、思っていたより辛かった。

「武藤さん、一緒にご飯食べに行かない?」

いつもと何も変わらない彼。

幸子に気持ちを気づかれてからというもの、そんな彼の態度に悲しくなる自分がいた。

『私はこんなに辛いのに、佐々木さんは何も変わらない。なんとも思われていないんだろうな。』

そう感じて彼に冷たく当たる。

「行かない。お腹すいてないし。」

彼の方を見向きもしないで断る。

「そっか・・。」

残念そうに一人で外出する彼を横目で見送りながら

『ちょっと冷たかったかな・・。』

反省しながら自己嫌悪に陥る。

最近はこれの繰り返しになっていた。

本当は誘われたら嬉しい。一緒に行きたい!

でも一緒の時間が長くなればなるほど、私は欲張りになっていた。

もっと一緒にいたい。仕事中じゃない彼を知りたい。私しか知らない彼が見たい。

でもそれは叶わない。

だって、彼には奥さんがいるから・・。

私はギリギリのところで気持ちを抑えていた。

ことあとに起こることも知らないで・・。

溢れだした思い

その日、就業時間が過ぎても私はなかなか仕事が終わらなかった。

「お先に失礼します。」

みんな自分の仕事が終わって帰宅していく。

会社に残っているのは、私と彼の二人だけ。

「俺こっちやるから。」

そう言って私の仕事を手伝おうとする彼。

「いい。私の仕事だし。早く帰れば?奥さん待ってるよ。」

言ってから後悔する。

『今の言い方は良くなかったかも・・。』

すると

「最近武藤さん、俺のこと避けてるよね。確かに迷惑かけてるかもしれないけど、怒らせるようなことしたかな?」

そう言われハッとして彼の方を見ると、すごく悲しい顔をしていた。

そんな彼を見て私は自分の気持ちを抑えることが出来なくなってた。

「なんでそんなに優しくするの?私ばっかりこんな辛い思いしなきゃいけないなんて!なんでわかってくれないの?私はこんなに佐々木さんが好きなのに!」

気がついたら彼に向かってそう叫んでいた。

「帰るっ」

そう言って背を向けた時、彼に腕をつかまれ引き寄せられた。

「俺も。」

私は何が起こったのか理解できなかった。

つかの間の幸せ

少しの時間が経って、ようやく抱きしめられていることに気が付いた。

「俺も武藤さんのことが好き。」

現実なのか何なのか、頭がパニックになっていた。

それでも感じる彼のぬくもりが、これは現実なんだと思わせてくれる。

その時の私はもう彼が既婚者なんてことは気にならなくなっていた。

はたから見ればただの不倫だと言われるのだろう。

でももうそんなこと、どうでもよかった。

彼と一緒にいられるだけで幸せだった。

仕事終わりは二人で食事に行き、休日は仕事と理由をつけて二人で出かけた。

本当に幸せだった。

周りのことが全く見えなくなっていた。

私の幸せな時間の裏で、傷ついている人がいることを考えることも出来なくなっていた。

そう・・、この幸せが続くはずなんてなかったのだ・・。

突然の終わり

終わりの日は突然訪れた。

「ごめん。奥さんにバレた・・。」

ある日の仕事終わり、そう彼に告げられた。

心臓が跳ね上がり、鼓動が速くなる。

「それで、麻美に会って話がしたいって言ってるんだ。」

時が止まったような感覚だった。

もちろん、この時間が続くはずがないって頭ではわかっていた。

だけど、心のどこかで彼との将来もあるのではと思い始めている自分がいた。

そんな訳はなかった。

彼には奥さんがいる。

私が彼と過ごしている間、奥さんはずっと苦しんでいたのだ。

『これから私はどうなるのだろう』

そう思うと恐怖で体が震えた。

人を傷つけた報いを受けなければと思いながらも、この恐怖から早く逃げ出したかった。

固まる私を見て、「本当にごめん」とずっと謝っている彼。

でもそんな彼の声は私には届かなかった。

『どうしよう・・どうしよう・・』

もう私の頭の中はそれでいっぱいだった。

私に与えられた罰

彼に告げられてから数日後、私は彼の奥さんと会うことになった。

恐怖でここ数日は眠れていない。

約束の場所へ行くと、彼とその隣には初めて見る奥さんがいた。

白い肌に華奢な体格で今にも消えてなくなるんじゃないかと思った。

「初めまして、佐々木がお世話になっています。」

先に声を出したのは奥さんだった。

「武藤と申します。この度は・・本当に申し訳ございませんでした・・。」

緊張で声が震えた。

「あなたのことは佐々木から聞いていますが、今日は武藤さんのお気持ちを確認したくてお時間を作っていただきました。それで武藤さんは今度どうしたいとお考えですか?」

私はなんて言っていいのかわからなかった。

私が何も言えないでいると奥さんがこう続けた。

「佐々木は私と離婚はしたくないと言っています。だからあなたとは今後関わらないと、そう言っていますが武藤さんのお気持ちはどうなんですか?」

奥さんの言葉に頭を殴られたような衝撃が走る。

彼を見てもうつ向いているだけ。そんな彼を見て私との将来は考えていなかったんだと悟る。

「あ、あの・・本当にすみませんでした・・。」

ショックと恐怖でそれしか言葉が出ない。

そんな私を見て奥さんが

「本当であれば慰謝料を請求したいところですが、まだ若いあなたにそこまでしようとは思っていません。ただ、あなたが佐々木と過ごしている間、私と娘は寂しい思をし苦しみました。あなたの行動は2人を不幸にしたんです。それだけは忘れないでください。」

そう言われたとき、私は我慢していた涙が止まらくなった。

「・・・・・はい・・。すみませんでした・・。」

そう言って頭を下げることしかできなかった。

帰宅してからも何も手につかなかった。

浮かれていた自分が恥ずかしい。

一瞬でも彼が私を選んでくれるのではと思った私は愚かだった。

彼は私に何も言ってはくれなかった・・。

新たな旅立ち

それから彼は会社を辞めた。

奥さんからは、何も音沙汰はなかった。

本当はやっぱり慰謝料を請求されるのではないかと内心ビクビクしていた。

でも本当にあの日以来、何もなかった。

あれから彼とは仕事のこと以外の会話はなかった。

最後の別れの言葉も何もなく終わった。

私は一体彼の何に魅かれたのだろう。

彼が私のことをどう思っていたのか、ただの遊び相手に過ぎなかったのか、それとも少しでも本気で思ってくれていたのだろうか。

今となっては確かめるすべも、意味もない。

ただ、きっとあの時の彼の態度が全ての答えなのだろうと思う。

私もしばらくして会社を辞め、この地を離れることにした。

人を苦しめて手に入れた幸せの報いは、ちゃんと受けなければいけないのだ。

彼との思い出は虚しさだけが残った。

同じ過ちは二度としない。

『この次は私のことを大切に想ってくれる人と出会いたい。もう人を傷つける恋愛はしない』

そう心に決めて新天地を目指し、空港へと向かうのだった。

 

mkounuy著

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • mizuizu7215さん

    5記事目の投稿をして頂き有難う御座います。

    それでは早速検収をさせて頂きます。

    今回の作品はある出版社で働く女性が会社にも慣れて仕事も面白くなってきている頃に理想的な男性と出会う話しです。

    自分より一寸年上で優しく安心感のある男性が同じ部署に配属されました。

    彼等はお互いに意識するようになるには時間は掛かりませんでした。

    しかし男性は既婚者であり、中々一線を越えることは無かったのです。

    ひょんな事から彼女が彼に告白をしてしまいます。

    勿論彼も同じ気持ちだったようで、彼等は急速に親しくなってしまいます。

    でも彼の奥さんは気づかないはずはありません。

    知力に富んだ彼の奥さんの配慮で彼女は許されて穏便に別れる事となります。

    ここの辺りが読者にとって見応えのある内容になっています。

    そして共に居づらくなってしまった会社を前後して彼等は退職します。

    男性にとっても、やはり奥様と子供に対する愛情の方が強かったのでしょうか。

    女性は若い時代に経験した不倫が如何に大きな代償を払う事になりかねないと言うを身をもって経験した事でしょう。

    構成と流れが分かり易く魅力的な内容です。

    有難うございます。

    それでは今回の検収をこれにて完了と致します。

    次回の6記事目も楽しみにお待ち致します。

    井上保夫

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