平穏か恋愛か

友人に恋人ができた。

正直焦っていた。私は最近25になった。性別は女だ。同級生からは結婚しただの子供ができただのそんな話題がちらほらと出始めていた。SNSをやっていると特にそんな幸せな投稿ばかりが目に付く。

一方例の友人といえば適当に遊んでいるばかりで特定の恋人を作らないようなそんなタイプだった。彼女とはよくファミレスで、「結婚するには穏やかな人が良いよね。だけれどそういう人はつまらないよね」「せめて25では結婚していたいよね」と、恋愛と結婚についてよく話していた。

私は彼女に比べるとそこそこまともな恋愛をしてきた。いつだって私には彼氏がいて友人は彼氏をつくるでもなく何人かの男性と遊んでいたのだった。だが今の私は恋人もおらず出会いの場に出向くこともない。職場と家の往復、たまに図書館へ行って本を読んだりと地味な生活をしている。同級生の結婚ラッシュ、目の前の友人が身を固める予感などが私の不安や焦りを煽っていた。

友人が例の恋人と出会ったのはマッチングアプリでのことだったと聞く。私のイメージするマッチングアプリは、まだ“出会い系”なんて呼ばれていたころのもので止まっている。いかにもいかがわしいとか、怪しい、何かに巻き込まれるのではないかと不安になってしまうような出会いのツールであった。しかしどこかで焦りを覚えている私は友人にアプリのことを根掘り葉掘り聞いた。どのアプリを使っているのか、写真はどの程度顔がわかるものにしたかなど、友人は細かく教えてくれた。友人に先を越されるかもと焦りを覚えた自分が恥ずかしくなった。話すうちにアプリへの抵抗も薄くなり、恋人を作りたい気持ちはあるがマッチングアプリに手を出す勇気はないと友人に話すと、彼女は「登録するくらいのことはやってみたらいいじゃない」ととても簡単に言ってのけた。

彼女のこの一言に背中を押され、まぁ、登録するくらいのこと…と思いとりあえず登録した。

 

初めてみるととにかくメッセージのやり取りがとにかく面倒くさかったが、一番メッセージが苦ではなかった適当な人と会うことにした。彼の住む場所は私の家から1時間ほどと微妙に離れており、マッチングアプリでの出会いに気乗りしていなかった私はこちらへ来てもらうことにして、近所の適当な飲食店で待ち合わせた。

彼に会ってみると顔は割と好きだったが雰囲気や系統は全くタイプとはかけ離れたものだった。かなりコワモテなファッションだったのだ。

心の中で早く帰りたいなぁとつぶやきつつも、飲食店へ入り食事をしだすと会話は意外にも盛り上がり、それなりに楽しかった。話によると、彼は元暴走族とのことだった。それでこのファッション、と納得した。食事をする中で彼の人となりがなんとなく見えた。なんだ良い人じゃんとまではいかないにしても、見た目通りの性格ではないことは確かだった。第一印象の良くなさで得をすることもあるようだ。

彼はかなり私のことを気に入っているように見え解散した。また連絡してね、俺なんの連絡もなかったら嫌だよ。といって帰っていった彼をかわいいと思ってしまう自分がいた。

何度かデートを重ねたころ、一緒に花火大会へ行った。彼からは付き合おうという一言はなかったので、こちらからどうするの?と聞いた。彼からは、今日は31日なので記念日にするには微妙だから明日言わせてほしい。と言われた。

この怖そうな見た目の彼がそんなことを気にしているだなんて…

正直私はこういうギャップに弱い。いつもまじめな生徒が遅刻をしないのは当たり前だがヤンキーが遅刻せずに一週間学校へくると急に生まれ変わったかのように見えるあの現象に弱いのだ。

彼はこれまで接してきたどのタイプの人間とも違っていた。元暴走族ということもあってか、普通に生活していては遭遇し得ない修羅をくぐってきたのだと思う。実際にそんなような話もいくつかきいた。そんな彼の目を読むことはとてもたやすくない。言ってしまえば普通の人とは違う心臓を持っているように見えるのだ。そんな彼と過ごすのは新しい感覚の連続で怖くて楽しい。新しいものを自身の中に受け入れる瞬間は刺激でいっぱいなのだ。私が彼にはまっていくことに時間はかからなかった。出会ったばかりの頃は確かに彼の方が私を好きな感触があった。今では私の方が彼にのめりこんでいる。元暴走族でコワモテのキケンな香りのする男に、一種の色気のようなものを感じてしまっているのだ。

 

理想の結婚相手である穏やかな優しい男はいい男だ。だけれどそういう男はつまらない。友人とのファミレスでの会話がふと頭をよぎる。

 

k559著

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回の作品は、マッチングアプリで出会った男女のお話です。

    25歳になって同級生たちの結婚ラッシュで不安を感じていた彼女。
    彼女には、特定の恋人を作らないような性格の友人がいましたが、その友人までも恋人を作り始めて焦っていました。
    友人はマッチングアプリで恋人と出会ったらしく、その友人の勧めで彼女もマッチングアプリを登録しました。
    彼女はそこで適当な人とメッセージを交わし直接会ってみることにしました。
    彼は顔はタイプでしたが、服装などがかなりコワモテファッションの男性でした。
    彼は元暴走族でコワモテではありましたが、意外と明るい性格で話が盛り上がり、彼女はその彼のギャップに惚れてしまいました。
    かつて友人が言った「穏やかで優しい男はつまらない」という言葉がふと彼女の頭をよぎりました。

    平穏な恋愛を続けてきた女性の価値観の変化が描かれた面白い内容です。
    自分とは異なる価値観の友人に触発され、マッチングアプリなど今までに触れなかったものにチャレンジし、出会いから学びを得ている前向きさがとても魅力的です。
    人は見た目だけではなく内面も重視するべきということが分かる素晴らしい作品です。

    検収者 kitsuneko22

    ㉓kitsuneko22-10

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