
中学の頃、好きな女の子がいました。中学の頃の彼女はそれはそれはモテて仕方のない人でした。ある時は同じ日に3人から同時に告白されていたり、彼女の恋人になる順番待ちがあったり、彼女に告白するためだけの定番スポットもありました。

彼女は男子生徒からとにかくモテる反面、女子生徒からの評判はすこぶる悪かったこともよく覚えています。自分の付き合っている彼氏が、彼女と隣の席になってしまうと必ずとられてしまうという噂がありました。彼女にその気がなくとも、男は皆席が隣同士になってしまうと、自分の恋人を差し置いて彼女に振り向いてほしいと思ってしまうのです。彼女は恋のライバルとしてはあまりにも大きすぎる脅威でした。
私も例に漏れることなく彼女のことが好きでした。いつか彼女と付き合えたら、女友達から嫌われる彼女をかっこよく守ってやることができたら…なんて考えていた時期もありました。しかし当時の私はおそらく学校の中で一番彼女と親しい友人だったので、この関係を崩すまいと自分の気持ちを言えずにいました。
当の本人は自分に好意を持っている男にはまるで興味がないようでした。誰と付き合うでもなく、誰の告白にもときめく様子を見せず、誰に対しても恋愛感情を抱いていないようでした。恋愛という新しい概念が与えられたばかりの私たちにとって、恋愛に対する彼女のハングリーの無さは珍しく見えました。中学生にしてはあまりにも落ち着き払っていて、話すと楽しいのに他人に興味なさげな彼女に、おぼこいぼくたちは夢中だったのです。

私はあるとき、彼女を花火大会に誘いました。当然たくさんの人から誘われているはずなので、断られるものと思っていました。しかし、「いいよ」と誘いに応じてくれたのです。
「楽しみだね」彼女は言いました。思えばいつだってそうでした。なかなか振り向いてくれる気配のない彼女に対して心が折れかけてくると、決まって絶妙なタイミングでくるりとこちらへ振り返り、とびきりの笑顔を向けてくるのでした。馬鹿な中学生男子は舞い上がります。
そんな喜びもつかの間、花火大会が近づくと彼女は、別の人も誘っていいかときいてきました。こちらがどんな思いで彼女を花火大会へ誘い、どんな気持ちで当日を待ち、どんなに楽しみにしていたか、彼女には興味がないようでした。
「どうして別の人も誘うの?」
「どうして?いけない?私はその方が楽しいと思ったから誘ったのに」
「俺と二人だとつまらない?」
彼女と少しもめました。私はだんだん彼女が思い通りにならないことにイラついて
「お前中心に回ってないんだよ、はじめから誰かを誘うなんて話じゃなかっただろ!」
と怒声を浴びせました。彼女はきょとんとして「それならあなたが回せばいいじゃない」と言ってのけたのです。この世界を私中心に回せばいいじゃない、あなたが。と彼女は言っているのです。
僕はそのとき、この人には適わないと思いました。二人で花火を見て、少しロマンチックだなんて思いながら、いつかこの人が自分のことを好きになるのではないかと期待していたのです。
結局花火大会へは彼女のことが好きなもう一人の男子と三人で行くことになりました。三人で手をつないで花火を見ました。とても楽しそうに思えないかと思いますが、彼女の底抜けの明るさとコミュニケーション能力の高さでとても楽しかったのでした。
彼女は、こちらがイラついて怒声を浴びせたことなどなかったことかのように振る舞うのでした。

大人になって、同窓会で彼女に会う機会がありました。中学を卒業してからは別々の進路へ進んだので彼女の近況を知ることはありませんでした。彼女は地元の有名な会社の社長夫人となっていました。
曰く、その旦那の良いところは人として接してくれるところだとのことでした。彼女にはずっと友達がいませんでした。彼女に向けられる興味はいつだって恋愛感情か嫉妬のみで、友情がどんなものかわからなかったのだそうです。私が思いを伝えずにいたことで彼女は友情の一端に触れることができたのです。
私はあのとき、君のことを好いていたよと伝えると、それは知っているようでした。それでも私との関係を断ち切らなかったのは、少しだけ見えたような気のする友情にすがっていたからなのかもしれません。
彼女の心の奥底にあるわびしさを垣間見た気がしました。花火大会での出来事は彼女のなかで私との友人としての時間が終わってしまう予感からきていたのだろうと今では思います。過ぎてみるととても美しい私の中学時代の思い出です。
k560著









コメント
コメント一覧 (2件)
pr
今回の作品は、中学時代に好きになったモテる女の子のお話です。
彼女は男子からモテる一方で、女子からの評判が悪く友人がいませんでした。
筆者も例外なく彼女が好きな男子の一人でしたが、彼女の一番親しい友人だった関係を崩したくなくて、自分の気持ちを彼女に言えずにいました。
ある時、筆者が彼女を花火大会に誘うと、彼女は誘いに応じてくれました。
しかし彼女は別の男子も誘いたいと言い、彼女に怒声を浴びせてしまいます。
結局その男子も合わせた3人で花火大会へ行くことになりましたが、彼女のそこ抜けの明るさでとても楽しむことができました。
大人になり同窓会の場で再会すると、彼女は有名な会社の社長夫人になっていました。
曰く、旦那の良いところは、彼女を人として接してくれるところだそう。
今まで恋愛感情と嫉妬ばかりを向けられてきた彼女にとって、友情はどういうものか分からないものでした。
彼女が筆者との関係を断ち切らなかったのは、少しだけ見えた気がする友情にすがっていたからかもしれません。
筆者と彼女の間の複雑な人間関係が非常に繊細に描かれています。
学生だった筆者が抱く彼女への感情の葛藤と、彼女が人間関係に抱く寂しさがリアルに表現されていて、読者も共感できる内容です。
当時を振り返り、美しい思い出として締めくくられていて、とても感動的で感慨深い印象を残す作品です。
検収者 kitsuneko22
㉔kitsuneko22-10