惹きつけられた1枚のアート !これを描いたのは貴方なの . . .

一枚の絵

 

「あ・・・!すごいきれいな絵」

クリサキ マナは足をとめ、一枚の絵を食い入るように眺めた。

その絵はブルーやグリーンを使った淡い色調の作品で、墨汁を紙の上から垂らしたような、どこか日本的な、それでいて西洋的な、なんとも言えない雰囲気を出している作品だった。

絵の感想ってなーんか抽象的になるんだよねぇ〜〜。

でもこの絵ほんといいなぁ〜〜〜落ち着く・・・。

 

マナが来ていたのは職場近くのビル内にある画廊の1階フリースペースで、そこはアマチュアの作家がお金を出して借りれるスペースになっていて、そこへ自分の作品を展示することができるらしかった。

らしかったというのは、そこまで詳しいことをマナは知らないからだ。

 

「・・・アンリ・エリック。外人さんの作品か」

小さい机に置かれた名刺をみてマナは妙に納得し、またシゲシゲと作品を眺めた。

「・・・なんとな〜く入ってみたけど、いいモノみつけちゃったな」

ふふっと笑い、マナは画廊を後にした。

 

カフェの店員

「へぇ〜!マナが画廊にねぇ〜〜。マナって絵に興味あったんだ?」

同僚のエミカは注文したカモミールティを飲みながら、マナが昨日持って帰った名刺をまじまじとみた。

エミカとはお昼休みにこうして外でランチをする。

「うーん、人並みだと思うけど。でもこの昨日みた作品はすごいいいなって思った!普段なら通り過ぎるんだけど、なんとなく入っちゃった」

「運命の出会いってやつねぇ〜〜」

運命・・・ねぇ。確かにそうかも。だって実際、なんか引き寄せられたし。

「あ!この作家さんのメールアドレスとか書いてあるじゃん!感想とか送ったら喜ぶんじゃない?」

「えぇ〜〜〜〜〜?!そこまでの勇気ないなぁ〜。どんな人かもわかんないし、なんか怖いじゃん。芸術やってる人って変わった人多そうだし」

「あははっ!まぁね」

「お待たせいたしました。カルボナーラとペペロンチーノです」店員の男性が注文した料理を運んできてくれた。

「ありがとうございます〜」マナが料理を受け取ろうと手を伸ばしたのをみて、店員の男性は一瞬躊躇したが、マナに料理を手渡した。

「ありがとうございます。お熱いのでお気をつけください」爽やかな笑顔をマナへ向ける。

あ、爽やかでいいなぁこの店員さん・・・。

髪型はマッシュで、髪色は明るめ。清潔感のある、どこか柔らかい雰囲気が印象的な人だ。

なんか落ち着くなぁこの人の雰囲気・・・。

店員の顔を眺めていると、彼の顔が一瞬強張ったように見えた。

あぁぁぁしまった!!私ってば何をそんなにマジマジと!!

しかし店員の視線は、マナが持ってきた名刺に向けられていた。

「・・・あの?」

「あ!申し訳ありません。手伝って頂き、ありがとうございました。ごゆっくりどうぞ」店員の男性はもう一度ニコリと笑い、厨房の方へ戻っていった。

・・・なんだろう?

 

感謝

あれからマナは、仕事帰りに画廊の1階へ顔を出すようになった。

自分でも不思議なくらい、アンリ・エリックという作家の作風が気に入っていた。

観るたびに作品の印象が変わるのがおもしろく、アートと呼ばれるモノが好きな人は、きっとこういったことも楽しみの1つなんだろうなと感じた。

 

ふと名刺の置かれた机に目を向けると、一冊の小さなノートが目に入った。

「何回も来てるのに、全然気づかなかった」

パラパラと中を見ると、どうやらそれはこの会場にきた人たちの感想を書くために用意されたものらしかった。

 

「゛とてもキレイな絵ですね ゛ ゛世界観がすきです ゛・・・・か。わかるなぁ」

少し考え、鞄からペンをとり、マナもノートに書き込んだ。

 

いつも仕事帰りに寄らせてもらっています。

アートが面白いモノだっていうことを、あなたの作品で知ることができました。

新しい世界を教えてくれて、ありがとう。

 

 

「・・・月並みだなぁ」

自分の語彙力不足に落ち込みながら、マナはノートを閉じた。

 

消えたアート。そして・・・

 

 

「あれ?!?!?!」

 

マナは同僚のエミカを連れていつものように画廊へいくと、アンリ・エリックの作品がなくなっていた。その代わり、違う作家の作品が展示されていた。

「そっか・・・。展示期間、終わっちゃったんだ・・・」

エミカは「ごめんね」とがっくりうなだれるマナの肩を叩いた。

「ネットで検索してみるよ。もしかしたらホムペとかあるかもだし!とりあえず、いつものカフェでご飯たべよ!」

「うん・・・そうだね。ありがと・・・・」

がっかりした足取りで、マナは行きつけのカフェへと向かった。

 

「えっっっっっっ??!?!ウソ!!!!!」

店に入った瞬間、マナはひどく驚いた。

あの絵が、アンリ・エリックの作品が、店内に飾ってあったのだ。

「あれなの?マナが気に入ってる作家の作品」

「そう!!!うわ〜〜〜!ここで見れるなんて思わなかった!!!!」

オーナーが気に入って買い付けたのかな。

なんにしても、行きつけのカフエで好きな作家の作品が見られるなんて、すんごい幸せ!!!

 

ニコニコしながら作品を眺めていると、あの爽やかな店員がマナたちのほうへ歩み寄ってきた。

「ご注文お決まりですか?」

「あっすみません、あの絵を見ていただけで・・・」

店員は作品のすぐそばに立っていたのだ。勘違いをさせてしまった。

 

店員はまた顔を一瞬強張らせて、マナを見つめた。

「・・・失礼ですが、以前この作家の名刺をお持ちでしたね。好きなんですか?この作家が」

 

「え?あぁ、はい!!すごく!私、今までアートって全然わからなかったんですけど、この作家さんのおかげで、その楽しさに気づくことができたんです」

店員は目を見開いた。

・・・なにかおかしなこと言ったかな?

内心焦っていると、店員はゆっくりとした口調で告げた。

 

「・・・いつも、会社帰りに作品を見に行ってらしたんじゃないですか?」

「え?!?!そ・・・そうですけど・・・え・・・なんで知ってるんですか・・・?」

「あ!いえすみません!ストーキングしてたわけではないんです!

その・・・」

店員は頬をポリポリと描きながら、言いにくそうにつぶやいた。

 

「・・・僕なんです。あの作品描いたの」

 

「・・・・え・・・・・・・・・えぇ〜〜〜〜〜〜?!?!?!?!?!?!?!?!

いや・・・っでも作家さんの名前って・・・っ」

「あれ、僕のペンネームなんです。創作活動してるときは、現実の自分と違う自分になりたくて・・・」

「はぁ・・・」

状況を整理するために頭をぐるぐると働かせる。

私の好きな絵を描いていた人は、行きつけのカフェの店員さんで、外人かと思ってたらそれはペンネームでバリバリの日本人だった・・・。

なんだか、おかしな話。

ぷっとこみ上げてくる笑いをこらえ切れず、マナは笑い声をあげた。

 

「すみません。がっかりさせちゃいましたよね」

「そんなことありません!あなたの作品、とってもすきです!」

食い気味に告げると、店員さんはふっと笑った。

「本名は、アイバ チハルっていいます。本当にありがとうございます。励みになります」

爽やかな笑顔を向けられ、はっとマナは気づく。

わたし、めちゃくちゃ恥ずかしいことを面と向かっていったんじゃ・・・・

 

自分の行動に恥ずかしさを感じていると、アイバは一度店の奥へ戻り、何かを手に持って戻ってきた。

 

「これ」

差し出したのは、一枚のはがき。展覧会の日時や会場が書かれている。

 

「個展をまたやるんです。よかったらきてください」

「わ・・・・!ありがとうございます!!」

「それから・・・」

「はい?」

「・・・・もしよかったら、作品の感想を、詳しく聞かせてくれませんか?今後の参考にさせてほしいんです」

 

「・・・・!はい!私で良ければ!というか、わたしのほうが色々アートのこと教えてほしいです!」

 

2人はラインを交換し、新しい予感に胸を弾ませた。

 

 

tool著

 

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