
初めに
今回は、私が職場で好きになった女性について話そうと思う。あれは、私がまだ妻と出会う前で、以前別記事で書いた、関西の加藤さんとはお別れした後。ちなみに、私は人見知りの消極的な性格に加えて、男性しか居ない職場で働いていたので、女性と話す機会はないに等しかった。

出 世
仕事も軌道に乗り始めて、会社から新規現場の立上げ責任者を任されることになった。しかし、右も左も業務がわからずてんてこ舞いなうえ、オーナーからはしょっちゅう呼び出されて注意を受ける羽目に。同時に慣れない部下への教育指導もあり、精神的にもホトホト参っていた。
唯一の癒しは、勤務する建物内にある“サンマルクカフェ”のコーヒーを飲むことだった。カフェの店員さんは全員女性で、4~5人の方が入れ替わり働いていたと思う。美味しいコーヒーを飲んでホッとするのも良いが、注文時に店員さんと世間話をする時間が、仕事を忘れられる気分転換にもなった。

石田さん
毎週そのカフェに通っていたところ、1人の店員さんが気になり始めた。年齢はおそらく私より上で、少しぽっちゃりとしたポニーテールの方(以下“石田さん”とする)。レジでしか接点はないが、醸し出す素朴な雰囲気。話している最中に、うつむき加減に照れながら笑う姿が可愛いと思った。
そこで、毎回石田さんに接客してもらうためには、どうすれば良いかを考えて、ある一つの結論にたどり着いた。【ローラー作戦】色々な曜日の様々な時間帯にコーヒーを買いに行き、彼女の出勤日と出勤時間をしらみつぶしに探るというものだ。

ローラー作戦
そうと決まればコーヒーを買いにいけばいいのだが、同僚に悟られないために、1日1~2回のみ買いに行くと決めた。とはいったものの、先週出勤していた曜日と同じ曜日・時間帯に行ったにもかかわらず、不発だったことも多々あった。
どれほどサンマルクにお金を注ぎ込んだかは、計り知れない。挙句の果てに、同僚から「そんなにコーヒー好きなんですか?」と言われる始末。「あぁ。そうなんだよね」とサンマルクのコーヒーを片手に返答している自分を見て、内心買いに行き過ぎたかと反省。それでも火曜日の夕方は、ほぼ出勤していることを突き止めた。

次の一手
出勤日が絞れたといっても、注文時に話す時間など知られている。しかも、後ろに人が並んでしまったら、そんなことも言っていられない。何とかお近づきになりたいと思い、連絡先を書いた紙を渡す作戦を考えるに至った。
時は火曜日の夕方。店舗がそろそろ閉め作業に取り掛かろうとする頃。お客さんもまばらで、レジ周辺の人影はクリアだ。よし!行くしかない。
私「こんばんは。コーヒーください」
石「はーい、こんばんは。」”コーヒーを淹れ始める”
私「・・・」『いかんいかん。このままじゃ普通にコーヒーを買うだけになってしまう。』
私「あのー突然ですいません。一目見たときから惹かれてしまいました。連句先を交換してください!」
石「えっ?!あ。えっ。」
私「これ。私の連絡先が書いてあります。連絡ください!」
石「あ・・・」
気持ちを伝えるまでの緊張と、周囲から見られているかもしれない恥ずかしさのあまり、紙を渡した勢いで、逃げるように店舗を後にしてしまった。その日は携帯電話を片時も離さず過ごしたものの、石田さんから連絡が来ることはなかった。

後 日
石田さんがカフェで勤務していたのを見掛けたので、結果を聞きに店舗を訪れた。一言「ごめんなさい」と言われた。他の店員さんがクスクスと笑っていたのが端で見えたので、恥ずかしさで逃げ出したくなったが、平常心を装うようにコーヒーを買って店舗を後にした。その日のコーヒーは、砂糖を入れたのに苦く感じた。
カフェの店員達を含めて『振られたからカフェに行くのを辞めた』と思われるのはカッコ悪いので、懲りずにコーヒーを買いに行く日々を過ごしていたが、会社都合で私は現場異動の命を受けた。それでも、異動前に石田さんと”あの時に振られた話”をネタとして話すことが出来たのが幸いだった。最後に彼女の笑顔が見られたからだ。
かれこれ8年程前の出来事なので、『もうあの店舗で勤めてることはないだろうなぁ』と思い出にふける。
t582著









コメント
コメント一覧 (2件)
pr
今回の作品は、喫茶店で出会った女性に片思いをした男性の物語です。
仕事が軌道に乗り、責任ある仕事を任されるようになっていた彼は、その仕事の重圧から精神的に参るような日々を送っていました。
そんな彼にとって唯一の癒しは、勤務する建物内にあるカフェでコーヒーを飲むことでした。
毎週そのカフェに通っていると、ある店員の女性が気になり恋をしてしまいます。
彼女と接近するため、彼は何度もカフェに通い彼女が勤務する日程を特定し、レジの際に彼女へ連絡先を渡しました。
しかし彼女から連絡が来ることはなく、後日カフェで直接「ごめんなさい」と彼女に言われてしまいます。
彼はその後もそのカフェに通っていましたが、仕事が異動になり通うことはなくなってしまいます。
彼は8年前のその思い出を振り返り、彼女のことを思い出すのでした。
消極的で女性に慣れない男性が、片思いの末に失恋してしまうまでのストーリーが描かれています。
彼女のことを好きになって行動する彼の心情がとてもリアルに表現されていて、人間味あふれる彼の内面に読者も共感するでしょう。
失恋という悲しい結果がポジティブに締めくくられており、作品が明るい雰囲気に引き立てられています。
検収者 kitsuneko22
③kitsuneko22-10