私の初恋は小学4年生の時。私は外で遊ぶのが大好きな子どもでした。男の子とも仲が良く、友達もたくさんいましたが、同じクラスのKくんだけは、いつも意地悪をしてきました。

「意地悪をしてくるいやな奴」
「やーい、巨人おんな!」
私が友達と話していると、Kくんはそうやって、よくからかってきました。
私は背が高くて、Kくんは小さめ。並ぶと少し見下ろしてしまうKくんを、私は軽くあしらっていました。
「くやしかったら、背のばしてみろ~!」
そう言い返すと、
「うるせー!」と言いながら、走り去ってしまうKくん。
そんなKくんを、「やたらちょっかいを出してくる、うっとおしい男子」として、私は思っていました。

「きっかけは忘れ物から」
ある日、私は漢字ドリルを忘れてしまいました。漢字ドリルは漢字の読み方や漢字を使った例文が羅列してあるもので、その日はそれをノートに写さなければなりませんでした。
運悪く、隣に席にいたのはKくんでした。
どうせドリルは見せてくれないだろう、と思っていると、
「ん!」
と言って、私の机に漢字ドリルを滑り込ませてきました。
「いいの?」
と、私が聞くと、Kくんはうなずきました。
「じゃあ一緒に見ようよ。」
と言って、私はKくんと私の机の間にドリルを置きました。
私が、
「ありがとう」
というと、
「おう」
とだけ言って、Kくんは漢字をノートに書きだしました。
Kくんと私のページ数が違ったので、自分は下からのぞき込むようにして、私が見えやすいようにしてくれました。
Kくんの意外な一面に、私はドキドキしっぱなしでした。
初めて「男の子」を意識した出来事だったからです。

「初めてのバレンタイン」
バレンタインが近づくと、誰にチョコをあげるか、クラスの女子の間でよく話題になりました。
「〇〇は、だれにあげるの?」
と友達に聞かれて、私の頭をよぎったのは、Kくんでした。
これまで一緒に遊んだこともないし、席が移動になってからは、ときどきちょっかいを出してくるだけの関係でしたが、チョコレートを渡してみたくなりました。
初めてのバレンタインチョコは、友達と一緒に作ったデコレーションチョコレート。
バレンタイン当日、かわいくラッピングして、Kくんの家に持っていきました。
家のインターホンを押すと、Kくんのお母さんの声がしました。
「はーい、どちらさま?」
「同じクラスの〇〇です。あの、Kくんはいますか?」
「Kね、ちょっと待ってね」
お母さんとのやり取りの間も、心臓はバクバク。今にも口から飛び出しそうでした。
しばらくして、Kくんが外に出てきました。
頭には寝ぐせがついていて、視線があちこちしながらも、
「おう、なんかようか?」
と聞いてきました。
「はい、これ」
と私はチョコを渡しました。
「ずっと前に、ドリル貸してくれたお礼!ありがとう」
そう言って、私は一目散に家に帰りました。
もう緊張で、いてもたってもいられなかったのです。
Kくんは、その翌月のホワイトデーの日にお返しを持ってきてくれました。
そのあと、関係になにか変化があったわけではありません。でも、その翌年も私はチョコを渡しました。そして、その翌月にお返しが返ってきて・・・それを卒業するまで繰り返しました。

「再会」
小学校を卒業したあと、中学校は別々になり、Kくんとは全く会わなくなりました。
そのうち私は地元を出て、大学生になり、就職し、結婚しました。
子どもが生まれると、住んでいたマンションが手狭になり、子どもを育てるために、実家の近くがいいだろう、と地元に家を建てました。
毎日子育てに追われる日々。過去の思い出を思い返すことなく、あわただしく日々が過ぎていきました。
ある時、子どもが「バスケットを習いたい」といいました。
地元のバスケットクラブを調べると、近くに地域の親がサポートするバスケットボールの少年団チームがあることがわかりました。
子どもの友達もそこに通っているようで、子どもはそこに通いたいようでした。
「よし、じゃあ体験だけでも行ってみようか」
そう子どもに声をかけて、私はそのバスケットチームに行くことにしました。
練習場である体育館につくと、コーチが出迎えてくれました。
「どうも、コーチのTと申します。今日は体験に参加してくだり、ありがとうございます。」
「こちらこそ、ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」
コーチとの挨拶を終えると、子どもはチームメイトと一緒に練習を始めました。
子どもの様子を見守りながら、全体をゆっくりと見渡すと、
「あれ?」
一人の男性に目が留まりました。
どこかで見たことのある面影・・・。なんとそれは、初恋の相手だったKくんだったのです。
Kくんはバスケットチームの応援に来ているようでした。
子どもの頃の面影は残りつつも、うっすらと髭があり、びしっと決めた髪型は「イケおじ」風になっていました。
私はその後、Kくんに一度も声をかけることなく、子どもの様子を見ていました。
それぞれが自分の人生を歩み、たまたま交差した偶然に、どこかセンチメンタルな思いに駆られながら。
子どもはその後、別のバスケットチームに所属することになり、その日以来、Kくんを見かけたことはありません。
s581著









コメント
コメント一覧 (2件)
pr
今回は、小学4年生の初恋物語を書いていただきました。
活発な性格だった著者は友達が多く、仲のいい男の子も多かったですが、同じクラスのK君だけは著者に意地悪をしていました。
そんなK君のことを鬱陶しく思い、著者はいつも軽くあしらっていました。
しかしある日、漢字ドリルをを忘れた著者にK君はドリルを見せてくれて、それ以降、著者はK君を「男の子」として意識し始めます。
バレンタインデーで著者は手作りチョコをK君に渡し、翌月K君からお返しを貰うという関係が卒業まで続きました。
小学校卒業後は2人は別の学校へ行き、その後会うことありませんでした。
大人になり、自身の子どものバスケットボールの応援に来ていた著者は、そこで偶然にも大人に成長したK君を見かけました。
著者は声をかけることはせず、それぞれの人生で交差する偶然の再会と、過去の思い出にセンチメンタルな気持ちを抱きました。
小学生の初恋から偶然の再会までの感情の表現が、とてもリアルで繊細に描かれています。
好きな相手への感情表現が分からない小学生たちが照れや恥ずかしさを抱きつつ交流する姿に、読者は共感し微笑ましく感じるでしょう。
物語の最後で再会を果たすシーンは、時間と共に変化していく流れと変わらない過去の思い出を描いており、読者により一層深い印象を与えています。
検収者 kitsuneko22
㊵kitsuneko22-10