「運命の男」 

20代半ばの私は、仕事も恋愛もうまくいかない日々でした。そんな時に、友達に誘われて占いに行くことに。 

占い 

「それでは、あなたのお名前と生年月日、生まれた時間もお願いします」 

ある駅の小さなビルに、その占い師はいました。 

なんでもよく当たると評判で、数か月前から電話で予約をしなければならないほど人気があるようでした。 

私は言われたまま、名前と生年月日、生まれた時間を、紙に書きました。 

占い師は紙と分厚い手書きのノートをしばらく見比べながら、こう言いました。 

「ああ、あなた。今までの彼氏は年上ではなかったの?」 

「はい、同い年か年下です。」 

「じゃあ、4つ以上の年上の人にしなさい。そのほうがうまくいくわよ。」 

「年上ですか?」 

「ええ。でも3つ以下はだめよ。それから、誕生日に1がつく人のほうがいいわね。」 

「そうなんですか。」 

「あなたを好きなようにさせてくれて、困ったときにはフォローしてくれる、そんな人よ。」 

SさんとMさん 

私は占いの後、転職をしました。新しい職場には、独身で4つ以上年上の男性が数名いました。 

「もしかしたら運命の相手がその中にいるかもしれない」 

しかし、当時の仕事は深夜までかかるなどざらで、日々の業務に追われるうちに占いのことなど、すっかり忘れていました。 

そんな中、途中入社で、ほぼ私と同期のMさんが、度々食事に誘ってくれるようになりました。Mさんは素朴な感じの人で、口数はそれほど多くありませんでしたが、一緒にいて安心できる人でした。ふと、私は先日行った占いのことを思い出しました。 

Mさんの年齢は4つ年上で、誕生日には1がひとつ。 

「もしかしたら、運命の相手はMさん?」 

 

ある日、私は初めて担当の顧客を持つことになりました。新人ということもあり、先輩社員のSさんとペアになりました。 

Sさんは仕事ができる人ですが、容赦なく意見する人で、厳しいイメージ。 

そのためSさんといるときはいつも緊張していて、仕事以外の話はほとんどしませんでした。 

「〇〇さん、これだとお客さんに伝わりにくいから、もう一度やり直して」 

この日もSさんから注意を受けました。ちょっとしたことでもとても用心深く、私はよく指摘されました。私は返された資料を手にし、ため息をつきました。

意外な一面 

入社して半年ほど経つと、一人で担当する顧客も増えていきました。しかし仕事に慣れてきた頃、私はミスを起こしました。私の確認不足で顧客からクレームが入ってしまったのです。私はほかの案件を抱えながらトラブルの対応に追われ、すべてを終えるまでに終電までかかりました。 

仕事を片付け、誰もいなくなったフロアを降りて階下に来ると、一角だけ灯りがついていました。 

そこにはSさんがいました。私はドキッとしました。 

「おつかれさまです」 

私が声をかけると、パソコンに目を向けていたSさんが顔をあげました。 

「おつかれさま。今帰り?」 

「はい。Sさんはまだお仕事ですか?」 

「うん、明日までにやっておきたいことがあって。」 

「大変ですね。」 

「まあ、ひと段落はついたから。よかったら送っていくよ」 

「え、いいんですか?」 

「ひとりだと危ないでしょ。ちょっと待ってて」 

そういってSさんはテキパキと片付け始めました。 

 

私たちはSさんの車に乗りました。 

いつも厳しいSさんでしたが、この時は少し雰囲気が違い、もっと気さくな感じがしました。 

だからなのか、私も気を許し、仕事の悩みから他愛もない話まで、途切れることなく話していました。 

Sさんは、うんうん、と聞き、ひとつひとつ丁寧にアドバイスをしてくれました。また、Sさんの失敗談なども話してくれました。話が盛り上がっているうちに駅に着き、私たちは別れました。 

この出来事をきっかけに、これまで近寄りがたいほどに感じていたSさんを身近に感じるようになりました。 

運命の相手はだれ?

その数日後、私とSさん、Mさんの三人で担当する大型案件が決まりました。 

SさんとMさんは全くタイプが違い、たとえて言うなら、Sさんは肉食動物系、Mさんは草食動物系。Sさんは事前に下調べをし、確証を得たら即座に行動に移しますが、Mさんは自分のペースで着々と物事を進めていくタイプ。そのためか、なんとなく2人の間にはピリッとした空気が流れているようでした。 

地方へ打ち合わせに行った帰りに、事件が起こりました。Sさんが電車で来た私を送っていこうといった時です。いつも穏やかなMさんの顔色がさっと変わりました。そして、 

「ぼくが送っていきますから」 

と、Sさんにいいました。 

「ほかの案件の件で少し話したいので、〇〇さんにはぼくの車に乗ってもらおうと思います」 

「わかりました。」 

と、Sさんはいいました。微妙な空気が流れる中、私はMさんの車に乗せてもらいました。 

車中で、私はMさんに告白されました。つきあってほしい、と言われましたが、私は断りました。Mさんは一緒にいて安心できる人でしたが、私はSさんに惹かれていたのです。Mさんとはそれっきり、食事に行くこともなくなりました。 

 

その後、私はSさんに食事に誘われました。そして、Sさんからも好きだ、と言われました。私たちは付き合うことになりました。 

連絡先を交換すると、メールアドレスに西暦の数字が入っていました。 

「あれ?もしかして、これって誕生年?」 

「うん、そうだよ。」 

「Sさんって私の4つ上なんですね。」 

と、私が言うと、Sさんは笑いながら、 

「うん、知らなかったの?」 

と、言いました。 

「じゃあ、誕生日は?」 

「11月11日」 

 

数年後、私とSさんは結婚しました。Sさんは、あの占い師が言っていた通りの人でした。 

あれほど仕事に対して厳しかったSさんは、結婚後、妻のことは何でもやったらいいよ、と甘やかしてくれる夫になったのでした。 

s587著

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回の作品は、占い師に当てられた運命の人の物語です。

    20代半ばで、仕事も恋愛も上手くいかない日々を送っていた著者。
    ある日友人の誘いで、よく当たると噂の占い師の元へ行くことになり、4つ以上年上で誕生日に1が付く人を彼氏に選ぶよう占い師に言われます。
    その後著者は転職し、職場には占い師の言う条件に当てはまる男性が何人かいました。
    その中で同期のMさんと出会い仲良くなりましたが、それ以上の関係に発展することはありませんでした。
    一方、仕事に厳しい先輩のSさんと2人になる時があり、彼の意外な一面を見た著者はSさんに惹かれていきます。
    2人から告白され、Sさんと付き合うことになった著者は数年後に彼と結婚。彼は占い師の言う通りの人でした。

    占い師のアドバイスを聞き、対照的な2人の男性と織りなす人間関係がとても面白く描かれています。
    最初の流れからは予想できない意外な展開に、読者は惹きこまれるでしょう。
    運命の存在について感じさせる興味深い作品です。

    検収者 kitsuneko22

    ⑧kitsuneko22-10

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