同期との苦い思い出

私が彼と出会ったのは、大学4年生の時。新卒採用の学生研修で出会った。 

出会い

内定先の指定された一室には、自分と同じようにリクルートスーツに身を包んだ学生たちが、4、50人ほど来ていた。 カリキュラムの中で、制限時間内に学生同士でヒアリングし、あとで皆に紹介するというものがあった。

「はじめまして、Tです。横浜の△〇大学から来ました。」 

隣の席にいたTと名乗った彼は、そう話しかけてきた。小柄で彫りの深い顔立ちの人だ。 

「はじめまして、△△大学の〇〇です。関東出身の方なんですか?」 

と私が聞くと、 

「いえ、地元は関西です。●●県の●●市出身なんやけど」 

「え!●●市ですか?私もそこ出身です」 

「ほんまに?信じられへん、こんなことあるんや!」 

彼は大げさなくらい驚いていて、そんな彼に私は親近感を抱いた。いくぶんか緊張も和らいでいた。続けざまに、彼が質問を繰り返す。 

「ちなみにどこの高校?」 

「△×高校だよ。」 

「わ、知り合いおるわー。」 

「Tくんは?」 

「俺は〇×高。」 

「え!頭いいんやね」 

「いや、要領がいいだけ~」 

そんな感じで会話をしているうちに、あっという間に時間がきてしまった。なので、Tをどのように紹介したかははっきりと覚えていない。

研修は午前中いっぱいで終わった。私は地元のノリのいい男の子が同期にいたことに、とてもワクワクしていた。 

私とTは研修後に連絡先を交換し、時折連絡しあう仲になった。 

お付き合い

4月、私たちは社会人となった。私とTは支店は違ったが、この頃にはよく飲みに行くようになっていた。 

ある日、Tと二人で飲んでいた時のこと。 

Tがおもむろに切り出した。 

「〇〇は、俺のことどう思ってんの?」 

「え?」 

私はドキッとして聞き返した。 

「どう思ってるって?」 

「同期の友達やと思ってる?」 

「うん・・・Tはどうなん?」 

「俺?」 

Tは飲んでいたビールをテーブルに置いた。 

「俺は〇〇とおると、めっちゃ楽しい。いつも俺のくだらん話を楽しそうに聞いてくれるし。こんなに誰かと一緒にいて、ほっとするというか、楽しいなと思ったのは初めてやと思う。」 

Tはこちらをみて言った。 

「こんな場所であれやけど・・・。俺と付き合ってくれませんか」 

私もすでにTを好きになっていた。だから嬉しかった。 

この日から、私とTは付き合うことになった。 

裏切り

付き合い始めてからの数か月間は、とても楽しかった。運転好きな彼に任せてドライブしたり、一人暮らしの彼の家でご飯をたべたり、何をしていても気持ちが高揚し幸せだった。私は彼に会うたびに、ますます彼のことを好きになっていった。 

ドライブコースで関西方面に行ったときに、彼の地元の友達を紹介してもらった。友達とTが学生だった頃の思い出話を聞き、よく笑った。 

その友達を車で送っていく途中、 

「でも〇〇ちゃん、ほんまにTでいいの?」 

とTの友達が言った 

「え?」 

「こいつほんまにひどい奴やで」 

そこでTが笑って言った。 

「おまえ、何をえらそうに。」 

「いや、友達である俺への扱いもやけど、こいつ、めっちゃワガママやから。〇〇ちゃんが心配やわ」 

私は笑いながら、冗談のつもりで聞いていた。 

たしかにTは、多少強引なところもある。しかし、それがリーダーシップとなっていて、Tの良さだと思っていたから。 

しかし、しばらくしてTからの連絡がなくなった。こちらから連絡を入れても、返信がないことが増えた。また、忙しいのを理由に会えなくなっていった。 

Tの急な変化に追い打ちをかけるように、私は仕事もうまくいかず、情緒不安定になった。 

そんな時に、Tが別の同期と噂になっていることを知った。その夜、私はTに問いただした。正しくは一方的にメールを送った。噂になっている同期との関係、これまでの態度、自分がどれくらい傷ついたかを。 

そして、返信が来た。 

「ごめん、別れよう」 

それだけだった。 


相反する思い 

別れた後は、支店も部署も違うので、ほとんど会う機会はなかった。それでも私はTのことを引きずっていた。 

そんな時運命のいたずらか、Tが私の支店に異動になった。久しぶりに見たTは、少し日焼けし痩せていた。私は狭い事務所の中でTの気配を感じるたびに、胸が締め付けられていく。 

Tはすぐに職場でもなじみ、私にも普通に話しかけてきた。私はそっけない態度を取っていたが、徐々に大人げないと気づき、世間話程度は話すようになっていた。そしてそれは私の気持ちを再び高揚させた。いつしかTがいるのが嬉しい、そう思っていた。でも二人の距離は一定のまま。以前のように少しずつ話ができて嬉しい反面、以前にはなかった隔たりを感じるのが苦しかった。相反した気持ちを打ち消すように、私は仕事にますますのめりこんでいった。 

半年ほどたったころ、私は仕事を辞めた。もっと仕事の専門知識を高めようと、学校に行くことにしたのだ。 

最後の出勤日、Tからメールが来た。 

「帰り、送っていくから、出るとき連絡して」 

退社し、外に出てメールをすると、Tが出てきた。 

「送るわ」 

そういって、自分の車に乗り込んだ。ドライブデートしたときに車ではなく、真新しい車に私も乗った。 

「今日で最後やな」 

「うん。Tが来てからやりづらかったなー」 

「ほんまごめんて」 

「別れ方も冷たかったし。一方的に言いたいことだけ言った私も私やけど。ほんまに、そういうところ嫌いやわ」 

「・・・」 

「会いたくないのに、いつも事務所におるし。いつのまにかみんなと仲良くなってるし。Tのいいところやね、すぐみんなを惹きつけられるところ。」 

Tは黙ったまま運転していた。 

「ほんと大っ嫌い。大っ嫌いなのに、嫌いになりきれへんから、ずるいな」 

私は泣いていた。Tが車で送ってくれたのは、後ろめたさからだとわかっていたから。そして私の思いは、叶うことはないとわかってしまっていたから。 

「こんな奴のために、泣くな。」 

Tはひと言だけそう言って、運転し続けた。こうして私たちは完全に終わった。 

Tもその後、仕事を転職したようだったが、それっきり、私とTは会っていない。

s584著

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回は、研修で出会った同期との出会いと別れの物語を書いていただきました。

    2人の出会いは新卒採用の研修でのこと。隣の席に座っていたTは出身が近かったこともあり、著者とはすぐに打ち解けました。
    お互いに社会人となり、支店は違いましたが一緒に飲みに行くことも多くなっていた2人。
    Tからの突然の告白で、嬉しく思った著者は付き合うことに決めます。
    最初こそ楽しい時間を過ごしていましたが、ある時急に連絡が遅くなるようになり、仕事の忙しさを理由に会うことを断られるようになりました。
    その頃Tが他の同期と噂になっていることを知った著者はTに問い詰め、Tからは「別れよう。」という一言だけが送られてきました。
    別れた後もTのことを引きずっていた著者のもとに、異動になったTがやってきます。
    複雑な気持ちを胸に仕事に集中していた著者でしたが、仕事を辞め新たな道に進むことを決意。
    最後の日、送ってくれたTとの会話以来、2人が会うことはありませんでした。

    出会いと別れの中で感じる彼女の感情の変化がとても繊細に描かれています。
    喜怒哀楽の表現がバランスよく取り入れられていて、彼女の感情に読者も共感できるでしょう。
    とても読みやすい文章構成で、人間関係の複雑さについて考えさせられる作品に仕上がっています。

    検収者 kitsuneko22

    ⑦kitsuneko22-10

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