退屈な人生

30代後半のF男の話。
ただ何となく学校に行き、ただ何となく就職し、働き続ける。
気付けば仕事に追われる日々で余裕が無い自分が居る。毎日生活費の心配をして金の工面に追われる。
自分は何のために誰のために生きているのか?そんな事が頭によぎる。人生に夢がある人間がうらやましい…。自分はそんなものとは無縁の生き方しかしていなかった。
その日暮らしで、「今さえ楽しければいい」若い頃はずっとそう思っていた。その結果が今の自分だ。ダラダラとただ生きている。
工場勤務で流れ作業をこなしていると、自分が人間ではないように思えてくる。機械的に単調な作業を延々と行っていると頭がおかしくなりそうだ。
安月給でも辞めるわけにはいかない。何の意味も価値も見いだせなくても、仕事はしていなければいけない。生活がかかっている。
それは分かっているのだが…無性に…つまらないのだ。
こんな毎日が続くと思うと、たまらなくなる。
この人生を送るのは自分じゃなくてもいいんじゃないのか?いくらでも替えが効くつまらない人生を送っているんじゃないか?…日々、取り留めのない考えが頭を巡っている。
馬券を買う

仕事帰りのスーパーで夕飯の材料を買い出ししていると、70代ぐらいの初老の男が自分にぶつかってきた。かなり酒臭い。
何も無かったように立ち上がり、千鳥足でヨタヨタ歩いて行く。
初老の男が転がった床に目をやると、丸まった競馬新聞が落ちていた。
拾って見ると新聞に赤線がびっしり引かれている。競馬予想でもしていたのだろう。
自分はギャンブルはやらないが、なぜかその時だけは無性に馬券を買いたい衝動に襲われた。ここ最近、工場と家の往復しかしてなかったからかもしれない。
なんでもいいから生活に変化が欲しかったのだ。日常を忘れられればそれでよかった。
その足で近所の競馬場に直行し、大穴の馬になけなしの3万円を賭ける。
衝動的に買った馬券が、万馬券になって配当されるとは…。これが俗にいうビギナーズラックというやつか。人生の運を全部使い果たした気さえする。
3万円が210万になって返ってくる現実を想像していなかった。
貯金に回す気など1ミリもない。普段どれだけ自分が我慢しているか、自分が一番よく分かっている。
全額パッーと使ってやろうと思ったが、金が無い生活が当たり前になっていた自分に使い道が思い浮かばない。遊び方を知らないのだ。
豪遊する

必死に考えて出た答えは、「欲望を満たそう」という至極単純なものだった。大の男が大金を使って遊ぶなら風俗しかない。夜の繁華街を颯爽と歩いた。
大金を手に入れて気持ちが大きくなっていたのだ。「自分は何でもできるぞ」ぐらいの心境だ。気持ちがいつになく高揚している。
10分ほど歩き、いかにも高給そうな風俗店の看板が目に入った。
「ここだ!」直感でそう思った。雑居ビルの階段を駆け上がるように上がり、店の中に入った。黒服のボウイに案内され、料金表と風俗嬢の指名を促される。
当店のNo.1です!という触れ込みで、でかでかと宣材写真が載っていた。
「じゃあ、この娘で。」店内の煌びやかな雰囲気に気負っていたのかもしれない。声が震えていないか心配になった。
「かしこまりました、こちらのお部屋にどうぞ~」
ガラの悪い黒服の後ろを付いていく。
「こんばんわ~相手をさせてもらうC子です~」
部屋に入るなり挨拶された。20代前半の清楚な見た目の女だった。普通、風俗嬢といえば、すれきった派手な見た目と相場が決まっている。意外な見た目だった。
店のNo.1だという触れ込みは嘘ではないようだ。かなりの美人だった。
普段すれ違ったら、きっと振り返ってしまうだろう。こんないい女がここで働いていていいのか?と思うレベルだ。変な緊張で体がこわばっている。
それからは夢のような一時だった。自分の人生でこんなに喜びを感じたことがあっただろうか。快楽と悦びの絶頂を何度か味わった。
なにかフワフワした気持ちになっている。夢心地というか、何というか…。
「この時間が、できるだけ長く続けばいいのに…」なんて年甲斐も無く思っていた。
この短い時間で、C子のことを好きになっている自分が可笑しい。完全な客としてのサービスを受けただけだ。
相手は何の感情も挟んではいないだろう。ただの「仕事」だ。
シャワーを浴び終わった自分を見て、整った女の顔が笑顔に変わった。
「お客さん、また来てくださいね~」
目的がある人生

C子という風俗嬢に出会ってから、自分の人生は変化している。
C子に会うために仕事を頑張れている。指名料は高いが、そのためにバイトを増やした。
普通の人から見れば、馬鹿馬鹿しいと笑われるかもしれない。
だが、それでいいのだ。こんな人生にも目的ができたのだから。
T639著









コメント
コメント一覧 (2件)
pr
今回の作品は、夜の繁華街で出会った男女の物語です。
気付けば仕事に追われ余裕のない日々を送っていたF男。彼は人生の目標もなく、機械的に続けるしかない仕事の毎日につまらなさを感じていました。
ある日、普段ギャンブルをやらない彼が衝動的に馬券を買ったところ、大金を手に入れる出来事がありました。
F男は欲望を満たすため風俗に行き、そこでC子という風俗嬢と出会います。彼女との時間は夢心地で、客としてサービスを受けているだけと分かっていても、長く続いてほしいと思ったのです。
これがきっかけでF男はC子に会うという目標ができ、バイトを増やし仕事に励むようになりました。
退屈な生活に疑問を持ち、衝動的な行動を通して人生に目的を見出す男性の物語が描かれています。
欲望のままに行動する主人公ですが、人生の意味や目的を模索する彼の姿はとてもリアルで人間味があります。
人生の意味や生き方について考えさせられる興味深い作品です。
検収者 kitsuneko22
④kitsuneko22-10