コンプレックスだった髪

私は昔から髪型がコンプレックスだった。それは天然パーマだからだ。
何をしても髪型が変わらなかった。当時通っていた美容室の人にこうしてほしいああしてほしいと頼んでも変わらなかった。それほどの天然パーマだったのだ。高校時代には髪型を変えたいがためにストレートパーマを当てたりもした。でもそれは高校卒業とともにやめることにした。髪を伸ばしても自分には似合わなく、正直気持ち悪くなってしまった。
そんなとき、母親からこう言われた。
「私の行ってる美容室に変えたら?」
確かにそうだなと思った。正直新しい美容室に行ったところで天然パーマに変わりはないのだ。ならいっそ変えてみるのもいいかもしれない。そのまま予約を入れてもらい、通うことにしたのだ。
その時に出会ったのが担当になってくれたM本さんだったのだ。
話すのが好きな人だった

M本さんが担当になる前に何人かが髪をカットしてくれていたのだが、店の事情か何かでいなくなったり異動になったりしてコロコロと担当が変わっていた私。3人目に担当になったのがM本さんだった。
M本さんはとにかく腕のいい人だった。こんな天然パーマなんでとにかく髪型が決まるようにしてほしいと要望を出したらしっかりとそのようにしてくれたのだ。そんな美容師の人は初めてだったのでとても嬉しかった。そしてとにかく話すことが好きな人だったのだ。
正直なところ、私は人見知りなので美容師さんが話しかけてくるまでは基本的には話しかけない人間なのだ。カットさえしてくれたらそれでもいいと思っている人間だ。
だけど、M本さんはとにかく話しかけてきてくれた。母も担当してくれているので母親から人となりを聞いていたらしい。
私の趣味、好きなこと、嫌いなもの、普段は何をしているかなど…とにかくいろんな話を聞いてきては返していた。普段から女性と話す機会が少ない自分としてはそれが楽しかったのだ。また私に興味を持ってくれていることも嬉しかった。そんなたわいもない話を続けているときにこう聞かれたのだ。
「君の好きな女性のタイプはどんな感じ?」
その時は特にまだそのような想いを持っていたわけではないので、
「年上の女性がタイプですかねー」
という返しをした。それ以上は特になにもなく、いつも通りにカットも終わり、帰った。
もしかして・・・

そんな感じで毎月のようにカットに行くことが続いたある日、友人と話をしているときのこと。唐突に恋バナの話になり、その時にM本さんという担当の美容師さんがいい人なんだよねー。ということを話していたら、友人にこう言われたのだ。
「もしかして、その人のこと好きなんちゃうの~」
正直なところ、びっくりしたのだ。確かに自分から話したこととはいえ、そんなことを言われるとは思ってもいなかった。だけど、ふと自分でも振り返って思い返してみると、よくM本さんのことを考えていた気がするのだ。そこで初めて気が付いたのだ。
自分は知らないうちに想いを寄せていたのだ。
ただ、そんなことをM本さんに話せる勇気などあるわけがなく、行くたびに意識はするが悟られないようにしていた。あくまでお客さんとしてきているのだ、と。
ただ、M本さんも少しは自分の態度に感づいてたようで、ある日こう言われた。
「もしかして、私のこと、いいなと思ってる?」
そう言われた。心音が早くなるのを感じつつ、こう答えた。
「はい」
しかし、それ以上M本さんも話してくることはなかった。少し素っ気なくなった姿を見て、こう思った。
あぁ、M本さんには彼氏がいるんだろうな。と。
こんないい人をほっとく人はいないだろう。むしろそのほうがいいとも思っていた。それ以降はそんな話をすることもなく、通うことが続いた。
そして、M本さんはその後、結婚した。
儚い思い出。だけど楽しかった。

結婚してからももちろん担当としてずっと髪を切ってくれていた。そんなある日、M本さんはめでたく妊娠された。
その美容院では、産休に入ると店を異動することになるシステムがあり、M本さんに髪を切ってもらうのは終わるかもしれなかった。髪を切ってもらいながら寂しい気持ちになっていた。
月日は流れ、ついにM本さんが産休に入ることになった。お別れが近づく最後の日。
最後の退店の時、M本さんと話していると、こんなことを言われた。
「店変わっても、元気でいてや」
正直寂しすぎて涙が出そうだった。けど、それを我慢し、
「M本さんも、元気なお子さんを産んでくださいね」
それが最後の会話となった。
その後、M本さんはどうなったのかわからない。けど、自分はこんな経験ができてよかったと思っている。とても大人な付き合いをしてくれていたと思っているからだ。
いつかまた、M本さんと会える時を願って…。
c477著









コメント
コメント一覧 (2件)
pr
今回の作品は、著者とある美容師についてのお話です。
昔から天然パーマにコンプレックスを抱えていた著者。
何をしても変わらなくて悩んでいた著者に、母親が自分の通っている美容室を勧めます。
そこで自分の担当になった美容師のM本さん。
彼女は著者のコンプレックスを改善し積極的に話しかけてくれ、著者は無意識のうちに彼女が気になっている自分に気付きました。
そんな気持ちを悟られないように客として接そうとしましたが、M本さんは感づいていました。
そしてそれ以降素っ気なくなったM本さんを見た著者は、既に彼氏がいるのだろうと察します。
その後、結婚し産休に入るM本さんとの最後の日は、著者にとって涙が出そうになるほど寂しい日でした。
自分でも気づかないうちに一人の女性に思いを寄せている姿がリアルに表現されています。
儚い思い出ながらも、楽しい時間を過ごせたこと、女性の幸せを思う著者の切ない気持ちが伝わってきます。
とても読みやすく良い作品です。
検収者 kitsuneko22
⑳kitsuneko22