大人の階段、兄から「彼氏」への存在に . . .

目次

~夜の世界~

「お味噌汁は酔いがさめるからね」
スナックのママが私に教えてくれた。

飲み過ぎたお客には、帰る前にお味噌汁を出している。
18歳の私は、そのママが居るスナックでアルバイトをしている。

夜の世界は、私が知らない大人の世界。
知らない世界がどの位の深さと規模なのかさえも、未知だ。

少しでも大人に近づきたいと思うのは末っ子だからだろう。
大人たちに囲まれ、いつも子ども扱い。
年をとっても、またおいて行かれる。
どうしたら早く大人になれるのだろう・・・そんな事をいつも考えていた。

「お客様がお手洗いに行っているスキに、テーブルをキレイに拭いてあげてね」
「おしぼりを必ず用意して待っているのよ」
「グラスを持つときは下の方で持つとキレイな手元にみえるわよ」

ママは、何も知らない私に丁寧にやさしく教えてくれた。
お酒の飲み方、話し方、しぐさ、お世辞の返し方、同伴の仕方。
女性としての振舞いから、人としての対応力、夜の人間としての作法など。
知れば知るほど面白く、そして深い。
「大人」ってすごい。

~25時の出会い~

ママの知りあいの店で働いているケンとは、深夜25時に出逢った。
スナックのお店を閉めた後、ママが連れて行ってくれた店で、ケンは、キラキラと輝いていた。

知らないお店に入った瞬間、本当はキョロキョロと周りを見渡したい。
でも何も知らない子供って思われたくない。
少しでも大人の夜の世界に馴染みたい。そんな意地から、控えめになる。

ここ座って、と案内された席は非常に心地の良さそうなソファ席。
カバンを置き、端っこに座る。

隣に座ったママには次から次へと色々な男性が話しかける。
「サキさん、今日も華やか!そのドレス着こなせるのってサキさん位ですよ!」
「サキさん、聞いてくださいよ。先日来たお客さん・・・」
全ての会話に丁寧に耳を傾け、丁寧に答える。・・・

ママってすごい。これが大人の対応力・・

ママに見とれていると「ここはボーイズバーってところなんだよ」
突然私に話しかけてきたケン。
「初めて来たでしょ?」優しく微笑みながら足を組みなおす。
ふわりと膝が当たる。

「ちょっとケンちゃん!見つけるの早いんだから!」
ママからの素早い茶々入れに
「いやいや、こんな美しい二人が居たら、来ないわけ行かないでしょ!」
「ケンちゃん、どうこの子!ケンちゃん好みじゃな~い?うちの大事な新メンバーよ!大事にしてね」
「さすがわかってるね、ママ!超ストライク!!」

冗談なのか本気なのかわからない会話が、私の目の前で繰り広げられる。

2時間くらいだろうか。
流暢なトークとおだてに会話は弾み、終電も無くなっていた。

「じゃあ、そろそろ帰ろうかしら」すっと立ち上がるママ。
居心地のいいソファに埋もれていた私も、はっと我に返り思わず立ち上がる。

「あなたはまだいて良いのよ?」という目線をくれたが、この居心地の良さが逆に怖かった。
「いえ、私も帰ります!」そそくさとカバンを持つ手をケンが止める。「また会える?」

今日1日だけで一気に大人に近づいた気がする。
帰りのタクシーに乗る私はずっとにやけていた。

~憧れか恋心か~

翌日、スナックに出勤すると、ママが鼻歌を歌ってお通しの準備をしていた。
「おはよう!」
微笑むママに先日の御礼を伝える。

「ケンちゃん、本当にあなたの事気に入ったみたいよ。今度はこっちのお店に来るって」

また不思議で魅惑的な時間を過ごせる。
大人の魅力を沢山教えてくれる、そんな軽い気持ちが余計ワクワクさせた。

 

気が付けば、ケンと過ごす時間も増えていた。
ママとは違う世界を、ケンは色々教えてくれた。
バーの飲み歩き方、夜のお店のルールとしきたり。

女姉妹で育った私にとっては、お兄さん。
ケンは私の事を子供扱いするが、私の憧れは「恋心」に変わっていた。

ママには「大切にしろ」と言われたから、口説いちゃいけないと思ってたけど、もっと大切にしたいから付き合おう。

本当はもっと臭いセリフでの告白だったが、嬉しい出来事に舞い上がり詳しくは覚えていない。

天に昇る気持ちだった。
もっと知りたい。もっと教えてほしい。
そんな浮かれた時間はあっという間に過ぎて行った。

~憧れは憧れのままで~

ケンの私生活は完全な夜型。
お酒に浸り、女性に囲まれる日々。
「妹」から「彼女」に変わった時、「兄」から「彼氏」への存在の違いも大きかった。

ケンのそばにはいつもきれいな大人の女性が居る。
きっとそれがお似合いなのだ。
一緒にいる事で、みじめな気持ちになる。
末っ子の私が大人に置いて行かれる気持ち。よくわかる。
またこれだ・・・。

近くなったはずなのに、すごく遠い。
そばにいるはずなのに、すごく寂しい。

「ケンちゃん、、わたし・・・ごめんなさい。」

好きなのに、好きだから。

泣きながら伝える私に対し、ケンは寛容な心で受け入れた。
まるで泣きじゃくる妹をなだめる様に。

~人生の経験は恋心から~

無理をして背伸びをする必要が無い。
それを教えてくれた。

ママから教えてもらった人間力、ケンに見せてもらった世界。
全ての出会いと経験を私は誇りに思う。

ママを尊敬したから教えてくれた事。知れたこと。
ケンを好きになったから見せてくれた世界。

夜、私が布団に入る時、ここからがケンの時間。

きっと私は居心地の良い夢を見ていたのだろう。

しdhfgj著

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • しぃ1000さん

    3記事目の投稿して頂きまして有難う御座います。

    それでは検収をさせて頂きます。

    今回の作品は、18歳の年頃の少女がアルバイトを通して大人の世界に入ろうとする作品です。

    末っ子の彼女は何かと子供扱いを受けてきた少女です。

    少しでも大人に近づきたいと思う彼女は思いきって真夜中の世界で働く亊にしました。

    スナックという夜の世界でのアルバイトに不安と憧れを抱きながらママから接客を学んでいきます。

    在るときお店を終えてママの知りあいの店にお付合いで寄ることになります。

    そこで働いているケンと出会う事になります。

    ここはボーイズバーってところなんだよと、彼に教わり流暢なトークとおだてに会話は弾みます。

    何時しか彼は「兄」から「彼氏」への存在となります。

    でもケンの私生活は完全な夜型でありすれ違いの中で彼女は大人へと成長していくのです。

    少女は思い切って始めた夜のアルバイトに、どう対応して行こうかと気持ちが良く表現されています。

    経験豊富な大人の彼と向きあう彼女のひたむきな思いが読者には胸を打つところでしょう。

    短的にそれぞれの雰囲気を表現出来て魅力的に出来上がりました。

    有難う御座います。

    今回の検収はこれにて完了と致します。

    次回の投稿記事も楽しみにお待ち致します。

    井上保夫

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