恋の始まりは、偶然に通りすがったあの日からー。

初めての世界

小学六年生だった私は、あと二ヶ月余りで卒業することに寂しい気持ちを抱いていた。

中学生になると私立に進学したり、親の転勤などで会えなくなる友達が数人いたからだ。

そんな時、男子たちはなにやら面白い方法で連絡を取ろうぜと、

楽しそうに話していたので、こっそり聞き耳を立ててメモを取る。

【オンラインRPG】

冒険をしながら仲間と成長していくゲームで、

プレイ中はチャットで色んな人たちと話せるようだ。

なるほど。確かにこれなら、簡単に連絡が取れる!

次の日、ワクワクしながら友達たちをオンラインRPGに誘ってみたが、

パソコンのゲームなんて興味がないと言われてしまい、渋々一人で始めることに…。

プレイし始めると、きれいなグラフィックとシンプルな操作方法、

そしてなによりストーリー展開が面白くてドはまり!

両親になんとかお願いして、自分専用のパソコンを買ってもらうほどに熱中したのであった。

 

ようこそ!

どの世界にも圧倒的強さを誇る人がいて、

もちろんこのゲームにも猛者プレーヤーたちがいた。

私は無課金でプレイしていたので、

課金をして武器や装備を強化している強いプレーヤーたちとはなかなか縁がなかった。

自分から声をかければいい話なのだが、へなちょこ装備ではなかなかその勇気は出ず…。

そんなある日、いつものように❝狩場❞と呼ばれる

修行のステージで地道にレベル上げをしていると

魔法使いの格好をした、いかにも強キャラ感漂う男性プレーヤーが通りすぎた。

かと思えば、戻ってきて私のキャラクターの目の前でピタリと止まる。

「ギルドメンバー募集中。どこにも所属してないなら是非参加して^^ 弱くてもおk」

強キャラから吹き出しマークが出ており、顔はニカッと笑っている。

ギルドメンバーとはコミュニティのことで、

これに属しているかいないかでストーリーの進め具合がだいぶと変わってくるのだ。

弱くてもいいということは、きっとただの数集めだろうと思ったが、

この先、いつ誰に誘ってもらえるか分からなかったので、喜々として入会した。

 

チャット

あれからギルドメンバーはどんどん増えていき、

仲間たちとストーリーをサクサク進めることができたり

課金勢から強いアイテムをもらえたり

ログインしたらメンバーたちが全体チャットで挨拶してくれたりと

一人でプレイしていた時よりも、ゲームがより一層楽しくなっていった。

そしてこのギルドに招待してくれたあの強キャラは、サブリーダーの務めとして

下っ端の私をなにかと気にかけてくれて、よく個人チャットを飛ばしてきてくれた。

それがなんだか嬉しくて、少しずつサブリーダーのことを聞くようになっていく。

うんと年上だと思っていた彼は、なんと私と同い年の中学生だった。

責任感があってきっとイケメンなんだろうなぁと、

勝手に妄想を膨らましていると、彼から思いがけない提案をされた。

 

電波に乗せて

両親は買い物に出ており、静かな家に固定電話の音が鳴り響く。

心臓がバクバクと音を立てている。

震えた手で受話器をそっと上げると、

爽やかで声変わり前の幼さが残った、男の子の声が耳に入る。

「もしもし?サブリーダーの僕だけど…」

画面の向こう側の存在に、初めてリアルさを感じてドキドキしてしまう。

「ゲ、ゲーム以外で話すって、なんだか変な感じするね」

私の上がってしまっている様子に、くすくすと笑う彼。

自分と同じ年齢だったことに親近感を持ったようで、直接話してみたいと言われたのだ。

行動派のそんな彼も、この時きっと緊張していたのだろう。

次の会話がなかなか発生しない。

何か話さないとと慌てていると、電話越しからゆっくりと息を吸う音が聞こえ、

落ち着いた口調で彼はこう言った。

「ギルドメンバーの声を聞きたいと思ったのはこれが初めて。だから今日電話できて嬉しかった」

 

あの頃

年月はあっという間に過ぎて、気付けば私は30歳を迎えようとしていた。

正社員として働きながら都内のアパートで一人暮らし。

最近の楽しいことなんて、友人と食事をすることくらいだ。

休日だったこの日、だらだらとSNSを見ていると

❝あの大人気ゲームがスマホ版として登場!❞

と、うたっている広告が気になって、タップしてみる。

サイトが表示されて、私はすぐにこれが何のゲームなのかが分かり

それと同時に、あの日電話で聞いた若い男の子の声が蘇る。

ーあの人、今はなにしてるんだろう。

このゲームを見てすぐに彼を思い出したのには理由がある。

あの頃、毎日のように画面の中で会って彼と話すことが楽しくて、

知らないうちに淡い恋心を抱いていたからだ。

そして初めて声を聞いたあの日、電話ができて嬉しかったと言ってくれた。

その言葉が彼にとってはどのような意味だったのかは分からないが

なんだか私たちはあの時、両想いだった気がするのだ。

ーあのゲームをしなくなってからもう何年経ったんだろう?

昔を懐かしんでいると、窓から初夏の気持ちいい夜風が部屋に流れてくる。

体を伸ばし、今はもう会えなくなった顔も知らない彼の事を想う。

またいつか、どこかで会えるといいな。

 

t114著

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