センター試験の日
試験会場で、ふと目にとまった、サキという女の子。
同じ中学校だっだけど、結局同じクラスになることはなく、高校も別々だった。おそらく中学校卒業以来だろう、久しぶりにサキを見た。

隣にいた友達が言った。
「そういえば、サキって、お前のことがいいなって言ってた時期があったよ」
全く想像していない言葉に驚いた。これまで全く接点がなかったのに。
ちょっとかわいいし、どんな子か知りたいという軽い気持ちで、友達にお願いしてみた。
「じゃあ、サキに連絡先教えてって聞いてきてくれない?」
結果はオッケーだった。こうしてあっさりと、僕とサキの連絡先は交換された。
近づく二人の距離
ある日、学校帰りにサキにメールしてみた。
『今サキの家の近くにいるよー』
すぐにサキからメールが来た。
『ほんとー?すぐ行くからちょっと待っててー』
なんか、不思議な感じだった。
あれ?僕たちは付き合っているのか?
初めてサキと話すのが、二人きり。並んで、一緒に歩いてみる。

話していると、中学生の時の、サキはちょっと怖いんじゃないかという印象は、勝手な思い込みだということが分かった。サキは、優しい女の子だった。こんなくだらないこと話したら嫌な顔されるかな、ということも、笑って、きちんと話をつなげてくれる。
少しづつ大きくなる不安
その日から、サキと頻繁にメールするようになった。
お互いに受験勉強が忙しかったから、なかなか会ったりすることはできなかったけど、お互いに励ましあったり、息抜きをしたり、メールを通して徐々に距離が近づいているのがわかった。
ただ、距離が近づいていくにつれ、不安も生まれた。
このまま、付き合うことになるのかな?付き合えたらいいなとは思うけど、受験の結果によっては離れ離れになる可能性もあるし、そんな状態で告白するのはどうなのかな。

そんなもやもやした気持ちを抱えながら、頭は受験のことでいっぱいの日々だった。
受験のスケジュールは目まぐるしく流れていき、あっという間に行ける大学というのは絞られていった。
僕は、地元から通える大学か、大阪の大学のどちらかになりそうだった。
サキは、地元から通える大学か、東京の大学のどちらかになると言っていた。
進路
ある日、サキから電話がかかってきた。
サキは泣いていた。
「一番行きたかった東京の大学に合格できたよ」
第一志望に合格したサキを祝福した一方で、複雑な気持ちがあった。
結果を知ってすぐ、一番に教えてくれたのだ。サキにとって、僕の存在が小さいものではないことは想像がつく。
でも、4月から、サキは東京に行ってしまう。

僕はというと、大阪の大学に合格し、その大学に行くことに決めた。
最後の、二人きりの夜
サキが東京に出発する2日前、メールが来た。
『お互い進学先も決まったし、打ち上げみたいなことしたい!』
高校生だけどお酒も買って、サキの家に行く。
「親が出てくる前に早く二階行こ!」
初めて入ったサキの部屋。サキの部屋は、まさに女の子の部屋という感じだった。
サキは、いつも通り、楽しそうだった。好きだとか、付き合うとかの話をする雰囲気になることもなく、時間が過ぎていった。
「やっぱり、付き合って、なんて言わなくて良かったかな」
と、少し寂しく考えていた時。ふと、サキが言った。
「眠たくなっちゃったよ。私布団入るから、一緒に布団入って話そ。」
衝撃の発言だった。これはどうとらえたらいいものか。断るのはおかしいし、いきなり変な雰囲気にしてしまうのもマナー違反な気がする。
できるだけ動揺を隠して、布団に入る。
テレビはつけっぱなし。部屋の電気を消す。
サキ:「今日は楽しかったー。ありがとうね」
さっきまでの明るい雰囲気のまま、二人は天井を見上げながらいろんな話をした。
サキ:「テレビがうるさいなぁ。消しちゃお」
テレビが消えた。部屋は真っ暗になった。
あまりに暗すぎると、サキはベッドの横のカーテンを開けた。とても月の明るい夜だった。

月の明かりに照らされて、サキの顔が見えた。僕は急に緊張してきた。
サキと目が合った。瞳の奥には、いろんな感情が入り混じっているようだった。
サキ:「…その唇。」
僕:「ん?」
サキ:「薄い唇。私、君のその薄い唇が好き。」
なんて答えていいかわからなかった。言葉が出てこなかった。
緊張しているからなのか、頭が回らない。
頭が回らないというか、何も考えられない。
あれ?おかしいな?
…。
…。
…。
「ハッ!」
目が覚めた。眠ってしまっていた。
目が覚めるまで、自分が寝ていたことに気づかないくらいの睡眠だった。

外は明るく、時計を見ると10時近くだった。
サキは僕より先に起きていて、僕が起きたことに気づくと笑顔で言った。
「おはよう。よく眠れた?」
旅立ち
サキが東京に行く日。
最後に、サキは「握手」と言って手を差し出してくれた。
握手をするとサキは笑顔で言った。
「じゃあ、またね。」

サキが本当は何を考えていたのか、よくわからないままだった。
僕はこれでよかったのか、これについてもよくわからないままだった。
そういったよくわからないものを地元に置き去りにして、僕はその次の日、大阪に向けて出発した。
koike著









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