隣の席の女の子

後悔先に立たず、とはまさにこのことなのだろうと思った。

「おはよう」、たった一言で済んだことはずなのに。なぜ声がでなかったんだろうか。

 

高校生3年になっても女の子とのデートすらしたことがなかった。それもそのはずで、

中学、高校とバスケットボールに打ち込んできた自分など、恋愛にかまけている暇などなかった。ましてや恋愛なんて興味がなかった。

だが実際はそう思い込んでいただけだった。女の子の友達は居なかったとは言え、男の友達はいたので色恋沙汰な話は嫌でも耳に入ってくる。

羨ましくないわけがない。

自分も一端(いっぱし)の男子高校生。ムフフなことにも当然興味はある。

行き場のないこの欲は死んだ魚のように画面を眺めながら発散していたのだ。

そんな自分が高校3年生になったばかりのある日、クラスの一大イベントである席替えが行われた。近くに仲のいい男子が来るといいなと、そこまで深くは考えてなかった。

結果は近くに知っている男子が来たので、まあまあ、よかった。

その時は女の子のことなんて全く考えてなかった。今までだれともはなしたことがないから。

だが、奇(く)しくもそれが出会いとなった。

 

 

部活動での春の大会も終わり、自分のチームは2回戦敗退となった。

何気なく社会の授業を受けていると隣の女の子から話しかけられた。

「男子2点差で負けたんでしょ?悔しいね。」

そう、話しかけてきた女の子に見覚えがあると思っていたら、女子バスケット部の女の子だった。

負けたのは悔しかったのであまりちゃんと喋れなかった。ぼそぼそと話していたと思うし、友達にもお前はやる気がなさそう、ぼーっとしている。なんてことをよく言われるので、印象はよくなかったと思うが、それでも女の子は優しく色々聞いてくれた。

別にそんな深くは考えてないとは思うし、自分の被害妄想の可能性はあるが、その気持ちが素直にうれしかったし、何より楽しかった。

人として凄くいいなと思いながら毎日をすごした。

ある日後ろの席の子たちも含めてLINEの話になった。後ろの男子とは交換していなかったので「友達になろうよ」といい普通に交換した。

その勢いで隣の女の子に「友達になろうよ」と言ったら快諾してくれた。

その日から隣の女の子との何気ない連絡が続いた。

学校でも話して、私生活もLINEで話していたので隣の女の子と話すのが日常になっていた。そして自分は全く経験のない男子高校生。好きにならないわけがなかった。

当然女の子との電話はしたことがなかったが、向こうからの電話がきっかけでほぼほぼ毎日することになり、いろいろな会話を重ねるうちにどうしようもなく惹かれていったのだった。

だんだんシャツが汗ばんでくるようになってきたと同時に、生徒たちが浮足立ち始めた。

そう。夏休みである。

自分は11月まで部活があるし、毎日学校に来るので別段変わることはなかったが、問題は別にある。隣の女の子に会えなくなってしまうのだ。今までなら夏休みは部活動に打ち込めるし、自分としては最高な時期であったが、好きな子と2か月弱も会えなくなるのはもどかしい気持ちだった。

そう思いながらも時は過ぎてしまい、夏休みになった。

バスケットの夏の練習は全国共通、走り込みメインの基礎連になる。分からない人のために簡単に言うと、めちゃくちゃきついのである。

絶え間なく毎日のようにきつい練習を行い、バテバテになりながらも隣の女の子とのやり取りで癒される。今まで白黒の世界だったのかと、勘違いするほど世界の色や音が鮮やかで、心なしかバスケの調子も上がっていた気がする。

隣の女の子はすでに春に引退しており、毎日のようにバイトに勤しんでいた。

そして夏休み半ば、隣の女の子は映画を見に行ったという話をしていた。

その映画は自分も見たかった映画で、自分も見たいな、なんて話していたら、

「一緒に見に行く?」と言われた。隣の女の子は2回目だし、最初は冗談だと思っていたが、別にいいよ、とのことだったので喜んでいくことを決めた。

しかし現実とは残酷で、自分も強化部の部活で休みがなく、隣の女の子もバイトなどで意外と多忙で、予定が合わなかったのだ。途方に暮れながら過ごしていると数日後に、

「バイトの時間ずらしてもらったから映画見に行こう!」と言う連絡がきた。

自分は飛び上がるように喜んだ。単純に二人で遊べることも嬉しかったが、何より自分のために予定をわざわざずらしてくれたという事実がここまで自分を舞い上がらせていた。初めてのデートではあったが、緊張というよりは楽しみなことのほうが大きかったし、そこまで変な意識はしていなかった。

だがむしろ意識するべきだったのである。

当日、集合場所にきたのはオシャレな服を着てメイクをした隣の女の子が立っていた。

あまりにきれいだったので話すときすごく緊張したが、すぐにいつも通りに話した。

だが、おしゃれな隣の女の子に反した姿で自分は現れてしまったのである。お察しの通りだと思うが、めちゃくちゃダサい恰好をしていたのである。

前述したとおり、自分には恋愛経験がない。とどのつまりおしゃれなど眼中になかったのだ。

くせ毛なのにドライヤーもせず寝た髪でそのまま、訳の分からない英語が書いたよれよれの白シャツ。わけのわからない7分丈(?)のジーパン。体育などでドロドロになった黒の靴。今思えば本当にあり得ない話だが、180センチの大の男がこんなしどけない姿で電車に乗り、街に繰りだしてしまったのだった。

そして映画が上映された。

自分も見たかった映画だし、しっかり見ようと思っていたが、隣の女の子が気がかりで全く集中できない。というのも映画館に入る前、もっと言えばあった瞬間からどこかそっけないような、冷たいような感じがするのだ。心なしか目も合わないような気がする。自分は何か悪いことをしただろうかと気になって仕方がなかったのである。

映画が終わりちょうどお昼時。何かご飯でも食べるのだろうと思っていたが、隣の女の子は、「帰ろっか。」と告げた。

僕はなにも意見することなく、うん、といった。正確に言えばなにも言えなかった。

 

帰る方角は一緒だったのでお互い同じ電車に電車に乗った。

何も話すことなく自分の最寄りに近づいてきたとき自分は勇気を振り絞って、隣の女の子にまたどこかに遊びに行かないかと聞いたが、やはり目も合わずらしくもなく歯切れ悪く「バイトがあるから…」と、それとなくはぐらかされてしまった。

恋愛経験のない自分だったが嫌でも察してしまった。これは

「振られてしまったのだと。」

最寄り駅に着き隣の女の子に別れを告げた。駅のホームを出ていつもより速足で家路につく。

速足だったのにもかかわらず、家までの道のりはどこまでも続いているような気分だった。

毎日のように続けていたLINEもいつの間にか終わっており、そんな毎日にも慣れつつあった。

 

 

そして夏休みが明け、いつも通りの日常がやってくる。

教室に入ると早速席替えが行われ、「隣の女の子」は、ただの「女の子」になっていた。

「隣の席の女の子」、という口実がなければ話すことすらできない。話しかけることすらできなかった自分に心底腹が立つ。

それから、「元、隣の席の女の子」と話すことは一度たりともなかった。

 

i616著

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回は、隣の席の女の子との物語を書いていただきました。

    中学高校とバスケットボールに打ち込み、高校三年生になった著者。
    自分は恋愛に無関心だと思い込み部活に明け暮れていましたが、席替えをきっかけにある女の子に惹かれます。
    女子バスケットボール部の彼女は、春の大会で敗退した著者を励まし、それを機に連絡先の交換をし毎日電話をする仲になりました。
    夏休みに入りしばらく会えない日々を過ごす中、彼女が友人と観に行った映画の話題になり、二人で一緒に同じ映画を観に行くことになります。
    デート当日、彼女はメイクやファッションでお洒落をしていた一方、恋愛経験がなくお洒落に無頓着だった著者は身なりに気を遣わず、そのせいか彼女の対応が明らかに冷たくなったのを感じたのです。
    夏休みが終わり、席替えで遠くの席になった彼女とはそのまま話す機会もありませんでした。

    初めての恋愛経験で揺れ動く男子学生の心情がリアルに表現されています。
    緊張や期待を抱き毎日の会話を楽しむ一方、経験の乏しさからくる失敗により関係がさっぱりなくなってしまう様子が印象的で、学生時代の儚い恋愛が引き立っています。
    恋愛や人間関係において、相手を気遣うことの大切さについて考えさせられる素晴らしい作品です。

    検収者  kitsuneko22

    ③kitsuneko22-10

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