受験生の恋

地味でさえない高校生だった私が、初めてお付き合いした彼とのお話です。 

「出会い」 

あれは高校3年生の夏でした。 

私は志望校に向けて、受験勉強の真っ只中。受験前の夏期講習で、塾に来ていました。 

講義をひととおり受けて、さあ帰ろうと、立ち上がった時です。 

「〇〇、S君が話したい事があるみたいなんだけど、時間ある? 」

と、塾に来ていた友達が話しかけてきました。 

「S君?」 

私は初めて聞くその名前を、繰り返しました。 

学校のクラスメイト、部活のメンバー、など瞬時に記憶を巡らせましたが、S君がだれなのかわかりませんでした。 

「同じ学校の子なんだけど、S君と私は友達でさ。そのS君が、〇〇にどうしても話したいことがあるんだってさ。」 

そう言って、教室のドアのほうを指をさすと、 

「ほら、あの子がS君だよ」 

と言いました。 

パッとそちらに目を向けると、無表情の男の子が立っていて、こちらを見ていました。 

私と目が合うと、彼は小さく会釈をしました。 

「いまから、あっちに行けばいいの?」 

私が友達に聞くと、友達がうなずきます。 

「わかった」 

というと、私は彼のほうへ歩き出しました。 

「はじめまして」

私がS君のほうへやってくると、S君が緊張した様子で話しかけてきました。 

「はじめまして・・・」

私も戸惑いながら返しました。 

「いきなりで、びっくりしたよね。同じ高校なんだけど・・・俺のこと知ってる?」 

「ごめん、知らなくて。同じクラスになったことはなかったよね?」 

「うん、そう。クラスは一緒になったことはなかったんだけど・・・。あ、ちょっと場所変えようか。」 

そういって、S君は歩き出しました。私も持っていたカバンを肩に掛けなおすと、彼の後についていきました。 

「告白」 

教室を出て、すぐ近くの公園に着くと、 

「えっと、さっきの話の続きなんだけど」 

と、S君が切り出しました。 

「じつは、登校の時に〇〇さんのことを見かけて。ずっとかわいいなって思ってて。なかなか学校では話しかけられなかったんだけど、塾も偶然一緒だって知って、これはチャンスだと思って。」 

たたみかけるように話したあとと、一呼吸を置いて、S君が言いました。 

「おれは〇〇さんと友達になりたいんだけど・・・友達になってくれませんか?」 

「え?友達?」 

私は思わず聞き返しました。告白されるかと思ったので、付き合おうと言われたらどうしよう、と思っていたからです。 

するとS君は恥ずかしそうに下を向きながら、 

「いや、本当は付き合って、って言いたいんだけど・・・おれのことも知ってほしいし、まずは友達から・・・どう?」 

私は頭の中がパニックで、思考がまとまらない中でも、 

「いいよ」 

と答えていました。彼の誠実さに、なんとなく惹かれたのだと思います。 

こうして私とS君は、友達になりました。 

「お付き合い」 

その日から、S君と私は毎日、メールでやり取りをしました。 

受験勉強の進捗を話し合ったり、共通の友達の話をしたり。時々電話もしました。たわいもない話をするうちに、いつしかS君との時間は大切なものになっていきました。 

そして、塾の帰り道。S君が遠回りして家まで送って行ってくれたときです。 

家の前までくると、どちらとも足を止めて、少しの間、沈黙が流れました。 

「おれと、付き合ってください」 

言葉を選ぶようにS君が言いました。 

私も「よろしくお願いします」と言いました。 

私とS君は、この日から付き合うようになりました。 

つきあってからも、お互い受験中たったこともあり、頻繁には会えませんでしたが、それでもメールや電話で連絡を取り合うことで、お互いの距離は近くなっていきました。 

そんな中、S君の志望校の推薦が決まりました。一足先に受験を終えたS君は、頻繁に会いたがるようになりました。私はというと、これから受験勉強のラストスパートという時。会いたがるS君と、緊迫した状況が続く私。これまで「受験」という一緒の目標があった二人のあいだに、少しずつ亀裂が入っていきました。 

年が明けて、私の志望校の受験がありました。結果は「合格」。晴れて私も受験を終えたのです。受験というへだたりがなくなり、それを喜ぶ彼をよそに、私の気持ちはすっかり冷めてしまっていました。 

高校を卒業してしばらくした後、私はS君と別れました。 

 

「その後」 

私と彼の大学は、偶然にも車で10分ほどの距離でした。しかし私たちは別れてから、一度も会うことはありませんでした。 

風の便りで、その後同じ大学の先輩と付き合っている、と聞きました。私もそれなりに大学生活を楽しみ、いつしかS君とのことは遠い思い出になっていました。 

もし、S君が推薦に合格しなかったら、大学生になっても関係は続いていたかもしれません。 

初々しくて、もどかしさが残る、甘酸っぱい思い出だけが、今も私の中に残っています。 

s580著

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回は、著者がはじめてお付き合いした彼とのエピソードを書いていただきました。

    高校三年生だった著者は受験前の夏期講習で通っていた塾で、友人を通じて同じ学校のS君と知り合い友達からスタートします。
    その後毎日連絡を取り合い、徐々に距離も近くなり2人は付き合うことに。受験合格という共通の目標もあり、2人はお互いに支え合い勉強に励みました。
    そんな中、S君の指定校推薦が決まり、受験を控え緊迫した著者との間に亀裂が生じます。
    著者は無事志望校合格を果たしますが、彼への気持ちはすっかり冷めてしまい、結局別れてしまいます。
    2人の大学は近くでしたが、その後一度も会うことはなく、甘酸っぱい思い出だけが著者の心に残りました。

    初めての恋愛での恋愛と別れの感情がとてもリアルに表現されています。
    受験という緊張感と恋愛の感情が絡み合っていて、同じ経験のある読者は2人の気持ちに共感できるでしょう。
    お互いを思い合う気持ちについて考えさせられ、切ない結末が感慨深い印象を与える作品です。

    検収者 kitsuneko22

    ㊴kitsuneko22-10

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