クランクインで始まりクランクアップで終わる恋愛模様

顔合わせ

マスコミ関係を目指す専門学校を卒業した私は映画撮影の現場で働きたいと思い学生時代にお世話になった脚本家兼映画監督の先生の下で仕事を手伝わせてもらっていました。
ある時,先生から母校の学生が自主映画の撮影をするので撮影スタッフとして参加してくれないかとの依頼を受け顔合わせの為、久々の母校に足を踏み入れたのです。

OBが1人,急に学生の中へ参加することに少し不安があったのですが幸いなことに学生の皆さんはあまり物おじせず撮影現場経験者が参加することに概ね歓迎ムード。
その中にやけに物知り顔で話しかけてくる女の子,星崎さんとやけに斜に構える男の子,川本くんがいました。

反発と接近

一応先輩ということもありできる限り建設的で監督の意向に沿った意見を挙げるよう意識しながら話し合いに参加していたのですがことあるごとに「私もそう思っていました」といかにもできる女風な話し方をする同じ助監督の星崎さんと「そんなことはわかっている」とやや反発気味の川本くん。
話し合いが進まないということはなかったのですが逆ベクトルからの同意だった為かややギクシャクした雰囲気になる2人。
私が参加することによって生まれている軋轢なので撮影までにこれはなんとかせねばなるまいと思いダメもとで二人を飲みに誘ったところ意外にもすんなりOKをもらえたので居酒屋へ。

飲みながら話してみると川本くんは自分たちの作品作りに対して未熟とはわかっていても外部の力を借りるのがどうも腑に落ちなかったとのこと。
若者だなぁと思いつつ自分はあくまでも1スタッフであり立場は変わらない旨,むしろ自分も勉強のつもりで来た旨を説明したところ打ち解けてきた様子がありホッとしていたところ
「子供だなぁ」と星崎さん。
マジかこいつ。
案の定それに対してかみつく川本くん。
酒が回ってきたこともあり少しどうでもよくなってきたので適当に相槌を打つ私。

その後、同じように最終的には川本くんと星崎さんがあーだこーだと言い合いを始めそれをぼんやり聞いている私という構図でいつのまにやら3人で飲みに行くようになりました。

クランクイン

そんなこんなで私を挟んで仲良くなってきた2人。
クランクインをしたあともいい雰囲気のまま撮影に臨むことができ、私としても一安心です。
私と星崎さんは助監督なので現場の進行をスムーズにするため監督,技術スタッフ,役者さんとの橋渡し役をしつつ撮影準備をしていく必要があります。
また,1日の撮影可能な時間には限りがあるためタイムキーパーとして時にはどこかで折り合いをつけるため技術スタッフの方にシーンのカメラ割を妥協してもらう必要があります。
現場の進行を優先したい我々ともっと様々なアプローチをしたい技術チーム。
初めての現場で初めてしっかりと役職を意識した動きをしなくてはならない学生チームなので自然と衝突は増えます。
他スタッフチームとバチバチになりそうなところを抑えつつなるべく監督の様子を伺い技術スタッフとの妥協点を出しゃばらないように探す。
そしてそれをなるべく星崎さんから伝えてもらうようにしていたからか徐々にカメラマンの川本くんは星崎さんのことを自分のことをわかってくれる人。
星崎さんは星崎さんで自分の立場を理解しつつこだわりを見せる川本くんに尊敬の念を抱き始めたようで誰の目にもわかるほどいい雰囲気に。

撮影日程の中にキャストさんの1人が誕生日を迎える日があり来れる人で撮影終わりに飲み会を開いた時のことです。
星崎さんは撮影現場から離れたところに住んでいるので他の人より早く飲み会をあがったのですが急に川本くんが立ち上がり
「俺決めてくるわ」
と店の外へと走り出しました。
これはもう告白しかないだろとそわそわする一同。
1時間ほどたった後、星崎さんと川本くんが手をつないで帰ってきた時には誕生日そっちのけで祝福の声が上がりました。

クランクアップとそれから

それからも紆余曲折ありましたがなんとか無事クランクアップをむかえ撮影現場で実った恋愛は今回の仕事のハイライト。学生同士の話のネタになりつつ私の仕事は幕を閉じましたちゃんちゃん…となればよかったのですがこれから2人に巻き込まれることになります。
付き合ってから初めてのクリスマス。
鍋パーティーをするから久々に飲まないかと川本くんから連絡がありました。
いや、二人で過ごせやと思ったのですが星崎さんもぜひと言っているとのことなのでお邪魔することに。
そこには三角帽子を被って水炊きのことでケンカをする二人の姿が。
自称できる女星崎さんとこだわりの男川本くんの鍋に対する熱いバトル。
犬も食いません。
こんなに気まずいパーティーは生まれて初めてでした。

ことあるごとに同じような衝突が起きていたことは想像に難くなくその後呼び出された時は別れ話でした。
お互い口もききたくないので間に座らされステレオでお互いの愚痴を聞かされたあの日のことを私は忘れることはないでしょう。

 

s594著

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回の作品は、映画撮影スタッフが出会ったある学生たちの恋愛物語です。

    マスコミ関係の専門学校を卒業した著者は、母校の学生たちの自主映画のスタッフとして参加の依頼を受けます。
    概ね歓迎ムードの中に、物知り顔の女の子星崎さんと斜めに構える男の子川本君がいました。
    著者は先輩として話し合いに参加していましたが、そのせいで衝突する2人を撮影までになんとかせねばならないと感じ、2人を飲みに誘います。
    お酒の力も借りて本心を聞き出し、言い合いを始めながらも打ち解けていく2人。そこにいつの間にか著者も参加させられ、3人で飲みに行くことが増えました。
    撮影が始まると、お互いに理解し合い、誰の目にも分かるほど良い関係になっていた2人。ある飲み会でついに川本君が告白し、星崎さんと付き合うことになったのでした。
    しかし撮影が終わり、クリスマスの鍋パーティーに誘われた著者が見たのは、鍋に対する熱いバトル!そして著者が次に呼び出されたのは別れ話でした。

    性格の違う2人の紆余曲折ある恋愛事情が、巻き込まれた先輩という目線で語られる面白い作品です。
    題名の通り、クランクインで始まりクランクアップで終わる恋愛模様は、まるで撮影の中で生まれたもう一つのドラマのようです。
    その中で、仕事や恋愛といった人間関係の難しさもしっかり表現されていて、素晴らしい作品に仕上がっています。

    検収者 kitsuneko22

    ㉜kitsuneko22-10

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