一般的に、付き合っている人がいるのに、
他の人に心が揺れることはいけないことだと言われている。
気持ちが揺れることなんて、きっとみんな経験があるのに。
周りが知らないだけ。
周りに言わなかったけれど、心が少し動いた経験。
私にも一度だけある。
決意の25歳
大学を卒業して3年、学生時代からの居酒屋でアルバイトとしてそのままずっと働いている。
社員にならないかと誘われたこともあったけれど、
平日と土日に関係がないサービス業は正直しんどいなと思っていたので、お断りした。
初めは何も感じなかったが、同級生たちが新卒から正社員として働き、
3年目ともなると早い人は主任や課長など、役職がつく人が増えてきた。
ここで初めて”やばい”と思った。
「私、このままじゃいけない」
人生そんなに甘くない
バイトだけれど仕事があって、彼氏もいて、人生充実していると思っていた。
でも、周りの友人たちが少しずつ変わっていく中、自分は何も変わらない。
大学を卒業したのにずっとこのままバイトでいいのだろうか。
置いていかれてしまう…と焦りがでてきたのだ。
そして私は、正社員として働くため、就活を始めた。
しかしずっとバイトだけをしてきた私に、
そんなに簡単に正社員の仕事が見つかるはずもなかった。

挑戦
そんな時、目に入ったのは企業のHP作成をするIT業界での職業訓練だった。
政府が助成金を出資しているプロジェクトで、
聞き慣れないものだったが、
「働きながらスキルが身につき、お金が貰える」
「スキルを身に着けてから正社員として就職できるよう就活をバックアップしてくれる」
という、私にとっては有難いものだった。
ITの知識は全くなかったものの、迷わずすぐに応募した。

新しい環境
入社後は、座学で名刺交換や電話の受け方、
営業としての商談ロープレなど、社会人としての基礎を学んだ。
慣れないオフィスワークに疲れはあったものの、接客業をしていたせいか、
同期が苦戦していたテレアポや商談ロープレも楽しく、順調な滑り出しだった。
そして、研修が終わり、入社2か月目からは各チームに配属され、
私たちより1か月先に入社していた先輩たちと、合同で仕事を進めることになった。
しかしこのチーム分けが、「 最 悪 だ っ た 。 」
衝突の嵐
チーム内で、案件をテレアポや商談で取ってくる“営業”と、
取ってきた案件通りに企業のHPを作成する“制作”に分かれた。
PCの制作スキルがない私は営業となり、
制作を担当する1期上の先輩Aとコンビを組むことになった。
本来であれば営業がクライアントと制作の間をディレクションする役割を担うのだが、
私たちコンビは違った。
Aがディレクションも制作も担うのだ。
営業である私は、クライアントに電話をかけ、
Aに指示されたことだけを伝える言わばただのお手伝いだった。
初めはそれでも良かったが、3か月も過ぎると、
私も仕事の流れがわかってきたこともあり、
Aに意見し、衝突することが増えていった。

一番大きな大事件
納品日が近付き、
できる限りクライアントの要望通りに仕上げたい私と、
マンパワーが足りずに作業が進まないA。
お互いの言っていることはわかるけれど、どうしようもなく、
気持ちに余裕がない状況だったある日、私たちは遂に大喧嘩をした。
あまりの気まずさから、その日は残りの作業もお互い言葉を一切交わさず、
チャットだけで要件を済ませ、会社を去るほどだった。
帰宅し、冷静さを少し取り戻した私は、ここでようやく気が付いた。
納品日までの時間も、
Aとともにここで契約社員として働く期間も残りわずかであることに。
気遣いドリンク
翌朝、私はAへ謝罪しようと、
出社前にカフェでAがよく飲んでいるコーヒーを購入し、会社へ向かった。
まだ数人しか出勤していないオフィス。
自席につくと、デスクの上には紅茶が1本置いてあった。
メモなどないが私は、誰がこれを置いたのかすぐに分かり、本人の元へ急いだ。
紅茶のお礼と昨日の謝罪、
これからの意気込みを伝えながら、私はコーヒーを差し出す。
コーヒーを受け取った本人も
昨日の謝罪とこれからについてを伝えてきた。
そしてお互い顔を合わせて笑った。

心躍る
衝突後の私たちコンビの作業は順調だった。
今まで案件の話しかしてこなかったが、
今ではお互いのプライベートや彼氏・彼女の話までするようになった。
仕事帰りにお酒を交わしたり、帰宅後も携帯で連絡を取り合ったり、
衝突前までのギクシャクした関係からは考えられないほど、仲が良くなった。
いつの間にか、この時間が心地よいと思うようにもなっていた。
そして、無事に納品日を迎え、とうとうAが契約満了の日を迎えた。
動きを止める心
一緒に案件を最後まで担当できたこと
最後にはお互いの考えが理解できるようになったこと
お酒や好きな音楽など実は共通点が多かったこと
そして今、ほんの少し気持ちが動き、
一緒にいると心が弾むようになっていること
始まりは最悪だったものの、
時間とともにそれは美化され、今では良い思い出になっている。
お互い彼氏・彼女がいたので、恋愛に発展することはなかったが、
もう少し一緒にいる時間が長かったら、私の気持ちは大きく傾いていたかもしれない。
今、心が躍っていることは
この動きが止まるまで
だれにも言わず
私だけの秘密にしていようと思う。

Nsgjkyl著









コメント
コメント一覧 (2件)
pr
Necomakiさん
3記事目の投稿をして頂きまして有難う御座います。
それでは検収をさせて頂きます。
今回の作品は同じプロジェクトに携わる事に成った男女が相手の魅力を知ることになる作品です。
兎角職場で共に挑戦する事になる業務では、苛立つことも多い物です。
更にお互いに生活環境が違う物同士で仕事を進めるなかで協力して効率良くこなして行くためには大変な努力と忍耐が要求されます。
とうとう我慢しきれず溜まっていた不満がお互いにぶつかり合って大喧嘩をしてしまいます。
しかし、ここから彼等の本来育っていた思いやりの気持ちが発揮されます。
暫く離れてお互いに自問自答していき感情に流された所を反省する事になります。
方向は一緒なので互いの良し悪しが理解出来てくると相手の気にくわなかったことも魅力に感じるようになってしまいました。
プロジェクトが終わり別れる時共に寂しさを感じてしまいます。
構成と文章の流れが良く出来て居ます。
それぞれ男女の気持ちを上手く表現して良い内容の作品になっています。
有難う御座いました。
それでは今回の検収をこれにて完了と致します。
次回の投稿記事も楽しみにお待ち致します。
井上保夫