クリスマスの出会い

「「「メリークリスマーーーーース!!!!」」」
いくつかのグラスが心地の良い音を立てて鳴り響く。
ラウンジで働く紗由はサンタのコスプレに身を包みシャンパンを口に含んだ。
20代男性4人組。容姿は普通だが羽振りが良く、会話も楽しい良客のため充実したクリスマスだなと微笑む。
「クリスマスなのに奥さん怒らないの?」
左手の薬指に指輪をしている男に尋ねると
「い~の!コイツが来年から1年間、中国に出張だから送別会よ」
適度にお酒が回り気持ちよさそうに隣の男を指さした。
隣の男、浩輔は先日も会社の上司であろう人たちときており、いじられキャラでありながら上手に上司を立て、キャストにも気を遣っていたため、誰にでも好かれる人なんだな、と紗由は覚えていた。
がっちりした体格と形の良い眉、豪快な話し方や仕草から男臭い印象を与えるが、よく見ると猫っ毛と大きな瞳が可愛らしい男だ。
「まだ若いのにすごいですね!出世コースじゃないですか♪」
「それはない!ただの社畜よ(笑)今のうちに日本の女の子に癒してほしいわ」
彼の勤務先が、誰もが知っている大手企業であることは知っていたため、仕事ができる人であることは想像がつくが、おどけるように謙遜する様子に好感が持てた。
だが、ここで好感を持ったところで一夜限りの客に過ぎない。
結局、閉店間際まで彼らは延長してくれて、他愛の無い会話を楽しんだ。
帰る際、お決まりのように浩輔達と連絡先を交換したが、海外に行ってしまうのであれば常連になることも無いと思い、紗由は今日のお礼の連絡だけ入れた。
『今日はありがとうございました♥海外頑張ってくださいね!』
常連や指名客でなければ、既読無視かスタンプが返ってきてそこで終わりなので、まさかここからやり取りが続くとは思いもしなかった。
心地よい関係

『おはよ~!中国飯めっちゃまずいわ』(1月5日 午前10時)
「お疲れ様!それはヤバいね!痩せちゃうじゃん(笑)」(1月5日 午後11時)
『水だけでも太るでそれは無い(笑)』(1月5日 午後11時5分)
「こんばんは!それわかる(笑)」(1月6日 午後11時42分)
『お疲れ!運動せなかんな~。ちゃんと飯くった?』(1月6日 午後11時53分)
浩輔が中国に行った後も以外なことに連絡は続いていた。
どうやら彼はマメらしい。連絡のレスポンスがとにかく早い。
紗由は基本的に人と連絡を取ることが好きではないため、1日に1通程度しか返信しないが、それでも数分後には必ず返信が来る。
国内にいないため、常連になる見込みも無い。
何度か返信することを辞めようか…とも思ったがなぜかできずにいた。
『そういえば体調大丈夫なん?』(2月3日 午前8時20分)
「よく覚えてたね。もう平気だよ!」(2月3日 午前11時)
『そら覚えとるわ!心配やもん』(2月3日 午前11時15分)
『前言ってた会社のプレゼンは成功したん?』(2月20日 午前9時)
「記憶力良すぎん?無事成功です!」(2月20日 午前10時40分)
『ちゃんと覚えとるよ!さすが紗由ちゃんやん』(2月20日 午前10時55分)
それどころか、何気ない会話を覚えてくれている浩輔に心地良さを感じ、連絡の頻度は増えていった。
『ちなみに…誰にでもこんな優しくしとるわけじゃないからね!』
『かわいい。めっちゃ俺の好み!』
時々送られてくるそれらしい言葉で、浩輔が好意を抱いていることに気付いてはいたが、今の関係が壊れてしまうことが嫌で、紗由は気付かないフリをしていた。
『伝えたいことがあるんやけど…』
だがそれもそう長くは続かなかった。
恐らく告白されるだろう。
ただ、恋人になると今の親友のような関係が変わってしまう気がする。
だが断ってしまえば浩輔の性格上、連絡が来ることはなくなるだろう。
『俺、紗由ちゃんの事好き。…でも!返事はいらんから!気持ち伝わればそれでいいから』
恐らく自信が無かったのだろう。浩輔は返事を求めてこなかった。
それに甘えてしまった。
紗由はお礼だけ言い、今まで通りの関係をできるだけ続ける選択をした。
「おはよ!仕事行きたくない~」
『おはよ~!それな…週末遠いわ』
大丈夫。今まで通り。昨日の告白は忘れよう。
気持ちは嬉しいが今のままがいい。ずっとこのままがいい。
浩輔の気持ちなど考えず今まで通り、会社での出来事やラウンジの客の話をしていた。
彼への罪悪感と本当の気持ち

告白から少し経ったころ、紗由は小さな違和感を覚えはじめる。
『いっそのことお客さんと付き合っちゃえば?』
『俺の事なんて気にせんでええよ』
今までは無かった棘や卑屈が入るようになったのだ。
浩輔を苛立たせている。もしかして嫌われたのか、もしくは他に好きな人できたのか。
色んな考えが紗由の頭をめぐるが、出てくる結論は一つで、浩輔との連絡が途切れてしまうことへの恐怖だった。
「もう私の事嫌いになった?そうならちゃんと言ってほ『ちゃうよ!逆よ!好きすぎてよ!!』
数えきれないほど電話もしたが、遮るように声を荒げる浩輔は初めてだ。
『何で伝わらんの?俺好きなんよ。めちゃくちゃ好きなんよ。なのに他の男の話されても辛いやん…しんどいやん……』
徐々に弱々しくなる声色。
泣きそうな声で紡ぎ出せれる真剣な言葉達に胸が締め付けられるように痛んだ。
浩輔の気持ちを何も考えていなかった。
好きな人に異性の話をされて心地よい人などいないだろう。
改めて彼の優しさと、酷いことをしたのにも関わらず、紗由の事を好きでいてくれる人柄に鼻の奥がツンと痛む。
「ごめんなさい…今の関係が、変わるのが怖くて…恋人同士になったら終わるきがして」
ぽつりぽつりと本音を伝える。紗由の頬には涙が伝っていた。
浩輔は子どもと話す時のように、ひたすら優しい声で相槌をくれた。
『関係性が変わっても本質は変わらんよ。あと、俺から振ることは絶対ないから安心して』
「…うん」
『彼女になってくれる?』
「…よろしくお願いします」
『ありがとう』
スッと胸の痛みがとれた。信じてみたい。この人なら大丈夫。そう思えた。
変わらない2人の未来

2年後。
「新婦の入場です」
開かれた扉の先にはグレーのタケシードに身を包んだとびっきり素敵な彼が待つ。
『ね!俺から振ることは無かったやろ?奥さんになってくれてありがとうね』
そっと耳元で囁かれた。
「こちらこそ!私なんかをずっと好きでいてくれてありがとう!」
あれから約1年の遠距離恋愛と1年の同棲を経て今日私たちは夫婦になる。
skomeij著









コメント
コメント一覧 (2件)
pr
sayo0908さん
2記事目の投稿記事を作成して頂き有難う御座います。
それでは早速検収をさせて頂きます。
今回の作品はドラマチックな男女の恋愛が思わぬ形で展開して行く作品です。
夜の高級クラブでのエリートサラリーマンとホステスとの関係を上手く表現しています。
仕事の出来る彼にとっては彼女は娯楽の一環だったはずです。
しかし彼は彼女の事が忘れられない事になっていきます。
男女の相性も上手く表現されています。
遠距離恋愛になった二人ですが、彼の誠実な気持ちは変わりません。
そんな彼に引きつけられていく彼女の思いが作品を引き立たせてくれています。
単純に思えるストーリーにもこんなに男女のドラマが繰り広げられて行くのも、
彼等の周囲に支えてくれている人々がいるからでしょう。
構成も文章も流れの良い作品になっています。
有難う御座います。
それでは今回の検収を完了と致します。
次回の記事も同じテーマとなります。
また同じ様に投稿して頂ければそれが納品となります。
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どうぞ宜しくお願い致します。
次回の投稿記事も楽しみにお待ち致します。
井上保夫