大切な人

朝起きると、足のももが筋肉痛になっていた。
ネギ農園でアルバイトを始めて、半年程経っている。
週2日程行っているが、働いた翌日は、まだ体が痛い。
一人息子も働き始め、家にお金を入れてくれるので、以前のように週5週6で働かなくてもいいのだが、今日子は元々動いていないといられない性分なので、大学の掃除のバイトがない日は時間を持て余してしまい、ネギ農園のバイトを始めたのだ。
ネギ農園は、工場内でのネギの皮むき、選別、梱包作業と、外での収穫作業の2か所に分かれて作業を行う。
今日子は人見知りもせず誰とでも話せる性格で、何処に行っても良好な関係を築けるが、
ネギ農場でも、女性同士でよくある派閥があり、それが嫌で男性が多い外の収穫作業を希望するようになった。
体力的には厳しいが、人間関係で気をつかう事がない分ストレスなく仕事ができた。

繫忙期に入る前の10月に農園がアルバイトの大量募集をかけた。
毎年多く募集をかけ応募もかなりくるようだが、続けられる人はごくわずからしい。
工場内では人間関係を気にしなければ続けることは出来ると思うが、外の作業は慣れないと体がきつくてすぐに辞めてしまう人が多い。
今日子の場合、外では女性が一人だけなのもあって周りのおじさん達が助けてくれるし、
社員さんも、楽に作業ができるように、今日子に作業をまわしてくれる。
今回の募集で入ってきた人は15名程だった。男性がほとんどだった。
工場内の女性達は、「あの人ちょっとイケメンねぇ~」
「あの人何言ってるかわかんない~」「とろそう。あの人。」等々
休憩中の話のネタにしていた。
今日子も昼食時に、新人さんの事を色々聞かれたが適当に話していた。
今日子が女性で一人だけ外の作業をしているのを面白くないという古株の人もいて
そういう人には嫌われるとめんどくさいので、調子よく話を合わせて接していた。
新人さんたちは、1週間、2週間と日がたつと、ひとり、またひとりと来なくなっていた。1ヶ月たつと、来ているのは1人だけとなった。
その男性は中村さんといい、仕事は真面目にこなすが、無口で誰とも喋らず、昼食も休憩室でとらずにどこで食べているか分からなかった。
女性達は「あの人何か怖くない。」「なんか気持ち悪い。」と話題になっていた。
今日子も「そうね。何か変よね。」と言って話を合わせていた。
今日子は誰とでも喋り、人が近くに居れば喋らずにはいられなかったから、中村さんが近くに居る時は話しかけるが、頷くだけか、小さい声で「はい。」というだけだった。
収穫作業は2人で組んでやることがおおく、社員さんも中村さんを誰と組んでもらうか悩んでいた。仕事が真面目にやるのだが反応があまりないので、おじさん達も敬遠気味だった。
となると面倒見のいい人と組んでもらう事となり、金子さんというおじさんと今日子が組むことがおおかった。
金子さんと今日子はやりずらいながらも声掛けをして一緒に働いた。中村さんは、不器用ながらも、それに応えようと一生懸命に動いているように見えた。
中村さんが入社から2ヶ月程たつと、要領よく早く仕事が出来るようになり、無言ながらも
周りを見ながらみんなのフォローまでするようになっていた。
周りのおじさん達も、中村さんの働きぶりを関心し、声を掛けるようになり、
話すことはなかったが、中村さんも笑顔で応えていた。
そんな中村さんの姿を見て「よかった。」と思い、
以前、中村さんの事を、まわりに同調して悪く言っていたこと恥じた。
若い頃から今日子はもてた。
それは自分でいうのもなんだが、容姿がいいからだった。
チヤホヤされて悪い気はしなかったが、付きまとう男達は軽い人達が多かった。
自分も男をみる目がなく、付き合った男は遊び人が多かった。
結婚した男も同じで、結婚後すぐ浮気をし、子供がまだ小さい頃に別れた。
それからは、男性と付き合うこともなく、子育てと仕事に没頭した。
子供も成人し、「ママ、いい人いたら結婚してもいいんだぞ。」と生意気な事を
最近言うようになり、職場でも、言い寄ってくる男もいたが、男はもういいと思っていた。

ねぎ農場も繫忙期がすぎて、草取りの作業が多くなってきた。
草取りも大変な作業で、みんな文句をいいつつ作業していたが、中村さんは一人黙々と作業して人一倍働いていた。
ある日、みんなで草取りをしてると、後方で大きな音がした。
見ると、バイクが転倒していて、男の人が倒れていた。
すると、中村さんがカマを放り出し、走って行った。
後ろから来ていたトラックが気付いていないのか、倒れているバイクに迫って来ていた。
中村さんが倒れているバイクの前に立ち、両手を振って「止まれ~!」と大きな声を出した。
トラックは急ブレーキを掛け止まった。
その光景をみんなで呆然として見ていた。

帰りに中村さんとタイムカードの前で偶然会った。
今日子が「中村さん凄いね。咄嗟に助けに行くなんて。中々出来ないよ~」
中村さんは「いいや~」と一言だけ言ってうつむいた。
今日子はもっと中村さんと話したかったが、無理そうなので、
「じゃ、お疲れ様。」と言うと、
「あの~俺~、今日まで続けてこれたのは、あなたと金子さんのお陰です。」
「お二人が俺なんかにやさしく教えてくれたんで…」と言ってうつむいた。
今日子は何故だか涙が出てきた。
「じゃーさー。今度三人で飲み行こうよ。」というと、
中村さんは「はい。」と大きく返事をし、微笑んだ。

y626著

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コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回の作品は、アルバイト先で出会ったある男性のお話です。

    主人公の今日子はネギ農園でアルバイトをしており、女性の少ない外での作業をこなしていました。
    繁忙期でアルバイトの大量募集で多くの人が集まりましたが、日が経つにつれて人が減り、一か月後には中村さんという男性が一人残っただけでした。
    仕事は真面目ですが無口な彼のことを工場内の女性たちは気味悪がり、今日子も嫌われるとめんどくさいので話を合わせていました。
    2か月も経つと彼の仕事ぶりが評価され、彼の顔から笑顔が溢れることも多くなり、今日子は彼を悪く言っていたことを恥じました。
    ある日の作業中、目の前でバイク事故が起こってしまいます。周りが呆気にとられる中、彼は一人飛び出し倒れた男性を助け出したのです。
    今日子はそのことを感心して彼に話しかけ、彼から今日まで働いてこれたことの感謝を述べられ涙します。
    今日子が彼を飲みに誘うと「はい!」と返事をして微笑む彼でした。

    主人公今日子とアルバイト先で出会った新人の男性との絆の深まりを描いた作品です。
    最初は孤立している彼でしたが、周囲との協力と努力によって変化し仲間として認められる姿は感動的です。
    仕事の真面目さをはじめ、咄嗟の事故にも物怖じせず対応する男性の人柄の良さが滲み出ています。
    人とのコミュニケーションや協力が重要であり、お互いに理解し受け入れ合うことが大切だと分かる素晴らしい作品です。

    検収者 kitsuneko22

    ㊱kitsuneko22-10

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