キャリアウーマンの同僚

仕事が生きがい

 

大手広告代理店に勤務するアラフォー(30代後半)女性の話。

残業、居残り当たり前、仕事のために生活を捧げる女、それが私(K子)。

入社した当時から、周囲に、仕事に取り組む姿勢が異常だと言われ続けてきた。

会社に入社した女子社員は、お茶汲み、愛想笑い、電話番、軽い事務作業でもやっていればいいんだ、みたいな風潮が大嫌いだった。

私の方が優秀、私の方が仕事が早い、私の方が上手くやれる、そんな事ばかり考えていた。

私生活をおろそかにしても、気にならなかった。恋愛や結婚、そんなものにかまけている暇が無い。仕事を犠牲にする気はさらさら無かったから。

私から仕事を取ったら何も残らない。そういう人間だと自負している。

そもそも、私は恋愛体質では無いし、そういうことに向いていない自覚がある。彼氏に甘えるみたいな自分が想像できない。

それはドラマの中だけの出来事だと思って生きてきた。自分とは関係が無いことだと割り切っていたのだ。「皆、暇なんだなぁ」ぐらいの感覚で。

仕事の同僚

そんな私でも男を憎んでるわけでは無い。

同期入社した同僚のR君とは長い付き合いで、数々の仕事を共に乗り切ってきた。

励まし合ったり、アドバイスや意見を交換し、時には仕事の方向性で言い合いになった事もある。異性として見たことは無く、ただの仕事仲間でしかなかったけど。

R君を最初に見たのは、会社説明会の会場だった。

沢山の新卒就活生の中で、たまたま隣の席に座っていたのだ。

特別イケメンでも無く、かといって不細工でも無い。

ごくごく普通の就活生で、目立った存在では無かった気がする。

彼は良い意味で力が抜けている、というか温厚で平和主義だった。

周りの空気を読むことが自然とできている。協調性があるというか、長いものに巻かれるのが上手いというか…。

うちの部の上司が、R君を叱っている場面を見たことが無かった。

二人で飲みに行く


ある日、急な仕事で、明日までに納品する企画で残業になってしまった。

必死になって仕事をこなしていると、オフィスにはR君と私しか残っていない。

他の社員は早々に帰宅してしまったらしい。

キーボードで打ち込むカタカタ音だけが、オフィスに響いている。

「R君、もう帰っていいよ、お疲れ様。」

「え?K子は帰らないの?もう12時回ってるけど」

「まだ仕事残ってるし、もう少しやってから帰ろうかなと思って」

「持ち帰ればいいじゃん、仕事なんて。飲もう、飲まなきゃやってらんないだろ」

私は半ば強引に外へ連れ出され、寒い冬の外気にさらされる。

タクシーを拾って、R君がよく通っている店に向かうことになった。

仕事の愚痴から

「へー、こんな店あったんだ」

店内には深夜にも関わらず、そこそこ賑わっている。

仕事終わりの会社員や、夜の仕事の従業員らしき人たちが飲食を楽しんでいた。

奥の席に通された私達は、軽いつまみとお酒を注文することにした。

R君は仕事の疲労感が残っているのか、一言も発さずにスマホをいじっている。私も喋る気にはなれず、椅子にもたれ掛かり、天井をなんとなく眺めていた。

「いやぁ~今日はきつかった、何で俺たちばっかり働いてるのかねぇ?」

R君が絞り出すような声を出し、火が付いたように話し出した。嫌味な上司の悪口から給料の低さ、残業手当がつかない事への不満など。

普段は何も不満はありません、みたいな顔してるくせに、そこそこ溜まってるんだなと少し可笑しくなる。

入店から30分もすると、変に盛り上がって、それぞれの身の上話になった。

R君とは長い付き合いなので、誰と付き合ったとか、どこに引っ越したとか、日常生活のこともある程度は知っている。彼は自分のことを話したがる性分なのかもしれない。

「そういえば、K子って付き合ってる男とかいないの?」

良い感じに酔ってきたR君が、けだるそうに聞いてきた。

私は普段、自分の事は話さないようにしていた。プライベートにはずかずか踏み込んでほしくないからだ。仕事以外のことは極力話したくない。

「…いないよ?いるわけないじゃん。仕事忙しいしさ、いたって面倒なだけだし…」

今だけは酔いが回ってベラベラ話してしまう。仕事のストレスで愚痴りたくなっていたのかもしれない。R君と恋愛の話をするとは思わなかった。

変に盛り上がり、止めどもなく会話を楽しんでいる自分がいた。

R君を男として見たことは一度もない。ただの同僚でしかない人だ。長く一緒に居過ぎて、今更そんな感情さえ沸かない。

「へぇ~。K子ってさびしい奴なんだなぁ…俺たち付き合っちゃうかぁ?なぁ?」

「はぁ?」

「K子も俺も相手が居ない…寂しいもん同士でくっついたっていいだろぉ?なぁ?」

「いやぁ…無理無理、ないわぁ」

「K子のこと好きなんだよぉ、なぁ、いいじゃん。」

冗談で言っているのは分かっているけど、好きと言われれば悪い気はしない。

酔っぱらってドキドキしているのか、そう言われて動揺しているのか分からないが、胸がドキドキしている。これって…。

その後

あの後、R君とは何もなかったかのように日常に戻った。

連絡先は元から知っているし、今更どうこうなる関係性でもない。

近過ぎる相手とは恋愛に発展しない。それがよく分かった。

別にそうなることを期待していたわけじゃないけど、何か変化があってもよかったのに…。

 

T623著

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回の作品は、あるキャリアウーマンと同僚の物語です。

    広告代理店勤務のアラフォー女性K子は、仕事に生きがいを感じているキャリアウーマンでした。
    同期入社したR君とは長い付き合いで、数々の仕事を共に乗り越えた仕事仲間でした。
    ある日、残業終わりに二人で飲みに行くことになり、仕事の不満からお互いのプライベートな話まで2人で話が盛り上がりました。
    お酒の勢いもあり、R君から告白めいたことも言われ、まんざらでもなかったK子。
    しかし次の日からは通常の関係に戻っており、いつもの仕事仲間としての関係が続いているだけでした。
    心の中で少しだけ変化を期待したK子でした。

    キャリアウーマンとして働き恋愛に興味がなかった女性が、同僚との会話で心情に変化が現れた様子が描かれています。
    いつもは仕事仲間という関係を保つ二人が、プライベートな話を機に心を動かされる様子は非常にリアルで、物語に惹きこまれます。
    登場人物たちの心の動きが伝わる素晴らしい作品です。

    検収者 kitsuneko22

    ⑫kitsuneko22-10

コメントする

目次