自覚をするのが遅すぎた

周りの子たちが好きな男の子について話をしている中、私はその話に全く関心が持てなかった。
元々人付き合いが得意って訳ではなかったし、男の子と喋るよりは女の子と話す方が楽しい。
恋愛ドラマを観るよりもバラエティ番組を見てご飯を食べながら笑うのが好きだ。
運動会や文化祭、修学旅行なんて苦痛でしかなかった。仲良くもない人と何を話せばいいんだろうって。
気づけば高校卒業間近になっていた。
仲の良い吹奏楽部の女の子から、
「バレンタインどうする?」と聞かれた。
高校3年の1月、2月というのは進路が決まった人にとっては凄く暇な時期である。
授業で勉強すべき事はもう終わっているから、3年生は自由登校になる。
卒業後に就職を控えている子達は、運転免許が必要になるからと自動車学校に通っているし、進学の子は大学から出された課題をやったりバイトしたりと様々だ。
私は特に目立った成績では無かったが、問題を起こす事なく真面目に授業を受けていたので地元の大学から推薦を貰い、早めに合格を貰っていた。
つまりは暇を持て余していたのである。
バレンタインどうする?と聞いた彼女はきっとあげる相手がいるのだろう。高校に入学してから3年間、同級生の男の子に渡し続けている。
いい加減付き合えばいいのに、と伝えてみたところ駄目だったらしい。彼女が片思いしている彼は、先に高校を卒業した部活の先輩に想いを寄せているのだとか。
だから彼女は私に口を酸っぱくして言うのだ。
「気づいたらすぐ行動しないと。それが少しでも遅いといつの間にか失恋しちゃうんだからね?」
私の初めてを奪った人

高校3年生、バレンタインを直前に控えた私は家から近いところにあるケーキ屋さんのショーウィンドウを見ていた。
まだ出来て新しいお店は、若いご夫婦が2人で切り盛りしているお店だ。おすすめはチーズケーキ。アメリカ風のベイクドチーズケーキがとても美味しいケーキ屋さんだ。
「ちーちゃんがお客さん側に来るなんてちょっと珍しいね」
“ちーちゃん”とは私の事だ。名前から一文字とってちーちゃん。同級生は名前で呼ぶ事が多いのであだ名で呼ばれるのはちょっと恥ずかしい。
「バレンタインが近いから。ちょっと参考にしようと思って」
「あら、じゃあ今年のバレンタインはシフト入れないようにしないと!」
何て、お店でケーキの箱を組み立てていた奥さんが言う。
数年前に出来たばかりのこのケーキ屋さんは、私が高校に入学してからずっとアルバイトしてるお店だ。
「あげる人は決まっているの?」
奥さんが私に問いかける。
「あげようかあげないかで悩んでいるんです。」
「あら、もしかして最近は来てないけど…学ラン来ているあの男の子?」
ドキッとした。
そんなにわかりやすかっただろうか。
「良い子よね〜。年の離れた弟くんにいつもプリン買っていって。アルバイトのお給料出たら必ずウチに来るんだもん」
他校の男の子がいる。
彼は恐らく、私の高校から少し離れたところにある男子校の生徒だと思う。
1年ちょっと前くらいからお店に来るようになって、いつも瓶に入った手作りプリンを買っていく人だ。
クラスメイトとは大して話をする事はないのに、お店に来てくれる彼は自然と会話が弾むのだ。
初めて話をしたときは彼の弟と来ていた時だと思う。ケーキの入ったガラスのショーウィンドウケースにぴったりとくっついて離れなかったのだ。
彼はお店の迷惑になるからと焦っていたが、私と奥さんはその光景が微笑ましくて。「ゆっくり選んでくださいね」って声をかけたのが始まりだ。
お父さんがいない母子家庭らしく、弟の面倒を見ながらバイトなどで家計を助けているのだとか。
大学に行く予定はなかったけど、スポーツ推薦で奨学金を受け取れるようになったとか。
あまり表情の変化がない彼だけど、ケーキを選んでいる時は頬を上げているのとか。
最初は少し怖そうだったけど、何だか可愛く思えてきて。
友達に言われたバレンタインの話を聞いて、真っ先に思い浮かんだのは彼だった。好きかどうかは正直わからなかったけど。
でも、18年間生きてきた中で初めてチョコレートをあげたいと家族や友人以外で思った人だった。
それが答えだよ

“受け取ってください”
バレンタインの少し前に兄弟揃ってケーキ屋さんに訪れた彼らに渡したのは、チョコレートでもなく、お店の一番人気のチーズケーキでもなく、プリンだった。
悩んだ結果である。
甘い物は好きだけど、チョコレート系のケーキを頼んでいるところは私が接客している限りでは見たことがなかった。
お店で一番人気のチーズケーキも買っているのは2回くらい。
彼は弟と一緒なものを買っていく事が多かった。プリンが残り1つの時なんてものすごく落ち込んでいた。
じゃあ、決まりだ。と旦那さんに頼んでその日からシフト終わりにプリン作りの特訓をした。
プリンなんて卵と牛乳と砂糖があれば出来るだろうと思っていた私は何度も挫折しそうになった。コンビニなんかで手軽に手に入るあのスイーツは、実は作るのが凄く難しい素人泣かせの代物でした。
何とか完成したプリンを箱に入れてラッピングをして彼が来るのを待った。
そして運良く出来上がった翌日に彼は現れた。
勇気を出して、彼の弟の分も入った箱を渡した。
彼は固まっていた。しばらくフリーズしてから顔を赤くし始めた。私もきっと真っ赤だったと思う。
“弟さんと食べてください”とかすれた声で言ったと思う。
いつもの顔に戻った彼は、お礼を言って店のプリンを1つ購入した。
私は「え?何それ?私のプリンは食えねぇって言いたいの?」と混乱していた。
ショックを受けて、言われた通りプリン一個を箱に入れて渡した。彼の手元にはプリンが3つ。
彼は、言った。
「今日、何時にバイト終わりますか?」
「え?」
「俺は、弟のことを結構可愛がってると思ってます。でも、ずっと好きだと思っていた人の手作りのものを弟に分けてあげられるほど器の大きい男ではないんです。」
なんて言って、精一杯の笑顔を私に向けたのだった。
YUKI 著









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