これは私が大学生の時の話です。当時働いていたショッピングモールのカフェで、私は初めてひとめぼれをしました。

「ひとめぼれ」
私が働いていいたカフェは、和スイーツをメインにしたカフェでした。シフトは週4日、夕方からラストまで。小さなカフェだったので、キッチンとホールを兼用しながら働いていました。
その日はホールを担当していました。平日だったこともあり、客入りも少ない日でした。
私は手が空いていたので、レジの前に立ち、備品や金額のチェックをしていました。
ふと私は、向かいのレストランのほうに目をやりました。
私たちのカフェは飲食店が立ち並ぶフロアにあり、カフェの向かいにはイタリアンレストランがありました。そのレストランは調理場がガラス張りになっており、調理している様子が見えるようになっていました。そのガラス越しに、コックコートに身にまとった、すらっとした長身の男性が、鍋を振っていました。
「あれ?あんな人いたかな?」
小顔で少し日に焼けた、くっきりした目元が印象的な人でした。姿勢がよく、コックコートがとても似合っていました。
真剣なまなざしで調理するその姿に、私は惹きつけられていました。きっとこれが「ひとめぼれ」だったのだと思います。

「進展」
私はバイトに行くたびに、彼の姿を探しました。彼の姿が見られると舞い上がり、見られないと落胆しました。その様子を、事情を知っているバイト仲間たちは、よくからかっていました。
私の彼に対する想いは、日に日に強くなっていき、ついに私は告白を決意しました。
彼との接点が何もない私は、作戦を立てました。
彼が休憩に入ったタイミングで、自分も用事を作ってバックヤードに行き、彼と鉢合わせしたところで、連絡先を書いた手紙を渡すというものでした。
作戦はうまくいきました。私は彼に手紙を渡すことができたのです。
初めて手が届く距離で見た彼は、思っていた以上にかっこよくて素敵でした。
その日のうちに、彼から連絡がありました。彼も私のことを知っていたようで、すぐに私たちの交流は始まりました。それは私にとって、ひそかに思い描いていたもの。毎日が浮足立って幸せでした。
ただ、私は一つ誤算をしていました。
それは、彼が『自分よりも5つも下の、高校生』だったのです。

「年の差」
私たちは連絡先を交換してすぐに、付き合うことになりました。相手が高校生だったのは正直いってショックでしたが、その頃は恋に盲目。「年齢差なんか気にしなければ、きっとうまくいく!」と私は思っていました。そんなことよりも、両想いになれたという幸せに浸りたかったのです。
たとえばバイトで彼とシフトが重なると、私は時折彼に視線を送りました。すると彼もパッと顔をあげて、ニコッと笑ってくれました。
また、バックヤードでたまたますれ違ったときは、少し会話したり、人目を盗んで手をつないだり。
そんなやりとりに私は満たされていました。
しかし、やはりこの年代での5つの差は大きかったのです。
当時、私は大学3年生だったので、じきに就活が始まりました。企業説明会に参加したり、エントリーシートや履歴書を作成したり、これまでの学生気分が抜け、社会人になる意識が高まっていきました。
周りの雰囲気もそうだったので、大学の友達には、「高校生の子と付き合っている」なんてとても言えませんでした。どうしても、そこには背徳感があったのです。
また、彼にも就活の話や卒論の話はわざわざ言わないようにしていました。彼にとってはまだ先の話をしてもピンとこないだろうし、高校生だから、と線引きしていたように思います。
そして、もう一つ気がかりだったのは、恋愛における経験値の差でした。
彼は以前にも年上の女性と付き合っていたようで、手をつなぎ、ハグした先も知っていました。「高校生だし、そんなものか」と思っていましたが、私自身は幼かったので、自分より経験豊富な彼に、不安を抱くようになっていきました。
私の微妙な心境の変化を、彼は知ってか知らでか、彼の態度はいつも変わりませんでした。
高校生らしい、まっすぐな想いをぶつけてくれる彼。私の気持ちは揺れ動き、言葉にならない想いだけが、宙に浮いたままでした。

「別れ」
やがて、私は内定が決まりました。半年後に控えた卒業に向けて、論文の制作に追われる日々。バイトに入るのも、極端に減っていきました。
それと同時に、彼との連絡も2日空き、3日空き、と少しずつあいだがあくようになりました。
ある日彼から、「忙しい?」とメールが入りました。
「もう、ここでちゃんとピリオドを打とう」と私は思いました。
「ごめんなさい。これから先、〇〇くんとうまく付き合っていく自信がありません。」
そうメールを入れて連絡を絶ちました。
彼とはその後、一度も会わないまま、私はバイトを辞めました。
今思うと、彼にはなにも非がなかったのに、一方的に別れを切り出してしまった自分は、とても身勝手でした。
見た目とは裏腹に、自分の想いをまっすぐに伝えてくれる彼に、自分も本音をちゃんと伝えればよかった。
きっとどこかでいいおじさんとなっているであろう、彼の姿を思い描きながら、ふと昔を思い出したのでした。
s590著









コメント
コメント一覧 (2件)
pr
今回は、バイト先で一目惚れした年下彼氏との恋愛物語を書いていただきました。
和スイーツカフェでバイトをしていた著者は、向かいのレストランで働く一人の男性に一目惚れをします。
彼への思いは日に日に募り、ある日勇気を出して手紙を送ることを決意します。
その思いは彼に届き、その日から交流が始まりました。しかし、彼は著者より5つも年下の高校生だったことが分かります。
最初は年齢差を気にせず交流を深めていた2人でしたが、著者の就活が始まり、彼との間に多くの差を感じ始めて、著者の方から別れを切り出します。
一方的に別れを告げてしまったことへの後悔の念を抱きつつも、どこかで彼が元気に過ごしていることを願う著者でした。
お互いのライフステージの違いにより、恋愛に葛藤が生まれる様子がとてもリアルな物語です。
主人公の感情がとても繊細に表現されていて、一目惚れした時のドキドキした感情や、年齢や経験値の差から生まれる漠然とした不安の感情がよく伝わってきます。
学生時代は進学や就職など誰もが多くの課題に直面することになり、この物語のように恋愛とのバランスで悩んだ経験のある読者は深く共感するでしょう。
検収者 kitsuneko22
⑮kitsuneko22-10