夢中になる彼
オレの友人であるタブチ(仮名)くんがとある女性配信者に熱を上げるようになったのは三年ほど前だっただろうか。
その女性配信者は確かリム(仮名)と呼ばれる配信者で、当時はまだまだ配信者としてデビューしたての新人配信者だった。
見た目は十代後半のダウナー気味のオドオドとした感じのする女性であり、タブチくんはリムの気の弱そうなところに魅力を感じているらしかった。
なんでも守ってあげたくなるようなところが素敵なのだそうだ、しかしオレはあまり共感できずああそうなんだと適当に相槌を打つだけだった。
そんなオレに対しタブチくんはいずれオレにも素晴らしさがわかるときが来ると自信満々に言っていたが、結局のところそれが来ることはなかった。

魅了される彼
さてリムに魅了されリム教の信者になるタブチくんであったが、どの配信者に限らず自分を見てもらいたいリスナーがやる手段はなんだろうか。答えは簡単『投げ銭』である。
動画配信のコメントを金を支払って読んでもらうこと、または金を払うこと自体を感謝してもらうこと。
これが配信における投げ銭であるのだが、タブチくんはかなりの額を投げ銭に投資しているようであった。
細かい金額は聞いていないのだが、数十万単位で配信者であるリムに投げ銭をしているらしく、どうしてそこまで動画配信上に夢中になれるのかとタブチくんに質問したことがある。
タブチくん曰く、どんな形であっても感謝されるだけで十分なのだそうだがいまいちオレには理解のできない領域の話しであった。
ただ、こんな関係は長く続くわけがないとは感じていた。

盛り上がる彼女と見られなくなる彼
月日が経つにつれてリムは配信者としての実力をつけていったらしく、ネットニュースでも少しばかり取り上げられるようになってきた。
そのことに関してタブチくんも最初のうちはオレが育てたのだと褒めていたが、いつの頃からかそれを不満に感じはじめていた。
なんでもいくら投げ銭をしてもタブチくんのコメントに対してあまり感謝してくれなくなったり、雑な対応をされているらしい。
タブチくんだけの配信者でなくなったのだからしょうがないじゃないかと本人にはそれとなく伝えたのだが、タブチくんは表面上では納得しているようだがその表情の裏では納得してはいないだろうなとは思っていた。
そしてリムが配信者としてのキャリアと成功を重ねているうちにタブチくんは我慢が出来なくなったらしい、コメント欄に怒りをぶちまけてしまった。
それでタブチくんはリムの気を引こうと考えていたらしいのだが、彼女の答えは拒絶だった。
それどころか周囲からも袋叩きにあった彼はもう立ち直れなくってしまった、彼の恋は終わったのだ。

恋が終わる彼と配信模様
結局タブチくんとリムの配信者とリスナーとしての関係はこれで終わったのだが、タブチくんはなぜ彼女に夢中になったのだろうか。
気になってリムの過去の配信を見てもオレからはリムは数多くいる一般的な配信者であり女性であった。
そんな彼女に対してタブチくんがなぜ夢中になったか、おそらくだがタブチくんは女性に感謝されること自体に夢中になっていたのであってリムという配信者に夢中になっていたわけではないのだろう。
タブチくんのことは昔からの友人として知っているが、少なくとも女性から何かしらのアプローチをさせたこともない。タブチくんからしたことも見たことがない。
そんなタブチくんが投げ銭をするだけで女性からお褒めの言葉をかけてもらえるのだから嵌(はま)らない理由がない。
結局寂しい男がネットで出会った女性に振り向いてもらえなくなった、それだけなのだ。
h519著




コメント
コメント一覧 (2件)
pr
今回の作品は、ライブ配信者に恋をした男性のお話です。
まだ配信者としてデビューしたての女性に惹かれた彼。
気の弱そうな彼女に魅力を感じた彼は、自分に注目してもらうため投げ銭をしていました。
多額の投げ銭でコメントを読んでもらっていた彼でしたが、彼女が配信者として人気が出てくると、彼への対応も雑になってきてしまいました。
その怒りを配信中にコメント欄にぶちまけると、周りからも袋叩きにあい、彼女からも拒絶されるという最悪の結果になってしまったのです。
普段から女性との接点がなかった彼は、その彼女が好きになったのではなく、お金を払って感謝される感覚に夢中になっていたのかもしれません。
配信者に恋愛感情を持つ人の心理状態や考え方の一つの例が明瞭に表現されています。
ネットの世界で度々問題になる一方的な恋愛感情について、考えさせられる内容に仕上がっています。
検収者 kitsuneko22
㉑kitsuneko22-10