気が付けば先生をひとり占めしたかったの!

美人だけど愛想が無い

「長谷川さんって愛想ないよね…美人なのにもったいない」

「実は遊んでるらしいよ…美人はいいよね。男が寄ってくるから」

「見てて腹立つ。対して美人でもないのにお高くとまってさ…」

彼女達に何がわかるのだろうか。話したこともないのに。

麻衣は聞こえないフリをし、視界を窓の外に投げた。

グラウンドでは男子高校生達が体育教師とサッカーで遊んでいる。

人間…おもに女性の性質だろう。標的を作って妬み僻みを言い合い結束力を高めていく特有の性質。

麻衣は昔からその標的にされることが多かった。

一緒にいてもつまらない。愛想が無い。

幼い頃はそれだけだったが年齢を重ねるにつれ白い肌と長い手足。

大きな瞳と綺麗に通った鼻梁がより周囲の女友達を不愉快にさせていた。

「「「やば~~~~!かっこいい~~~!!!!」」」

次の移動教室の準備をしようとした時、グラウンドから歓声が聞こえたため麻衣は思わず肩を跳ね上げた。

体育教師がシュートを決めたみたいだ。

平河先生。25歳。今年赴任してきて高い身長と俳優のような爽やかな顔立ちで一瞬にして人気者になった。

女子生徒はもちろん、馴染みやすい性格から男子生徒からも慕われておりいつも彼の周りには複数の生徒がいた。

羨ましい。

麻衣の中で嫌な感情が渦を巻く。

彼のように誰からも好かれたい。

彼のようになりたい。

「あ~~~…だめだ!」

一回負のループに入ってしまったらどうしようもない。

麻衣は次の授業をさぼりお気に入りの場所へ向かった。

 

 

俳優のような教師

「堀さ~ん!手伝いにきたよ!」

校庭の隅の小さな一室。掃除や花壇の手入する用務員専用の部屋。

以前、クラスの女子から詰め寄られた際に用務員の堀がさり気なく助けてくれて何も聞かずに彼女はここを麻衣に教えてくれた。

それ以来、嫌なことがあったときはここが麻衣の憩いの場になっていた。

「麻衣ちゃん!授業は??」

「え?何の話?」

とぼけていると堀さんは優しい顔で笑った。

「息抜きも大切よね。私も昔はよくサボったわ」

そう言ってオレンジジュースをくれた。

窓の外には沢山のコスモスが咲いており、秋の訪れを感じさせる。

特に何か話す訳でもないが穏やかな時間が二人の間をながれた。

「堀さ~~ん!暇~~!」

突然部屋のドアが開きそこには平河が立っていた。

「あれ?長谷川?」

麻衣を見つけた平河は怪訝そうな顔をした。

授業をサボっていることに対してだろう。

麻衣はサボったことだけではなく平河のせいで自己嫌悪になったことを思い出しバツが悪くなったため頭を下げて部屋を出ようとしたが

「待て!別に戻らなくていいから!」

平河に腕をつかまれ止められた。

「俺、長谷川と話したかったんだよ」

屈託のない笑顔で半ば強引に椅子に座らされた。こういうところが人気なのだろう。

授業をサボっても怒らない教師など他に見たことがない。

「お前、クラスで浮いてない?」

そして言葉に遠慮がない。

「いろいろ噂も聞くから少し心配で…」

彼はどんな噂を聞いたのだろうか。

どうやらあからさまに顔に出ていたようで、平河はバツの悪そうな顔をした。

「いや、別に大した事じゃなくて彼氏が7人いるとかクラブ通ってるとか…」

「…先生もそういうの信じる人なんですね。がっかりしました」

この人も他の人と一緒だ。

麻衣は勢いよく立ち上がり部屋を出た。

頬には涙が伝っていた。

どこか平河は違う人だと思っていた。

だが彼も他の人と一緒だった。噂を鵜呑みにして麻衣という人物像を勝手に作り上げている。

いよいよ人間不信になりそうだ。

麻衣はやり場のない悲しみや怒りをどうしていいか分からずしゃがみ込んでひたすら泣いた。

その日の帰り。

下駄箱を開けると10本程のコスモスの花束と

『ごめん。軽率すぎた。』

綺麗な字で書かれたメモが入っていた。

麻衣は気が付けば憩いの場へ向かっていた。

「俺の無神経な発言で傷つけて本当にごめん!!」

部屋に入ると深々と頭を下げた平河がおり思わず麻衣は笑顔がこぼれた。

「もういいですよ。それよりこれ、堀さんに許可貰ったんですよね?」

そう言ってコスモスの花束を見せると平河は心外そうな顔をした。

「当たり前だろ!俺が厳選して選んだ花たちだから大切にしてな」

大きな手が麻衣の綺麗な髪を撫でる。

麻衣は脈が速くなるのを感じた。

それから他愛の無い話をし、帰宅した麻衣は真っ先にコスモスを花瓶に飾った。

 

 

「お前…またサボりか」

「違うよ!堀さんから人生の授業を受けてるの!」

「物は言いようだな」

あの日から数か月。季節は冬を迎えた。

相変わらずクラスでの孤立は変わらないが学校生活の中で大きな変化があった。

時々、こうして堀のもとに行くと平河と会うことだ。

「平河先生も仕事しなくていいの?」

「俺も堀さんから人生の授業受けにきてるの」

どうでもいい会話をしながら1時間過ごす。

普段は人気者の平河を独り占めしているようで麻衣は嬉しかった。

もっと平河をひとり占めしたい。

もっと平河という人を知りたい。

考えるほど胸が締め付けられるように痛む。

気が付けば平河を目で追う事が増え、だがその原因が麻衣には何かわからなかった。

「麻衣ちゃんは平河先生が好きなんだね」

ある日堀さんに言われた言葉。

(好き?私が平河先生を)

堀の一言が麻衣の胸にゆっくりと優しく溶け込んでいく。

ひとり占めしたいのも、もっと沢山会話をしたいのもすべて好きだから。

「美男美女でお似合いね」

堀の言葉は麻衣の耳には届いていなかった。

気持ちの正体が

 

告白

2月14日。バレンタイン。

教室はいつもよりどこか甘い香りが漂っており男子も女子もどことなく落ち着かいない。

麻衣はカバンの中に忍ばせてきた箱をそっと撫でた。

バレンタインなど一生無縁だと思っていた。

今日、平河に気持ちを伝えたい。

愛想の無い、可愛げの無い女かもしれないが伝えたい。

どこか上の空で1日を終えると麻衣はいつもの場所に向かった。

部屋の扉を開けると平河は真剣な表情でパソコンを操作している。

綺麗な横顔に麻衣の心拍数は少しずつ上がっていった。

「先生!!」

「お?どうした長谷川?」

平河はパソコンから視線を外し、いつもの笑顔を麻衣に向ける。

麻衣は一つ呼吸を置き、覚悟を決め平河に歩み寄る。

「あのね…私、先生のことが

「あ~待って!」

好きです。

そう言おうとした麻衣の口を平河は手で覆う。

予想外の行動と、最後まで伝える隙を与えられなかった悲しみで麻衣の足がすくむ。

「俺、教師だから…長谷川はまだ生徒だからその気持ちは受け取れない」

頭が真っ白になった。

教師と生徒。どう考えても上手くいく筈が無いことになぜ気が付かなかったのか。

「そうですよね。困らせてすみません…」

自然と麻衣の口からは謝罪の言葉が出ていた。

そして視界が霞み始めた。

「…だから!お前はまだ生徒だろ?…伝わらない?」

涙を見られたくなくて俯く麻衣の上から平河の優しい声がする。

「……え?」

「あと少し待って。お前が卒業したら俺から言わせて」

「…え?」

先ほどとは違う意味で頭が真っ白になった。

思わず顔を上げると初めてみる、少し恥ずかしそうな、それでもまるで恋人に見せるかのような優しい顔の平河がいた。

「だ~か~ら~!お前は卒業まで俺を見てればいいの!わかった?」

そう言って麻衣の涙を優しくぬぐう。

卒業まであと少し。

指輪

数年後の春。

新入生達が待つ教室のドアがあく。

「担任の平河です。今日からよろしく!」

スーツをスマートに着こなす長身と爽やかな顔立ちに女子生徒から歓声がわく

「先生イケメン!」

「彼女いるんですか?」

「何歳ですか???」

様々な質問が飛び交う中、平河は誇らしげに左手を見せる。

「世界一かわいい奥さんがいます!」

そして…

「新入社員の平河と申します。よろしくお願いいたします」

大学を卒業し、就職した麻衣。

「モデルさん?凄い美人だね。…彼氏とかやっぱいるの?」

隣の席の先輩にさっそく話かけられる。

「…はい。先日入籍しました」

頬を赤らめる麻衣の左手には美しい指輪が光っていた。

soljww著

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