初めての彼氏

これは私の親友、由紀の話だ。
由紀には大学生の頃、何年か付き合った彼がいた。
彼は由紀にとっては、人生初めての彼氏だった。
由紀から好きになって付き合ったのだが、最終的には、彼女の方から別れを切り出した。
よくある、他愛のない恋愛話だ。
由紀の彼は健太といった。
健太と由紀はは同じ学部の同級生だった。
始めはお互い、授業中に見かける程度だったのだが、共通の友達がいたため親しくなった。
由紀は高校時代まで勉強一筋で、男の子と付き合ったことがなかったのだが、大学生になり彼氏が欲しいと思っていた。
親友の私からみても、由紀は面食いである。
元々、とりあえず顔から入ってしまうタイプなのだが、健太はまさに由紀の好みタイプだった。
由紀は始め、授業の時に少し話をする程度から近づき、なんとなく気があることを匂わせていった。
健太は、そんな由紀の態度に気付き、まんざらでもなかったのだろう。
由紀は彼の方からデートに誘わせることに成功した。
初めてのデートは、代々木公園を散歩する程度のものだったが、そのデートをきっかけに、二人は付き合い始めた。
苦学生の彼

初めての彼氏だったためか、当時の由紀はかなり浮かれていた。
本来ならその人の背景などもよく考えて付き合うタイプなのだが、『彼氏』が欲しかった由紀は何も気にしていなかった。
付き合い始めてみると、健太の家はあまり裕福ではなく、学費を稼ぐために、夜は毎日ファミリーレストランでバイトをして学費を稼いでいるということだった。
由紀の方は比較的裕福な家に育ったため、アルバイトなどする必要がない環境だった。
育った環境が違うのだから、色々な感覚も違っていて当たり前だが、当時の二人はそれさえも好きと思えてしまっていた。
あとで聞いた話によると、健太の家庭環境を初めて聞いたときは、正直驚いたそうだ。
そんな彼女が冷静になった時、耐えられるわけなかった。
彼らは薬学部に通っていた。
昔から医療系の大学のカリキュラムはハードで、学費も高い。
勉強、実験に追われる毎日で、授業をさぼろうものなら留年が待っている。
学費のためにバイトをしている健太は、当然のことながら由紀と会うための時間を賄うのが難しかった。
バイトが終わって次の日の学校が始まるまでの時間くらいしか一緒にはいられない。
しばらくすると、彼はバイト終わりに由紀のアパートに転がり込むようになった。
結局健太は、単位を落として1学年留年をした。
生活リズムの変化とすれ違い

由紀は、付き合ってしばらくは、限られた会える時間を大切にしていた。
特に健太が留年した後は、学校で顔を合わせることも少なくなった。
二人の休みが合うときは、必ずどこかへ出かけた。
健太は優しい人だったので、由紀はその状況でも満足していた。
しかし、由紀が就職活動と卒論研究、実習などで忙しくなってくると、彼女たちの生活はすれ違いだした。
留年して一学年遅れていた健太と由紀は、ますます時間が合わなくなっていった。
由紀は研究室という新しい環境で、新たな友人たちとの時間が増えていった。
その新しい環境は、由紀にとって、とても楽しいものだったようだ。
それとともに、就職活動と国家試験の勉強で、時間の余裕はほとんどなくなっていった。
由紀と健太は、一緒に過ごす時間が、どんどん少なくなっていった。
そうなってくると、今までのように、少ない時間の中でも由紀と過ごしたいという健太の思いは、彼女に重く感じられるようになっていった。
決して彼が束縛をしていたのではないが、感覚的に縛り付けられているような感じがするようになっていったのだ。
由紀は、「そんなに相手をしている暇はない」と感じることが増えていった。
彼女は健太を避けるようになっていった。
別々の道

それまで健太は、バイトが終わると由紀に連絡を入れて、彼女の部屋に行っていたのだが、健太を避けるようになった由紀は、彼が電話してきても、勉強が忙しいと理由をつけて断るようになった。
それでも連絡をしてくる健太を疎ましくさえ感じるようになっていった。
色々と悩んだ結果、由紀は健太に別れを告げることにした。
健太は由紀にとって初めての彼氏であったため、別れ話をするのも由紀は人生で初めてだった。
彼を傷つけないようにしようというのは、自分のエゴであると思った由紀は、はっきりと別れを伝えることにした。
ただ、顔を合わせて話す勇気がなかった由紀は、電話で話をすることにした。
急に別れを切り出された健太は、すぐには納得できなかった。
少しストーカーのようになり、由紀の家の周りをうろつくこともあった。
このままではいけないと思った由紀は、きちんと会って話をすることにした。
由紀は健太に、彼には何も悪いことはないこと、生活リズムの違いですれ違いを感じ、これ以上付き合えないことをしっかりと説明した。
彼は泣いていたそうだが、最終的には納得してくれた。
そうして彼らの数年間は終わった。
由紀は健太より一足早く大学を卒業し、その後彼には会っていないという。
親友の私からみたら、二人の生活レベルは全く違っていたため、もしも付き合い続けていたとしても、結局はうまくいかなくなっていただろうと思う。
noboru著









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