毒舌の同級生が医者になった。まさかの再会とその後

破壊力抜群の一言

帰る方向が一緒だっただけだった。ただの同じ高校に通う同級生。それ以上でもそれ以下でもなんでもなかった。はっきり言ってどうでもよかった。話し相手が他にいないから、暇を持て余すためだけに会話していた。

下校中の何気ない会話。そこまでは覚えている。そのあと、なんであんなことを言われたのかいまだに思い出せないが、殺傷能力を持っていた彼からの一言は古傷としていまだに私の記憶に切り刻まれている。

「おまえさ、冴えないよね。良く言って中の上って感じ?!顔面偏差値・・・」

「ごめん。やめて。」

笑いながら言われたが、全く笑えなかったため遮った。次に返す言葉が見つからなかった。開いた口は衝撃を受けると本当にふさがらなくなるんだと、私はその時初めて知った。恥ずかしながら自分はいけてはいないと思う。それは自分でもよくわかっている。美人といわれたことはおおむねない。しかしながら自分の立ち位置を分かっているからこそ、目の前のその失礼な同級生のこと含め、人様の顔をジャッジしたことなんて一度もない。もちろん好みはあるが、人の顔の造形に対して偏差値をつけようだなんて発想は持ち合わせていない。

通っていたのは中高一貫の進学校だった。成績で順位をつけられることには慣れていたが、顔面まで偏差値を付けられそうになるなんて思ってもみなかった。正直順位づけの日々に憔悴しきっていたから学校の外でまで偏差値の話は聞きたくなかった。しかも顔。

彼もはっきり言って冴えない。どこにでもいるような普通の学生。ただ、テストというテストで彼の名前は必ず総合順位の上位に入っている。進学校と呼ばれるその学校で常に成績上位をキープしていることは同級生達の周知の事実だった。私はというと、成績は本当にぱっとしなかった。いや、彼に言わせれば成績も。だからこそ彼は成績が自分より下のこいつには何を言っても許されるのだと思い込んでいたのかもしれない。

17歳高校2年生。センターまであと1年の冬の出来事。成績が良くても冴えない、おまけに失礼なこいつとはもう二度と話したくないと思った。

まさかの再開

もう二度と会いたくないと思っていた奴に再会した。

大学に進学後、成人式の二次会の席だった。中高の同級生たちと同窓会をした。各地の大学に進学していった同級生たちもみんな一斉に地元に帰ってきて再会と互いが無事に成人したことを喜び合った。お酒の席で話が弾み、席も入り乱れ、私の隣にはいつの間にかあの失礼な輩がやってきた。

「久しぶり。」

「・・・久しぶり。」

「今どこ行ってんの?」

「・・・地方の私大です。」

「相変わらず冴えんな、おまえ。彼氏とかいるの?」

「・・・いるけど。」

「ふーん。俺は」

聞いていないのにぺらぺらと自分の身の上話を語りだした。大学でも成績が常に上位にいること、部活でバスケをしていること、医学部に入って自分がどれだけモテるのか。武勇伝のように語ってくれた。奴は旧帝大の医学部に進学していた。彼の言動はますます自信に満ち溢れていた。

マジでどうでもよかった。だから武勇伝を途中で聞き流した。私は再びそいつに殺意を覚えたのだった。

就職してからの地獄

 

24歳になった。大学を無事に卒業し、検査技師として働き始めた。付属の大学病院に就職した。3年目の春だった。その年も春に採用された研修医達がやってきた。

奴がいた。

一瞬目を疑った。ほかに病院なんてたくさんあるのになぜこんな偶然が起きてしまうのだろうか。まじか。勘弁してくれと思った。

「よお!!久しぶり!!」

「・・・どうも。」

もう本当に関わりたくなかった。なのに再会してしまった。信じられなかった。就職してまで同じ環境に身を置くこととなった。しかも職種が違うとはいえ、医療ヒエラルキーのこの世界。完全に立場が下になるなんて地獄としか言いようがなかった。

その日を境にしきりに奴は私に話しかけてくるようになった。もとはただの同級生だった。だからこそ奴もその感覚で気安く話しかけてくる。でも、私の方はというと、同じ病院に勤める先輩のはずなのに奴を立てなければならない。なにせ相手は先生だから。だから同級生に対して話しかける時も敬意を払って「先生」と呼ばなければならない。

屈辱だった。

天と地の差

一緒に仕事をするようになって、わかったことがある。やはりやつは本当に頭がいい。頭の回転が速い。医師という的確な診断能力と行動力が必要不可欠な仕事にまさに適任であった。毒舌でも、性格が悪くても、腕と診断能力が高ければとにかく仕事ができるしこの世界では認められる。患者からもスタッフからも頼りにされ、奴はどんどん一目置かれる存在となっていった。

それに比べて私の方は相変わらずうだつが上がらなかった。認めたくなかったけど冴えない。仕事ができるわけでもなければできないわけでもない。本当に平均をたどって上手く枠にはまっているだけだった。

奴が注目を集めることがこれまた憎くて仕方がなかった。何も勝てない。そもそも争う気なんてないのだけれど。あの日、顔面偏差値を付けられそうになったことをせめてみんなに愚痴ってやりたかった。だけど余計惨めになる気がして、早く奴がほかの病院に異動にならないか毎日毎日祈ることしかできない。だが私の祈りは届かず、にやにやしながら毎日暇を見つけては話しかけてくるのだった。

 

ずっと温めていた言葉

そんなある日突然飲みに誘われた。もちろん断った。業務時間外で関わりたくなかった。だが奴はしつこく飲みに誘ってきた。しつこすぎて根負けしそうになったが断り続けた。

そのうち誘われなくなった。ついでにだんだん話しかけられなくなった。

絡まれなくなったら清々した。関りがあるとふとした拍子に余計なことを言われて二度も傷ついて嫌な思いをするかもしれない。だからもう関わって欲しくなかった。

2年後。

研修を終えた奴は別の病院へ移っていった。異動になる前、廊下で久々に奴とすれ違った。その時、1枚の紙きれを渡された。

小さなメモ。そこには一言こう書かれていた。

「あの時はごめんなさい。」

きっかけは10代の頃のほんとに些細な会話の中のたった一言。私もずっと苦しめられていたが、同じく奴もずっと自分の放った一言をで相手を傷つけてしまったことを悔いていて、何気ない会話ができるただの同級生に戻れるタイミングを探していたのだろう。

今はどこで何をしているのか。古傷は癒えないが、ふとした拍子に思い出すことがある。あの時私がもう少し大人になっていたら。彼の放った一言を笑って流して許してあげられていれば。彼が謝ったタイミングで「気にしてないよ。」って笑って言えたのなら。

もしかしたら今頃彼とは良き同級生として付き合いが続いていたのかもしれない。結局つまらないプライドが邪魔をして友達になる機会を何度も奪ってきたことをほんの少し申し訳なく思う。

 

a121著

 

 

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