「本当に上手だね。ねえねえ、ちょっと私と一緒に練習しない?」
この言葉が彼女と交わした初めての会話でした。
大学のサークルで出会った二つ学年が上の先輩。
年齢は2つしか変わらないはずなのに18歳の自分から見る20歳の彼女は年齢差以上に大人で魅力的で手の届かない人、そんな存在に思えた。
この出会いがきっかけで高校を卒業したばかりの18歳の僕はまた一つ大人へ近づくこととなった。
大都会東京

今日から夢にまで見た東京でのキャンパスライフ。
一人暮らしをしながら、バイトして、親の目を気にせず友達と朝まで過ごす、そんな希望に胸を膨らませながら僕は大学の門をくぐったことを今でも鮮明に覚えている。
生まれてから高校卒業までの18年間を僕は青森県で過ごした。
僕が住む市町村の学生がたむろする場所といえばマクドナルドのみ。
でも、田舎独特の暗黙のルールがあってマクドナルドに行けるのは高校3年生だけ。
理由は単純で目をつけられてしまうから。
それを避けるために高校1,2年生の頃の遊び場はチャリで30分の海だった。
家から一番近くのコンビニでさえ車で5分掛かるので、もはやコンビニであってコンビニでないようなもの。
そんな場所から見える東京はテレビやネットの中だけの世界。
強い憧れはあったけれど、自分がそこに住むイメージなんて持つことはできなかった。
その自分が今、東京に住んで一人で生活を始めて、大学に通っている。
全ては両親がお金を出してくれているのだから、側から見たらまだまだ自立できていない子供には変わりないのに、どこか急激に大人になれた気がして嬉しかった。
大学初日のオリエンテーションはこれからの生活に胸を弾ませていたせいか、ほどんど耳に入ってこなかった。
オリエンテーションが終了し、外に出ると物凄い勢いで看板やプラカードを持った人が自分に近づいてきた。
それぞれのサークルが新入生に向けて勧誘をしているのだ。
僕はわき目も振らずにあるサークルを探した。
大学入学の前から入ることを決めていたダンスサークルだ。
ダンスは高校からやっていたんだけれど勉強、部活動、ダンスの両立はなかなか難しかった。
だからこそ、大学ではダンスサークルに入って目一杯ダンスを楽しむつもりだった。
「すいません、入部したいです!」
僕はプラカードを持って、人一倍大きな声を出しているダンスサークルの先輩に話しかけた。
「新入生!?金曜日17時に体育館においで?待ってるね!」
出会いと憧れ

迎えた金曜日。
体育館には60人位のサークル入部希望者が集まっていた。
男女はちょうど半々に見える。
中には女の子に声をかけまくって、連絡先を交換している男の子もいた。
その日は簡単にサークルの先輩たちがショーを見せてくれた後に自分たちもダンスの基本を体験する、そのあとは踊りたい人は踊って、話したい人は話す、みたいな自由な時間のスケジュール。
体験が終わって、自由時間に移ろうとしていた時に先輩に声を掛けられた。
「ねえ、ダンス経験者だよね?あれ、というか、この前声掛けてくれた子だよね?」
偶然にも僕に話し掛けてきたのは、大学初日の水曜日に僕が声を掛けた先輩だった。
「一年生なのにダンスすごい上手だね。
ちょっとみんなに紹介したいからついて来て!!」
そこからは自分のダンス歴を話したり、実際に先輩達と踊り合ったり、すごく楽しい時間を過ごした。
僕の大学のダンスサークルは大学からダンスを始める人が90%以上でダンス経験者が入ってくることは稀らしい。
加えて、経験者といっても独学の人がほとんどで実際にプロの先生から習っていた自分のようなタイプは珍しかったようだ。
踊っていると、周りの先輩たちも集まってきた。
その中にいた、髪が長くて長身のキレイな先輩。
僕がその人を初めて認識した瞬間だった。
その先輩の名前は、さくらさん。
(あの人、すごくキレイだな、、、)
素直に一目惚れだった。
18歳の僕から見たその女性はあまりにも大人ですぐに僕の憧れとなった。
共有する時間

僕のサークルは3年生で引退する。
3年生で引退といっても11月の文化祭を最後に引退を迎えるから、1年生と3年生がサークル活動を共にできる時間は4~11月の8ヶ月間。
さくらさんは3年生。
今のところ何も接点はないけどどこかで話せるようになりたい、そんな淡い希望を抱いていた。
1年間のサークル活動の中で一番初めのイベントは5月後半の中間発表。
1年生が入学して、最初に経験するステージだ。
大学入学から一ヶ月経った、5月初めだったと思う。
全体練習が終わって、一人で中間発表に向けて練習していると声を掛けてきた先輩がいた。
「本当に上手だね。ねえねえ、ちょっと私と一緒に練習しない?」
記事冒頭にも書いたように、これが、さくらさんとの初めての会話だった。
「サークル体験の日から上手だなって思ってたんだ。
私、文化祭で引退する前に自分で一からショーを作ってみたくてね。
それまでに少しでも上手くなりたいから、色々教えてもらえたらなと思って。」
すごく嬉しかった。
正直照れて、相手の目も見れていなかったと思う。
そこからは自分にとって夢のような時間だった。
全体練習が終わってからは、一緒に練習することとなり、またその回数も増えていった。
二人きりの時もあれば、そうでない時も。
本当にこの時間が続いてほしい、そんな風にいつも思っていた。
年齢以上の差

気づけば、一緒にプロのダンスイベントを見に行ったり、サークル以外の時間も共にすることが増えていた。
当然、共有する時間が増えるほどに単なる先輩後輩の関係では話さないような個人的なことまで話すようになった。
ダンス以外の趣味の話や好きな映画の話、それ以外にもたくさんのこと。
やっぱりあの時の一目惚れは気のせいじゃなくて、知れば知るほどさくらさんのことが好きになっている自分がいた。
でも、時間というものは残酷だ。
さくらさんが引退するのは11月。
その後の三年生は就活、卒論に向けて忙しくなる。
サークルに入った当初抱いた、いつか話せたらいいな、という小さな願いは幸運にもとっくに叶っていて、その願いは桜さんと付き合いたい、に変わっていた。
いつしか、文化祭までに告白する、ということを自分の中で決めていた。
それくらい自分の気持ちが溢れていたんだと思う。
ただ、つい昨日まで高校生だった男の子と成人を迎えた20歳の女性は考え方だって、物の見え方だって年齢以上の差があることは分かっていた。
でも、なんとかしてそこを乗り越えたかったんだよね。
一生懸命自分が努力すれば、少しずつでもその差は縮まるんじゃないかって本気で信じてた。
ある日、勇気を振り絞って聞いてみた。
「さくらさん、今度の休み一緒に映画見て、その後ご飯でも行きませんか?」
自分的にはその時の全力を出して自然を装ったつもり。
けれど、ダンスイベント以外でプライベートの時間を過ごしたことがないのに映画、ましてやその後ご飯に誘うなんて今考えるとどう考えてもデートに誘っているとしか思えない。
「急にどうしたの!?でも、全然いいよ!」
さくらさんの返答で分かる。
やっぱり不自然だったようだ。
見えている世界

デートが決まってから、僕は本当に張り切っていた。
映画はさくらさんの見たいと言っていたもの。
服はデートに向けて買ったもの。
夜ご飯はさくらさんの好きな食べ物がある店。
出来る全ての用意をして、迎えた当日。
相変わらず二人で過ごす時間は楽しかった。
映画は楽しんでくれていたし、お店もすごく喜んでくれた。
そのさくらさんの表情が見れただけで僕の方が嬉しくなったくらい。
デートの帰り道
タイミングとしてはここしかない、と思っていた。
ご飯を食べている時もこの後に告白することを考えたら、緊張が止まらなかった。
その緊張が強すぎて、恐らく、ご飯を食べている時は会話になっていなかったと思う。
ご飯の帰り道、僕は正直に想いを伝えた。
サークルの体験で一目惚れをしたこと、
練習を誘って来てくれて一緒にたくさんの時間を共有できたこと、
今日誘った理由と自分の気持ち。
黙って僕の話を聞いてくれていたさくらさんの顔が驚きから少し悲しい表情に変わっていくのが告白している最中の自分にも分かった。
さくらさんは静かに話し始めた。
「いい人だってことは本当に分かってる。
一緒にいて楽しいし、自分にとって単なる後輩っていう存在じゃないことも分かってる。
でも、私はこれから就活があって大学生ではなくて社会人になっていく。
そうなると、どうしても見るものも考えることも今とは全て変わってくると思うんだよね。
きっと、それがきっかけですれ違いが起きて、お互いの社会人生活、大学生活も壊してしまうと思う。
だから、ごめんね。
このままのサークルの仲の良い先輩後輩の関係でいたい。」
どこかで埋められる、と思ってた。
でもどこかで埋まらない、とも思ってた。
そして結果、やっぱり埋めることはできなかった。
悲しかったし、悔しかったし、苦しかった。
ただ、なんか自分の中でやり切った感じもあった。
フラれたからといって、さくらさんへの感情を0にできるほど僕は器用じゃない。
無理して気を紛らわせることはせずに自分の中でまた新しい人を好きになれるまで、その気持ちと向き合っていくことに決めた。
それから、さくらさんと一緒に練習することは無くなった。
無くなった、というよりも二人の中で無くしていったんだと思う。
いわば、サークルに入った初日の憧れの先輩と一人の新入生の関係に戻ったわけだ。
でも、あの時の自分よりかはほんの少しだけ成長できたかな、と思えた。
文化祭最終日のショー終演後
「さくらさん、お疲れ様でした。本当にありがとうございました。
「こちらこそありがとうね。活躍楽しみにしてるよ。」
告白以来の会話、そしてこれが最後の会話だった。
oirvjd著









コメント
コメント一覧 (2件)
oyu9317さん
2記事目の投稿をして頂きまして有難う御座います。
それでは検収をさせて頂きます。
今回の作品は、憧れの大学生活に入る新入生とそこで思わぬ魅力的な女子大生との出会いを記事にして頂きました。
彼は高校生の時からやっていたダンスは受験勉強で中途半端は状況でした。
大学に合格して憧れのダンスサークルで思う存分にチャレンジしたいと考えた彼は早速大学のサークルに入ります。
高校生の頃から、それなりにダンスの教室に通っていた彼はサークルでも注目されます。
入学当初、新入生のサークル勧誘をする彼女に出会った時から彼女は気になる先輩です。
中々話しかけれないでいると大学入学から一ヶ月経った頃、練習中に「本当に上手だね。ねえねえ、ちょっと私と一緒に練習しない?」と彼女から声を掛けくれます。
そこからは彼にとって彼女との夢のような時間となります。
ダンスの全体練習が終わってからは、2人は一緒に練習する回数も増えていきます。
次第に一緒にプロのダンスイベントを見に行ったり、サークル以外の時間も共にするようになります。
18歳の彼にとって彼女はあまりにも大人で憧れの存在で楽しい毎日でした。
しかし、二十歳の彼女が卒業して去って行くのももうすぐです。
彼は自分の気持ちを伝えるために、ダンスイベント以外でプライベートの時間を過ごしたことがない彼女に映画を見に行くことを誘います。
不自然な誘いに彼女は快く乗ってくれます。
デートしてからご飯の帰り道、彼は正直に想いを伝えました。
彼女の返事は「ごめんね。このままのサークルの仲の良い先輩後輩の関係でいたの」でした。
悲しかったし、悔しかったし、苦しかった彼。
それから暫くは、一緒に練習する事を避けてしまう日々が続きます。
そしてお別れの時の文化祭最終日に2人は爽やかに別れの挨拶を交わして終わります。
読者は彼の辛く苦しい思いの文章に心打たれました。
流れるような構成と分かり易い内容がとても良い作品にしています。
有難う御座います。
それでは今回の検収をこれにて完了と致します。
次回の投稿記事も楽しみにお待ち致します。
井上保夫
pr