こんな病気になって人には言えない、でもそのおかげで出会えることに!

「入院」

「入院ですね。」

は!?入院ですか?

 

初めて行った病院でいきなりの入院宣告を喰らった25歳の夏真っ盛りのことである。

片方の尻の下にぼっかりと大きな腫れが日に日に大きくなりこれはいよいよヤバイぞということで重い腰を上げた次第である。

重い腰というか痛い尻というか椅子に座ることが困難になってきたからだ。

今まで入院経験など全くないので入院という言葉に戸惑った。

「どのくらいですか・・?」

「だいたい10日ほどですかねえ」

10日かあ・・まあそのぐらいならまあ・・「じゃあ、いつからにしましょうか?

この日なんかどうです」先生話が早いよ・・。

先生に押されるような形であれよという間に入院の日取りが決まった。

病状は痔ろうという痔の完成形みたいな病気だ。

原因は乱れた食生活とかストレスとかありがちな理由らしい。

手術費用は10万円ほど。

けして安くはないが保険適用で後に全額返ってくるのでまあいいか。

 

「手術」

手術当日待ち受けていたのは恥辱いう名の選別だった。

看護婦さんに肛○周りの毛を剃られその後浣腸をぶっ刺された。

腹痛に悶え苦しんだのちに腫瘍を切除するという流れ。

手術時間は30分もかからなかったと思う。

手術室の中では患者をリラックスさせるため有線音楽が流れていた。ブツッ、ブブツ。

「あれ、なんだか有線切れちゃったねえ。こんなの初めてだ。

しょうがないじゃあいきますねえ♪」ええっ!?、いくの?先生話し早ええぇ!!、はあああああ・・・

 

切除後は一晩中寝たきり。全身麻酔が効いてところどころ自然と寝落ちしていた。

手術終了後に看護婦さんからシモに管を装着させられるということがあった。

看護婦さんに見られるもん見られてもはやプライドの欠片も粉々になった。

ひとつ大人の階段を上ったらしい。

そして翌朝。

 

まともな食事はまだ取れないらしく自室でおかゆが出される。あまり食欲はない。

隣は人の良さそうな年配の方。向かいには自分より少し年上と思われる男の人。

斜め向かいの人は仕事に行かれたそうだ。

入院しても合間に仕事か、仕事が終わったらまた病院に帰ってくるとは・・。

昼になると検診があり診察室の前の廊下にずらりと入院患者が並んでいる。

入院先は自分よりも歳が離れた人ばかりだろうと勝手なイメージを膨らませていたが意外と若い人も多いことがわかった。

若い女の子もいるし。あれ?

なんか見覚えのある顔がある。そこには中学の頃の同級生がいた。

互いに歩み寄って○○中だよねえ?と声をかける。

中学では一緒のクラスになったことがなく会話をしたことはなかったのが、お互いのことは認識していた。

知り合いがいたということもありこれからの入院生活に安心感を覚えた。

 

「出会い」

その日の夜の検診で廊下の壁に並んでいると隣に並んでいた若い女の子に話しかけられた。身長は低く可愛い部類に入る顔立ちだ。名前はOとしておこう。

正直初対面の女の子と話すことは苦手なのでめちゃめちゃ顔は引きつるしキョドってしまった。

なんとか相手に会話を合わせつつけっこう年下だということがわかる。

しかもOは中学の後輩らしいのだ。

なぜ同級生といい後輩といいこうも偶然が重なるんだ?、

まあ確かに病院は中学校のすぐ近くにあるけれども。

もしかしてうちの中学は痔ろうが多いのでは・・・。

 

入院生活というのは共同生活ともいえる。

同じ釜の飯を食い同じ痛みを共にし一緒にいる時間も長いため自然と親近感が湧いてくる。何気なくあいさつをできる間柄に。

ただ就寝時は隣の人のイビキで寝不足な日々が続いたがそれ以外は特に問題はなかった。

夜はやることがなかったので歳の近い4人でトランプをやって楽しんだ。

その中にはOもいる。まるで合宿の夜みたい日々を送っていた。

 

 

「ふたりで病院を抜け出して」

入院期間が半分を過ぎた頃にはOとは気軽に冗談を言えるぐらいに距離は縮まっていた。

Oの社交的で話しやすいところがそうさせてくれたのだろう。

夜自部屋で何気なくテレビを見ているところへケイタイにメールが届いたことを告げる音が鳴った。

開くとOからだ。

『ちょっと今から付き合ってくれん?』

付き合う!?告白!?

一瞬付き合うという文字だけ見てドキッとしたが今からというのを見てただの呼び出しだとわかった。

どこに行ったらいい?と返すと1階のロビーでとのこと。

薄暗い階段を下りほのかな間接照明が灯っているロビーへと向かっていく。

何ごとが待っているのだろうかと淡い期待は膨らむ。

大したことはないとうすうすわかっちゃいるが。

 

そこにはOがひとりロビーのソファーに腰かけていた。

「お疲れ」とOの明るい表情が出迎える。

どうしたの?と訪ねると家に荷物を取りに行きたいから一緒に着いてきてほしいとのことだそうだ。

要は夜道を警戒してボディガードの役割をやってくれと。ああ、そういうことね・・。

 

病院を抜け出して夜の通りを歩いてゆく。

他愛もない話しを交わしながら途中でタバコの自販機の前でOは立ち止まる。

同室のおばちゃんが誕生日を迎えるからおばちゃんが吸っているタバコをプレゼントするという。

その計画もあっての外出だったのかもしれない。こういう気づかいができる子なんだ・・。

1箱買ったOにもう1箱とぼくは自販機のボタンを押した。

Oの前でカッコつけたかったのだろうと思う。

 

「退院」

こんなに入院生活が良いものになるとは思ってもみなかった。

仕事以外での人との関わり。人と内側から向き合えたような気がする。

今度みんなで飲もうと約束を交わし名残おしく病院を跡にする。

外に出ると太陽がさんさんと輝く。日常に戻るのだ。

日陰の生活の日々が愛おしく感じた。

 

退院してもOとの付き合いは続いていた。

頻繁に遊ぼうと連絡が入ってきたからだ。

Oには彼氏がいる。遠距離らしいが。なのであくまで友達として見ようと努めた。

まあ彼氏がいるのに他の男と遊ぶのかと思ったがOは男兄弟で育った分男友達というのはフランクな存在なのかもしれない。

カラオケに行ったりOの車でちょっとした遠出をしたりO自身さっぱりした性格なので気軽に遊ぶことができた。

カラオケでオールナイトをしてた時の話だ。

ずっとぶっ通しで歌い続けて疲れたせいかOがソファーで横になった。

自分は気にとめずあぐらの姿勢で歌い続けていたのだが突如、Oがあぐらをかいた自分の膝の上に頭をのせてきたのだ。

ドキッ!、Oは特にその自分の行動に気にした様子もない。

なんだよこの状況!、、と思いながらもどうすることもできずただ画面に従って歌い続けるしかできなかった。

曲が終わったあとOの顔をぺろっと冗談めかして触るぐらいが精一杯の抵抗だ。頭の中ではあるフレーズが浮かぶ。

『ホレてまうやろッッ!!』

 

「別れ」

Oが県外へと引っ越した。専門学校に通って資格を取るためだとか。

さほど離れてはいないし会いに行こうと思えば行くことはできたが行かなかった。

こういうところは自分は白状なやつだと思う。

それから連絡を取る回数も減っていった。

たまにこっちに帰ってきてはお土産をもらったりした。

それから一度Oから連絡があったが出なかった。

その時自分は違うことで気持ちが病んでいたからだ。

 

Oとは連絡を取らなくなって2年ほど経った頃正月の挨拶もかねておもいきって電話することにした。

久しぶりのOの声。この声を聞くとつい余計なことまで話してしまう。

話しを続けるなかでOの口から『結婚した』ということを聞いた。

あ、そうなんだ、と一瞬動揺が口に出たがすぐにおめでとうと返した。

相手はその県外の場所で知り合った人らしい。

そのあと何か他愛もない会話続けてそして電話を切った。

切ったあと「そっか」と自分を納得させるように口に出している自分がいた。

fmfm著

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