やる気の出ない毎日

「いい加減、起きなさい!」今日も、ママのウザい声
同時に、勢いよく開かれたカーテンから差し込む光は、私の顔を容赦無く、スポットライトの様に照らした。
「まぶしい・・やめろよ・・・」
眠くて、なかなか開かない瞼を擦りながら、仕方無くベットから起き上がる。
そんな私は、当時22歳。
大学へは行かず、調理師の専門学校へと進学。卒業後は、学校の紹介で就職する事になるのだが、今までとは全く違う環境の中での人間関係は難しく。3ヵ月で退職。それからと言うもの、仕事を転々とする日々が続いていた。
今日から、また新しい職場。ため息しかでない。
「めんどくさ」
ハイブリットなお仕事

今回の仕事は、老人ホームで利用者向けの食事を作る仕事。なんだけど、調理と言う調理は殆どなくレトルトを湯煎し、食事形態によって、細かく刻んてみたり、一口大にしてみたりしながらお皿に盛り付けるだけ。
その変わり空いた時間には、老人介護を、お手伝いをすると言う内容だった。
現場では、繰り返し何度も話掛けてくるおばぁちゃん、今トイレに行ったのに座ったと思ったら、5分もたたないうちにまた行きたがるおじいちゃん。
最初は、コントみたいで面白いと笑っていられたんだけど、このしつこさには、さすがに、うんざりし始めていた私。
その気持ちは徐々に、態度にも出始めていた。
え?私今睨まれてた??
大っ嫌い!!

「ねぇ、何しにここきてんの?嫌なら邪魔になるから現場こなくていいよ?」
後ろから、不機嫌な男の声がする
「て、ゆーかあんたいきなり何?」私は振り返り相手を睨みつけた
A「あんたじゃねーだろ! 俺は、お前の友達じゃねーんだよ!そんな不機嫌な顔して、毎日現場居られると迷惑なんだよ!」
しーんと静まり返るホール。
この時は、他のスタッフが、慌てて間に入ってくれた事で、これだけで済んだのだが、次の日からAの態度は、あからざまに私にだけに冷たくなり
事あるごとに、突っかかられる様になって行った。
また、辞めようかな・・・。
だれか助けて・・・!!

一か月が過ぎた頃、ある程度介護の仕事も、こなせるようになってきた私。
いつもの様に、自分で食べられない利用者の口へ食事を運ぶ介助に付いていた。
のどに詰まる事があるので、しっかり飲み込んだ事を確認してから次は口へ運ばなければいけない。
その日はスタッフ二人で分担し、見守りをしていたのだが
もう一人のスタッフは、どうしてもトイレに行きたいと言い出し
仕方なく、私は1人で、全体の見守りをする事になった。
そんな時だった。
利用者「お茶をくださーい」
利用者から頼まれたので、食事介助の手を止めお茶を渡しにその場から離れた。
ほんのちょっとの間だったのに
元の場所に戻ろうと振り返ると、今まで私が食事介助をしていた利用者が苦しそうに、むせ始めている光景が目に飛び込んできた。
私は、慌てて戻り背中をさすったり、たたいたり
できる限りの事をするのだが、全く収まる気配がない。
私の額には、冷たい汗がにじみ出る。
「どうしよう・・・」
だんだんと利用者の唇が青紫へ変色していく。
「だれかーきて!!! はやくー!!!」
必死で叫び続けたその時
休憩でいなかったはずの、Aが慌てて、飛び込んで来たのだった。
Aは、なんとも素早い動きで、利用者を抱きかかえ体制を整えた後、あっと言う間に喉に詰まった食べ物を吐き出させてくれた。
トイレから戻ってきたスタッフも慌てて駆け寄っていた。
私は、暫く震えがなかなか止まらなかった。
その日の帰りの出来事。
「今日は、あ、有難うございました・・」
始めて私は、Aにお礼を言った。
ちょっと驚いたような顔を一瞬みせたAだったが
「怖かっただろ、よく叫んだな。有難う」
Aは、私の頭を、ポンと軽る叩くと、背中を向けて帰って行った。
私は、背中を見つめたまま、暫く立ち尽くしていた。
気になる人

次の日の朝、ママの声よりも先に目が覚めた。
「あーら珍しい、自分で起きたの?」
早く仕事に行って、準備しよう。なんだかそんな気持ちになっていた。
A「おい、もたもたすんな早く手伝え」
いつもの調子のA。なぜか不思議と今日は、腹が立たなかった。
むしろなんだか、心地よい。
A「なに、にやけてんのきもちわりーぞ」
口は悪いけれど、人一倍仕事に対してプライドを持っているA。
だから私の態度に、腹が立っていた事が今はわかる。
それからと言うもの、Aの良い所ばかり目に入るようになっている私がいた。
私を必要としてくれる場所

毎日、仕事に行くのが楽しみになっていた。
暫くして私は、おもいきって、Aに告白するのだが・・・
結果
「今は、彼女とか作る気になれないからごめん」
と、あっさり断られてしまったけれど
あんなに大嫌いだったのに、今はAの傍に居られる事だけで、嬉しいと感じていたから。
落ち込みすぎる事はなかった。
春旅立ち

翌年の春。
Aは、昇進し同系列の施設での管理職となる為、ここを去って行ってしまいました。
私はと言うと、Aが居なくなった今もここに居ます。
最初は、とても寂しかったけれど、Aがとても大事にしていた場所。
私も、ここが大好き。
以前の私は、わがままで仕事も続かず他人の気持ちを理解しようともしませんでしたが。
今は、Aの様にプライドを持って仕事がしたい。
仕事を通して、人の役に立ちたい。
そう考えられるようになった事で
毎日、とても充実した日々を送れるようになりました。
kurabu著









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