
昨日、とても嫌な夢を見た。誰にも言えないような嫌な夢だ。私は不倫をしている。
彼とは職場で出会った。入社したばかりで任せられている仕事もそう多くはなく暇にしていることが多かった。そんな中彼が私に、一緒に広報やらない?と持ち掛けてきた。暇だったので何の迷いもなくやります!と答えてしまった。
それから彼とともに行動することが増えた。彼は社内ではある程度の裁量権を持っており、私を好きなように動かすことができた。彼に家庭があることなどわかっていた。それでも私が彼のことを意識するのに時間はかからなかった。

始めは食事にいっただけだった。彼は私とどうにかなるつもりなどさらさらなく、若い女子社員と噂になることを恐れて2人で食事へ行くのも躊躇っていた。しかし私の仕事に対する考え方や、会社でしてみたいことなどを話しているうちに距離が縮まっていき、いつしか男女の関係になってしまった。
私に彼とは別の恋人がいた時期もあった。彼に対するあてつけのような感覚で付き合ってみたりもしたのだ。

彼は私に、家庭でのことは一切話さない。奥さんがどんな人なのかも私は知らないのだ。私と似たタイプなのか真反対なのかすらもわからない。真反対であってほしいとも似たタイプであってほしいともどちらとも言えない気持ちで彼女へのコンプレックスを募らせる。それでも彼にそれを悟らせてはならないし、それが私に一切奥さんの話をしてこない彼への誠意の返し方だと思っていた。
私はあるとき、彼の家に新しい命が芽吹く夢を見た。奥さんとの関係は悪いどころかむしろ良好で、しかもそれは子供を作ってしまうほどなのだと感じた。彼から身を引くことを決意した。そんなところで目が覚めた。

あぁ夢だったのだ。私はほっとすると同時に、なんとも言えない気持ちになった。すべてから逃げたいと思った。スマホを開けば彼からの連絡、会社へ行けば彼がいて、それでもこんな夢を見てしまったことを彼に言えるはずもない。友人へはこの関係を一切明かしていないので誰にも言えずに沈んだ気持ちを抱えて会社へ行くしかなかった。

会社へ向かう途中、軽トラに乗った柴犬を見た。阿呆のように口を開けてハッハと息をしている。良いなぁと思った。今日は会社を休もうと思った。そのまま私は会社へ行くのをやめた。彼は私の上司にあたるので今日は会社を休みますとだけ連絡をいれた。私の気持ちに気が付いてほしいという思いは多少あった。もうどうしようもなかった。海が見たかったし暑かったのでかき氷でも食べようと思った。彼から何度も電話がかかってきていたが無視した。なんと言えばいいかわからなかった。彼の声を聞いてしまえば泣いてしまうと思った。
自分の好きなことだけをその日はした。でたらめに運転してみたり、適当な店で適当なものを食べたりした。会社へ行くつもりで家を出てきたので事務員の制服のままだった。
彼とよく行く海が近くにあった。私はそこへ向かった。

彼とその海へ行くとなんとなく不安になる。あまりにも大きすぎる海を前に、自分だけが一人取り残されたような気持ちになるのだ。どんなに彼と一緒にいようとも一緒になることはあり得ない。たかだか愛人風情がこんなことでへこたれてさめざめと泣くことなど許されるものではないのだ。一人で海へ来てはぼーっと考え事をしているとすでに夕方になっていた。サンセットのロマンチックな海で私は一人ただ涙を流していた。平日の夕方なのであたりには誰もいなかった。
背後から足音が聞こえる。すぐにわかった、彼が来たのだ。足音でわかってしまうほどに私は彼に惚れている。彼を困らせてしまった。
彼は何も言わなかった。しばらく2人で海を見てただただ黙っていた。次の日は何事もなかったかのように出社した。一応私は昨日、体調不良で休んだという設定になっている。
何事もなかったかのように私たちの時間は流れた。関係が変わることはなかった。しかし決定的になにかが違っていた。読んでしまった本を読む前に戻ることはできないように、私たちの関係が前のような関係に戻ることもない。

彼はしばらくして離婚した。私が直接的な理由ではないと話している。実際の理由はわからない。正直彼の離婚を望んでいた時期もあった。しかし私は彼が離婚するときいても何も感じなかった。奥さんへのコンプレックスがこれから解消されようとしているが私は何を感じればいいのかわからなかった。ただ彼と奥さんの関係が変わるだけのことで私との関係が何か変わるわけではないからだろうか。これからも私たちは関係を変えながらずっと関わりあって生きていくのだろうか。
k567著









コメント
コメント一覧 (2件)
pr
今回の作品は、職場での不倫のお話です。
彼との出会いは職場で、彼は既婚者であるにもかかわらず、2人は関係を持ってしまいます。
彼女は彼の家庭のことは全く知らず、彼の妻へコンプレックスを募らせる日々でした。
ある時、彼の家庭に子どもが生まれる夢を見て、彼女は複雑な気持ちになります。
会社に行こうとしますが、逃げ出したくなりそのまま仕事を休み、彼との思い出の海岸へ一人向かいます。
するとそこへ彼も現れ、ただ黙って2人で海を眺めていました。
何事もなかったかのように次の日は出社しましたが、彼との関係が前のように戻ることはありません。
しばらくして彼が離婚したことを聞いても、自分の気持ちに整理がつかず、彼女は変化していく関係に悩むのでした。
不倫という複雑な関係を通じて、彼女の心の葛藤や感情の変化が繊細に表現されています。
日々蓄積されていくジレンマが夢にまで反映され、彼との関係にも影響していく様子はとてもリアルで、読者に彼女の不安や戸惑いの気持ちが伝わります。
人間関係の在り方や倫理について考えさせられる面白い作品です。
検収者 kitsuneko22
③kitsuneko22-10