アルバイト

『いらっしゃいませご注文はお決まりですか』
表のカウンターからのかけ声で客がやってきたのがわかった。
それでも大して忙しいというわけではない。
チン!
備え付けのオーブンがバンズの焼き上がりの合図を告げる。
四角い大きなチリトリみたいなもの引き抜くと
嗅ぎ慣れた生地の香ばしい香りが鼻に立ち込めてくる。
そのまま準備してあるトッピングの上でサッと引けば
一気に12個のハンバーガーの完成だ。
「ハンバーガー出ま~す」
孤立

大学入学までの間短期で某有名ファーストフード店でアルバイトをすることにした。
Mのマークが特徴的なお店
だといえば誰もがピンとくることだろう。
飲食店でばかりでバイトしてきた僕は
今回は華気活気のあるこのお店に決めたのだ。
あと可愛い子がいそうという淡い期待も込めて。
実際働き始めてみると
イメージ通り若い子は多かった。
そして歳が近い人たちとワイワイ楽しく、なんてことにはなっていない。
なかなか周囲の人たちに溶け込めないでいた。
バイトしても長く続かないのはこれが理由だ。
だから短期間にしたというのもあるのだ。
忙しくて作業に追われていればシンドイけどまだ気楽で時間が過ぎるのも早い。
しかし平日の朝は何かと暇で・・
「──わね」「そうそう───だから」『アハハハ』
「俺──してさあ」「まじ?それってやば──」『ハハハ』
メンツといえばおばちゃん二人に高校生の男の子二人
互いには話し相手いてツーペアになっている。
一人取り残された自分は役のない余りカード状態だった。
・・・孤独。
入りたて当初は居心地の良い環境を作るため
愛想良く明るく振る舞っていた。
自己紹介さながらに自分はこんな人間ですと
相手も自身のことや職場関係のことも語ってくれ
「へえ~そうなんですねぇ」
なんて話すことがあった。
仕事のやり方を教えてもらうのもひとつのコミュニケーションだった。
問題はそれからだった。
やる作業も理解し定型的な会話もやり尽くしたあと。
どう接すれば仲良くなれるだろう?
いつも悩むのはそこだ。
積極的に話しかけてみるものの会話が続かない
何かやり方が悪いのだろうか
喋ることは苦手ではないが得意でもない
続くのは手持ち無沙汰ばかり。
あ~まだ先が長いな
って毎回思う。
なんでもいいから仕事をまわしてほしい。
1時間ぐらいしたのだろうか
調理場にひとりの男性が入ってきた。
彼の出勤の時刻は僕の1時間後だ。
引き続きカードで例えるならば
彼は間違いなくジョーカーだといえる。
まあやんちゃそうで仏頂面な顔つきはジョーカーというよりかは
ジャイアンそのものといった感じだが。
彼がやってくると途端にその場の雰囲気に明るさが射してくる。
面倒見の良さ、
誰に対しても話しかけてくる気さくさ、
相手が年上だろうとタメ口で話せるし
年齢の壁を感じさせないオールマイティーキャラ。
長年勤めているからなのだろうが
仕事を手際よくこなす彼はカッコイイ。
しかも彼とは同い年だ。
こんなに出来の違いを見せつけられると
自分の存在が虚しく思えてくる反面
憧れの眼差しで彼を見ていた。
彼女の微笑みはプラスです

朝休憩室のドアを開ければ
平日では見かけない若い女の子たちの顔ぶれがある。
そして彼女も。
休憩室で唯一僕に話しかけてきてくれる存在。
明るい髪色で髪は短め
どこかボーイッシュさを感じさせる
顔もどことなくハーフっぽく
制服姿がよく似合う。
これに指定のサンバイザーを被れば
さらに可愛いさもアップ。
出勤開始までの時間横長のテーブルの椅子に腰かけ
その場しのぎの携帯電話を見つめる。
別に見たいものがあるわけでもない。
斜め向かいには彼女。
隣に座る女の子とお喋りに興じている。
今日は彼女と会話するタイミングはないだろうなと察する。
周りの人が立ち上がって出ていく姿を見て
そろそろ時間かと立ち上がったときに
同時に立ち上がった彼女が話かけてきた。
「髪切ったんだね。」「ああ、うん」
「どこで切ってるの?」
「◯◯にある美容室」
「そうなんだ 似合ってる。」
「、ありがと」
誉められた恥ずかしさもあり
彼女よりも先に休憩室を出た。
彼女の微笑みがやる気へと変わっていく。
彼女の行動

馴染めない職場なのによく飲み会に参加する気になったなあ
と自分でも不思議に思う。
適当な理由を付けて行かなくてもよかった。
どうせもうすぐ辞めてしまうんだし。
「今度職場の飲み会があるんだけどどうする?」と聞かれた時に
「ちょっとまだわかんないです」
と保留にしたうえで断ろうと思っていたのだが
当日の夜
集合場所である職場の休憩所の前に僕は立っていた。
ここから歩いていけるチェーン店の居酒屋に行くらしい。
隣には彼女がいる。
女の子3人で固まってお喋りしている。
その輪から少し距離をとってみんなが集まるのを待っていた。
実はここに集合する前に
彼女含め5人のメンバーで遊んできたのだ。
バイト終了後に2つほど年上の男の人が誘ってきて
「○○くん。まだ飲み会まで時間があるから遊びに行かない?」
「え・・・ああ、いいですけど・・」
この人はなんだか不思議な雰囲気を持った人で
話しているとなんとなく落ち着けて
一緒にいて肩肘張らないでいいというか
そんな感じの人だったのでまあいいかと返事をした。
その人の車に乗って近場にある体育館でバドミントンをしてきた。
彼女がいるから動揺したのか
飛んでくるシャトルを空振りばかりして
カッコいい所を見せるどころか
場を白けさせていたいたように思う。
でも彼女と遊べたことは嬉しかった。
みんなが集まったところで目的の居酒屋へと向かい始める。
周りは誰かと話しながら進んで行くが
僕はみんなの後ろを付き従うように歩いていた。
その時になんとなく持参していたサングラスをかけみた。
イカツイ感じのものではなく
フレームもレンズも茶色系のデザイン。
居心地の悪さを隠したかったのかもしれない。
僕のその姿が目に止まったのか
彼女が隣に並んできて
「ねえ貸して」
と僕がかけているサングラスを差してきた。
渡すとそれを自分の耳にかけ
「似合ってる?」
と感想を求めてきて
彼女の行動に戸惑いを感じたものの
「うんいい感じ」
と卒ない感想をのべた。
その後返してくれるのかと思っていたが
彼女は前列の元の場所へと戻っていってしまった。
お~い、なんだよと思いつつもなんか嬉しい。
ひょっとすると彼女は僕のことが好きなのでは?
と淡い期待を浮かべてしまう。
合間から見えるサングラスかけて笑っている彼女の表情は
とても可愛いく映った。
別れ

酒の力を借りても溶け込めることは出来なかった。
男性人が顔を真っ赤にして盛り上がっている姿を横目で見ていた。
帰り際になって
そういえば彼女からサングラスを返してもらっていないことに気付いた。
店の外にいた彼女に話しかける。
「サングラス返してもらっていい?」
彼女は返すの忘れてたと取り繕うわけでもなく
「ハイ」と差し出してきた。
自分の思い過ごしだろうか
その表情に寂しさのようなものを感じたのは。
受け取ったあと何を話すかも考えていなかったのだが
彼女が唐突に
「私もうすぐ横浜に引っ越すの」
と言った。
「そうなんだ、」
彼女がいなくなるということに胸をギュッと掴まれたような感覚が走る。
遠くに行っちゃうんだ。
「都会のほうだね。いいじゃん」
動揺が声に出なかったのは酔っているおかげかもしれない。
「うん。そっちの大学に通うんだ」
「そっか」
それ以上言葉は続かなかった。
どっちにしろ僕だってもうすぐこの職場を辞めて彼女とは離れる。
でも彼女の方から先にさよならを言われたようで寂しい・・
その気持ちを打ち払うかのように二次会行く人~ という浮かれた調子の声が響く。
「◯◯くんは行くの?」
彼女から聞かれ一瞬迷ったが
「やめておくよ」
と返した。
彼女がそのあと二次会に参加したのかどうかはわからない。
それを訪ねようにも次に彼女を職場で見かけることはなかったからだ。
間もなくして僕も。
彼女はあの時僕のことをどう思っていたのだろう
と時折り思い出す。
fromu著









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