毎日やって来る怪しい常連客。勘違い男の身勝手な言動によるトラウマ。

常連客

学生時代、レンタルビデオ店でバイトをしていたことがある。まだDVDなどなかった時代だ。

基本的に店番は一人。鍵を開けて開店準備をし、あとは受付や軽く掃除など。
合間には好きなビデオを見放題。当時映画には詳しい方だったと思う。

隣には小さな雑貨屋があった。飲み物やお菓子も取り扱っていて、私や他のバイトの人たちはよくその店で買い物をした。
雑貨屋にも何人かバイトがいて、年が近かったため両店舗のバイト同士仲良くしていた。

そのうちカップルができたり別れたり。相談に乗ったり間に入ったり。
私は当時付き合っている人がいたので、ほとんど相談に乗る側だった。

ある時期から一日に何度も店に来る男性がいることに気づいた。年齢は私と近そうに見えた。

ビデオを一本借りては数時間後に返却、また一本借りてしばらくすると返却に来る。
顔を赤くさせながらカウンターにやって来るその男性のことを、少し気味が悪いと思っていた。

『友達』になって下さい

ある日、バイトの後会うことになっていた彼氏が、店まで迎えに来てくれた。
退勤時間まで店の外で待ってくれ、バイトが終わって私たちは並んで歩いた。

後日、雑貨屋のバイトの子が来て「この前彼氏来てた?」と尋ねてきた。「来てたよ」と言うと「そうか・・・」と店を出て行った。
なんなんだ!?と思っているとまたその子が戻って来て「実は」と話を始めた。

その子の男友達が私に一目惚れしたそうだ。あの毎日やって来る挙動不審な男だ。
正直、迷惑だった。悪いけど付き合っている人がいるから、と諦めてもらうよう頼んだ。

数日後、そのバイトの子が例の男を連れて店に来た。
男はやはり赤い顔をして「友達になって下さい!」と頭を下げた。

「まあ・・・はあ・・・ちょっと話をするくらいなら・・・」
「本当ですか!?よっしゃー!!」

ここできっぱり断ってはいけないような気がした。
バイトは楽しかったしもうしばらく続けたかったので、穏便に対応した。

それから男は用がなくても店に来るようになった。お客さんもそんなに来なかったので、いい暇つぶしになった。
話してみると、そんなに悪い人でもなかった。ただの不器用な男だった。
他のバイトも交えてよく話をするようになった。

そんなある日、男が交通事故に巻き込まれて入院したと聞かされた。
手足を骨折していて、全治数か月とのことだった。

雑貨屋の子から様子などを聞いてはいたが、お見舞いには行かなかった。
冷たいと思われるかも知れないが、そこまでする程の仲ではなかったからだ。
「早く退院できるといいねって伝えてくれる?」
そう言うだけだった。

予定より入院期間が伸びたが、男が退院した。
松葉杖をついて店に来た男に「大変だったね。退院おめでとう」と声を掛けた。
男は目を合わさず「はあ」とだけ言った。いつもと様子が違っていた。

後で、私がお見舞いに行かなかったことに怒っているのだと雑貨屋の子から聞かされた。
毎日毎日病室で私のことを待っていたそうだ。

それを聞いて私は呆れた。自分の思い通りにならなければ気が済まないタイプの人間は苦手だ。
やっぱり距離を取っておいてよかったと心底思った。

しかし数日もすると男は今までのように店に来ては無駄話をするようになった。
私もそれに合わせて、何事もなかったように接した。

夏になった頃、私は就職活動を始めて少し忙しくなった。
学校でコピーしてもらった企業の書類などをバイト先にも持ち込んで目を通した。

男は構わず話しかけてくる。私が適当な返事を繰り返していると、男は黙って店を出て行った。
気を遣ってくれたのかと思っていたのだが、雑貨屋の子に「相手にしてくれない」と愚痴を言いに行っていたそうだ。

男は就職活動の経験がない。私にとっては人生の一大イベントだと言うことが理解できなかったのだろうか。

数日後にまたやって来て、スネて帰る。邪魔しに来ているのか。

学業と就活に専念するため、私はバイトを辞めた。

私だったかも知れない

その後就職先も決まり、無事卒業した。
ビデオ屋と雑貨屋のバイトの子たちとは連絡を取り合っていた。同じく就職が決まって何人か辞めたそうだ。

その後の男について(興味はなかったが)雑貨屋の子から聞かされた。

雑貨屋の子の友達と付き合うことになり、すぐ同棲を始めた。そのうち気に入らないことがあると彼女に暴力を振るうようになった。
それが外を歩いている時でも関係なく、カッとなったら彼女の顔面を殴る。鼻血が止まらなくても殴り続ける。

彼女が去り、男は薬物に手を出した。

どれもこれも私が冷たい態度をとったせいらしい。
周りの人たちも付き合いきれないと思い始めていると言うことだった。

こんなテレビなんかで見るような典型的なDV男が近くにいたなんて。大きなショックを受けた。

おかげで誰を見ても、「実はこの人も裏の顔は・・・」と思うようになってしまった。

kiihyo著

 

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • krock さん

    6記事目の投稿をして頂きまして有難うございます。

    それでは早速検収をさせて頂きます。

    今回の作品は就職間近の学生さんがビデオ店でのバイトをしながら近所の男女との交流を描いた作品です。

    若い男女が将来に対して希望を抱きながら活発に行動している姿が魅力的に表現されています。

    不器用な男性に上手く対応して行く姿は何とも頼もしい限りです。

    その後かの男性がDV男と知れると彼女の判断は正しかった事が分かります。

    女性にとって男性を見極める事の大切さをアルバイトの関わりの中で見事に表現しています。

    構成も文章の流れも上手く出来て読み易いです。

    有難うございます。

    それでは今回の検収を完了と致します。

    それではこれよりクラウドワークスのシステムに従い再契約の手続きに移ります。

    このシステムは会員様の安全を確保するためにクラウドワークスが行う契約システムになります。

    私共もクラウドワークスのシステムに従い契約内容に不備のないように確認する事になります。

    どうぞ安心して契約の同意をして頂ければシステムは順調に進行致します。

    また再契約後も今までとまったく同じ様に投稿して頂く事になります。

    どうぞ宜しくお願い致します。

    それでは再契約の通知をお送り致します。

    その通知の契約によりこちらのメッセージ覧は廃止されて、以後新しい通知の覧より契約続行となります。

    ご面倒をお掛けして大変申し訳ありません。

    どうぞ宜しくお願い致します。

    井上保夫

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