三十路の旅立ち

私は昔から海外へ憧れが強かった。
とはいっても、学生の頃は英語が苦手で、外国に行くことなど一生ないと思っていた。
そんな私が大学生の時、一生に一度の思い出にと思って2週間のアメリカ旅行に行った。
この旅行が、私の考え方と一生を変えることになった。
この旅行をきっかけに、外国に興味を持ち、毎年必ず海外旅行に行くようになった。
英会話スクールにも通い、最終的には自分一人で旅行に行くほどになっていた。
今もよく「行動力がある」と人に言われるが、こうと思ったらのめり込むところがある性格なのだ。
そんな私が30歳を迎えたころのことだ。
当時の私は、結婚願望は高かったものの、自分の納得できる相手に出会えずにいた。
気になる人は何人もいたが、振られることが怖くて一歩を踏み出せずにいるうちに、三十路を迎える年になっていた。
折しもその年はミレニアムと呼ばれる年、西暦2000年だった。
「30になっても結婚相手が見つからなければ、仕事をやめて好きなことを一度だけやってみよう。」
以前からそう思っていた私は、30を前に仕事をやめ、以前からの憧れであった語学留学をすることに決めた。
それまでの私は、結婚したいと思っていても相手に妥協ができず、男性を紹介されても何かと理由をつけては断っていたのだが、今思えばそれは、自分のやりたいことが終わっていなかったために、無意識のうちに結婚というものを遠ざけていたのではないかと思う。
そうして私は半年間の語学留学に、イギリスへと向かった。
イギリスの生活は短期間ではあったが、とても充実したものであり、私はその半年を思いっきり楽しんだ。
収入もなく海外で生活するというのは、特にヨーロッパ圏ではお金がかかることだ。
日本には帰りたくはなかったが、金銭的な理由と、必ず帰るという両親との約束があったので、予定通り半年で日本に帰った。
新しい職場で

この半年は私の欲求を満たしてくれた。
それまでは結婚も捨てきれず夢も捨てきれずで中途半端だったのだが、留学を終えて帰国した私は、結婚に対する過大な期待も捨て、独身のままでもいいという考えに変わっていた。
独身のまま仕事をして、またお金が貯まったら海外に行って。
そういう生活もありだなと思っていた。
半年間仕事をせず、海外にいたことで貯金はかなりなくなっていたので、とりあえず仕事をすることにした。
私は薬剤師の資格を持っていたため、仕事は案外すぐに見つかった。
小さな調剤薬局だった。
そこは少し年下の薬剤師二人と、少し年上の事務員さんのいる職場だった。
薬剤師はみな独身で、事務員さんだけが既婚者だった。
比較的年齢の近いメンバーだったため、職場の仲間とはすぐに仲良くなった。
そんな日、事務員の山田さんがある話を持ってきた。
「バツイチで子持ちの人とか、だめ?」
独身でもいいかと思うようにはなっていたが、出来れば一度は結婚したいと思っていたが、「バツイチはともかく、子持ちかー。」と思った。
しかしその時の私は、以前のように結婚や結婚相手に対して過大な期待はしていなかった。
以前は失敗が怖くて恋愛やそのほかの様々なことが、最後に一歩が踏み込めないというタイプだったのだが、イギリスに行ってからは、「自分の好きなことをやって悔いのない人生にしたい。」と考えるようになっていた。
そのため、この誘いも一瞬は躊躇したが、「会ってみなければ始まらない」と思い、その男性と一度会ってみることにした。
出会い

相手の男性は、山田さんのご主人の同僚で、整形外科のリハビリスタッフで、一度結婚して男の子がいるのだが、数年前に離婚して、その子供を引き取っているということだった。
性格はおとなしく、優しいタイプとも聞いていた。
セッティングは山田さんご夫婦がすべて整えてくれた。
いきなりお見合いのようなセッティングではなく、カラオケでも行こうということで、私たちは山田さん夫妻を交えてカラオケに行った。
初めて会った彼は、山田さんの言った通り、優しい感じの男性だった。
お互い初対面の人間には少し遠慮のあるタイプだったようで、あまり突っ込んだ話はなく、普通の飲み会のような感じでその日はお開きになった。
後日山田さんに感想を聞かれ、「もう一度会ってみたい」と伝えると、「連絡してあげて」と言われた。
「私から連絡しちゃっていいのかな?」
と聞くと、
「いいよ。あっちはシャイだから、自分からは連絡できないと思うよ。」
と言われたため、私から彼に連絡を取ることにした。
「もう一度会ってみませんか?」
そう彼に連絡すると、彼からOKの返事が来たので、今度は二人で食事に出かけることになった。
二人きりで会ってみても彼は優しくとても感じのいいひとだったので、その後も会う約束をした。
人生の伴侶

何度か会い、いろいろな話をした。
彼は占いや霊視を信じるタイプの人で、最近霊視をしてもらった人に、もうすぐしっかりと子供のことも考えてくれる人が現れると言われていたということだった。
その人は「背が低く、目が大きい」女性だとまで言われていたそうだ。
私を見たときに、まさに言われた通りの女性だと思ったというのだ。
今になって思えば、そんな言葉だけで結婚相手を見つけるのもどうかと思うが、その時は少しうれしかった。
私の方はというと、その当時は「人生1回くらい結婚して子供も欲しい」程度に思っていたので、彼と真剣に付き合うことにした。
彼は子供を両親に預けて仕事をしていたのだが、子供が小学校に入る前に実家に戻るという考えだった。
その時働いていた病院でもストレスがあり、仕事を変えたいと思っていたようだ。
そんなある日、彼が入院することになった。
病名は「心外膜炎」。
心膜が炎症を起こして心不全になりかけている状態だった。
原因はわからなかったが、心的ストレスからである可能性も考えられた。
入院している彼の看病をしながら、
「仕事をやめて田舎でのんびりした方がいい。」
そう思った私は、彼との結婚を決めた。
その後彼は仕事をやめ、私たちは結婚して彼の田舎へ戻った。
彼の子供との相性も良く、子供も2人生まれた。
あれからもうすぐ18年が経つが、今も何とか夫婦をやっている。
もしもあの時イギリスに行っていなかったら、私の人生はどうなっていたんだろうと考えることもあるが、あの時があるから今、子供たちの母でいられるのだ。
あと数年すると子供たちも独立し、私はまた自分の時間が作れるようになるだろう。
そうしたらまた昔のように旅行を楽しみたいと思っている。
noboru著









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