女もエレキも奥が深いです!僕を男にしてくれた彼女はこんな人でした。

人並みに彼女は欲しい

今の世の中便利になって、スマホやパソコンで色んな出会いを利用できるけれど、僕個人はそう言う出会いにやっぱり抵抗あって。

人並みに彼女は欲しいと思うけれど、やはり自然な出会いで女の子とお付き合いできるようになりたい。でもだからと言って、自分から積極的に行動しているわけでなく。

そもそも女性とお付き合いしたことがなかったし、それ以前にうまくしゃべれない。男なら全く問題ないんだけどな。

職場も男子高校卒業から食品製造と流通の会社に入ったせいか、製造現場ではパートのそれなりに年齢を重ねた女性や既婚者。事務所も…そこそこの女性ばかりで職場恋愛には程遠いって感じ。

会社が終わればまっすぐ自宅に帰り至って健全な生活。なので絶賛彼女いない歴、年齢を更新中。

エレキギター

そんな僕が今ハマった物があって、それはいとこから格安で譲ってもらったエレキギター。それまでエレキなんて全く興味なかったけれど、家に飾ってたらかっこいいかな?くらいの気持ちで譲ってもらった。

エレキでも色々種類があるのは何となく知っていたけれど、僕のはストラトキャスター系のギターなんだそうな。

まぁせっかくだし、ちょっとは弾けるようになりたいなって考えて、いとこのアドバイスを参考に教本を買い、エレキギター系の動画を見たりして、中古だけど関連機材を買いそろえた。

アンプに電源を入れてジャーンって音が出た時は、おぉ!ってひとり感動なんかしたりして。

しばらくは家でベッドに腰かけ本を見ながら練習曲のコードを覚えたり、好きなアーティストで簡単な曲を弾いたり。それまではコンサートなんかで20曲や30曲くらい譜面も見ないでよく弾けるよなぁ?って思ってたけれど、

今ならわかる。その曲数を普通に暗記できて弾けるくらい、膨大な練習量を積みかさねているからだって。とにかくうまくなるには練習しかなく、そして思った音や曲が弾けるようになるとすごく嬉しかった。あのアーティストと同じ音じゃん。僕すげぇ。

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どんどんエレキギターの魅力に取りつかれる自分。それまでほとんど変化がなかった毎日だったけれど、会社で休憩中や通勤途中でもスマホで参考動画を見たり、新しく買った教本を読んだり。

エレキを趣味にしてからは時間が経つのも早く、会社が終わると直ぐに家に帰ってアンプにスイッチを入れ、いっぱしのギタリスト気分に浸っていた。

バンド

そんなある日、会社でのお昼休み。コンビニ弁当を食べながら教本を片手に脳内練習をしていたら、3年先輩の陽一さんが声をかけてきて

「まさるお前エレキやってるのか?」

「はい」

「おまえどの程度弾けんだ?」

「いやもう、ほんと超絶初心者です。最近始めたばっかで」

「ふーん、じゃあスタジオ練習とかバンド組んだりとかはまだだよな」

「家で一人練習してるだけでそんなのはまだ…」

「そかそか、じゃあ俺がやってるバンドのスタジオ練習見に来いよ、参考になるかもよ?」

「え。いいんですか」

「かまわんよ、そしたらさ…」

陽一さんは中学生のころからエレキギターを触っていて、社会人になった今も仲間とバンドを組み、時々ライブもしたりしているらしい。会社では後輩への面倒見がよく、僕も良く仕事のアドバイスをもらう。とても良い先輩だ。

スタジオ練習を見学させてもらえるなんて、どんな感じなのかな?いろいろ想像して、ワクワクしながらその日を心待ちにした。

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めぐみさん

当日、自分のエレキギターを肩にかけ、少しドキドキしながら約束のスタジオ前で待っていると、遠くの方に陽一さんの姿が見えた。バンドメンバーだろう他に男性と女性がそれぞれ1人、3人連れ添って。

全員がそろい、スタジオ前で軽く自己紹介、男性はベースで順平さん。背が高く手足が長い。痩せていてロン毛、いかにもって風情の人。女性はドラムでめぐみさん。バンド組んでいる女性って勝手に不健康そうなイメージもってたけれど正反対。

ジーンズにトレーナー、リュック姿で見た目は健康そのもの?快活な今時の女子大生っぽい。でも社会人で、後から分かった事だが年齢が僕より一つ年下だった。そしてギター兼ボーカルは陽一さん。

あ~。それからぶっちゃけよう、めぐみさんはめちゃ可愛い。どストライクだった。

しかし例によって女性コミュ障の僕は、名前を名乗って「よろしくお願いします」で終了。なんだかな…。

初めてのスタジオ練習見学は僕にとって圧巻だった。曲が始まると大迫力の音量、腹に直接響くドラムの音と、ギュンギュンエレキのサウンド。スピーディな曲になってくれば、皆の気持ちも上がって来て、最後は僕でも知っている曲を陽一さんと一緒に歌った。

凄く楽しくって何時までも音が頭に残り、スタジオの外に出た時は耳鳴りがしたくらい。最高の初体験だ。

それから陽一さんの提案でスタジオを出て居酒屋に移動し、お酒が揃った処でカンパーイ。皆さんから色々感想を聞かれて、これからも良かったらスタジオにおいでって声をかけてくれ、

はい、是非!僕はこのバンドのサイドギターとして仲間に入れてもらえることになった。

翌日から、まだ技術的にできる事が少ないので、メンバーの足を引っ張らない様に練習量を増やし、自主的に一人でスタジオに通った。弾き方で分からないところは陽一さんやいとこにきいて、とにかくレベルアップを目指した。

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それからは毎月2回位メンバー全員でスタジオ練習し、その後は恒例の居酒屋飲み会。お酒の力もちょいと借りてだけど、頑張ってめぐみさんに話しかけ少しは親密になれたと思う。正直かなり嬉しい。

その日の夜、いつものように会社からスタジオに行っての帰宅途中、もうすぐ自宅に着くって処で、何となく見覚えの有る女性が前から歩いてくる。

あれ、めぐみさんじゃないか?向こうも僕に気づいたようで、

「あっれー。まさる君じゃん、なんでこんなとこいんのー」

「やっぱめぐみさんじゃ…」

するとめぐみさんはいきなり僕に向かって駆け出し、突進してきて体当たりする様に抱き着いてきた。

「どーん!いやーん、まさる君あいたかったぁ~」

何とかひっくり返らない様に受け止めたけど心でぎゃーって叫び、背中まで手を廻されビックリして硬直。ん?顔が赤いし酒臭い…酔ってる、でも女の人って身体柔らかいのな…。

「め、めぐみさん、どうされたんですか酔ってますよね」

「酔ってるよぉん、てかあんたの方が年上なんだからさ、なんで敬語なの?なんでここいんの?ねぇねぇねぇ」

おかしい、居酒屋で一緒の時はこんなに酒癖悪くなかったと思うんだけど。

「敬語なのはバンドの先輩だし、その、女性としゃべるのがうまくないんで…それと自宅がすぐそこなんですよ。めぐみさんこそ、酔ってるのにこれからどこ行くんですか?」

「あたしは駅に向かってるとこよ、家にあたしも帰るの」

「終電終わりましたよ」

「えぇ!じゃあ帰れないじゃん、んもう。まさる君一人暮らし?」

「一人暮らしですけど」

「泊めて」

「えぇえええええ」

いやいやいや、それはダメでしょ。若い女性が男の家なんて。ベタな恋愛ドラマみたいな展開何ですけど。

「けちけちすんな!大丈夫だよ襲わないから、あはは」

「あぁもう、どうしよ…」

結局、この時間帯この地域ではタクシーもつかまりにくいし、所持金も双方余りなく。そのうちめぐみさんがあくびをして何度も寝そうになっていたので、仕方なく自宅に泊める事にした。彼女はベッドに寝かせる事にして、僕は床の上に毛布をかぶって眠る。

翌朝、平日なので会社だったがめぐみさんは仕事が休みらしい。二日酔いで頭が痛いと言い、まだベッドに潜りこんだままのめぐみさんに、ペットボトルの水をそばに置くと、

「カギは玄関ポストから放り込んどいてくださいね」

「ん、ん~~」

鍵を閉めて駅に向かいながら、あぁ~あの可愛さは犯罪だ…ほとんど眠れなかったよ…。床の上で寝たせいか身体の節々が痛い。部屋キレイにしといてよかった。

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仕事を終えて自宅に帰ってくると、テーブルに「ありがと♫ (*´ε`*)チュッチュ」ってメモが置いてあり、帰ったんだって思って、エレキを触りくつろぎながら1時間ほどした時。突然かぎがガチャガチャと玄関が開いて、

「ただいまぁ」

「え!めぐみさん、ちょ、どうしたんですか?てかその荷物何???」

めぐみさんは大きめのボストンバッグを重そうに部屋に上げて、ふぅってため息をつくと

「行くところないんでしばらく置いてくんない」

「いやいやいやいや、ほんとめぐみさん言ってることわかってますか?」

「わかってるよ?何言ってんの?」

「あの…。一応僕も男なんで、責任もてませんよ大体…」

「あぁ…、じゃ。する?」

「わわわわわわわ…」

結局めぐみさんが転がり込んでくる形で、なし崩しに一緒に住むこととなり、それから他のバンドの2人には活動に支障が出ないよう、一緒に住んでいるって事は内緒にすること。他に色々約束事を決めて、お付き合いをすっ飛ばし僕とめぐみさんの同棲生活が始まった。何これ?

最初の頃は、自由奔放さ全開で風呂上りにバスタオル一枚でうろうろしたり、喉が渇いたって僕が飲んでいたコーラを横から奪い取ってごくごく飲んでみたり。シャツの下に手を入れてこそばしてくるし。

面食らって戸惑って、目のやり場に困ったりで疲れるけれど、しっかり家事もしてくれ、料理作りが好きでご飯がおいしかったり、ちょっとした買い物も二人一緒で。

彼女が隣にいるだけで自然に笑顔になった。相変わらず敬語とさんつけは取れなかったけどね。

女性を意識することなく、普通にしゃべれるようになったのはめぐみさんのお陰だ。初めて女の子とお付き合い出来て、可愛くっていきなり同棲なんかしちゃったりして、好きな子が僕を見てくれている。それだけで毎日が楽しくって仕方がなかった。

僕は一本のエレキギターで人生が大きく変わった。人ってこんなにも変われるんだ。

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曲作り

同棲を始めて間もなく半年が来ようとしていた。めぐみさんのアドバイスで少しは服装のセンスもあか抜けてきたと思うし、髪の毛も若干茶髪にして、ギターを担げばどこから見てもミュージシャン!

それからパソコンに音楽ソフトを入れて、自分で打ち込みの曲作りをするようにもなっていた。

そんなある時、会社でのお昼に陽一さんが

「こんどさ、久々にライブをやろうっと思ってるんだけど、まさるお前曲書かないか?」

「曲ですか?」

「おぉ、お前だいぶ実力もついて来たし、アレンジはみんなで考えて仕上げればいいよ、それをライブでやって盛り上げたいと思ってな」

「わかりました!がんばって作ってみます」

「まかせたよ。良いの作ってくれ」

曲のコンセプトを聞き、頼むぞって言われ、陽一さんが僕の実力を認めてくれていたことがすごく嬉しくって、全力で取り掛かる事を決意。めぐみさんにも曲作りの話があったことを伝えると、

「おぉ!頑張らないと、あたしにも何か手伝えることあれば言ってね、リズム隊として応援できることあるかもしれないし」

「そん時はよろしく」

彼女の励ましもあって俄然やる気満々で、その夜から深夜まで曲作りに没頭した。

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作曲に約10日ほどかかったろうか、自画自賛ながら結構良いデモが出来上がった。めぐみさんがいたら直ぐに聞いてもらったんだけど、今日は仕事が遅くなるって聞いていた。早く曲の感想が欲しい。

そして何より陽一さんにこの音を伝えたかった。そうだ陽一さんちに行こう。時間は夜8時、この時間ならお邪魔しても問題ないだろう。早速準備をし音源を持ち陽一さんの家を訪ねた。

陽一さんの自宅は3LDKのマンションで何度か遊びに行ったことがある。マンションは少し前に親御さんから譲り受けたらしい。少し古い作りで1階ホールにオートロックなどが無く、そのまま玄関先まで上がれる。

玄関近くまで来ると、その横のルーバーが付いたお風呂窓に電気がついているのが見えたので、

「あちゃー、お風呂入ってるところに来ちゃったよ、どうしよう」

しばらく玄関前でインターホンを押そうか悩んでいた時、…ちょ…もう、…だめだって…。ルーバーの向こうから女性の声が漏れ聞こえる。

げっ!彼女さんかな一緒にお風呂入ってる?わぁ、わぁ。ダメだいくら何でも空気読まないと、大変な時に来ちゃった。せっかくここまで来たけれど、しかたない。。。僕はすぐに陽一さんちを後にした。

それから自宅に戻ったがめぐみさんはまだ帰って来てなかった。明日は仕事休み、ここの処ずっと夜遅くまで作曲して起きていたので、めぐみさんが帰ってくるまでは起きれそうにない、悪いが今日はもう先に寝よう。

睡魔は直ぐにやって来ていつの間にか眠りに落ちていた。

USBメモリ

翌朝

「ぎゃー!遅刻じゃん、もうまさるなんで起こしてくれないのよ!」

まだ半分眠っていた僕に、いつの間にか帰ってきていためぐみさんが僕の隣で慌てて、ベッドを飛び起きた。すぐに服を着替えだす。いつの間にか帰ってきてたんだ。

「今日僕は仕事休みだから…」

「あぁ、もう。朝ごはん昨日のうちに冷蔵庫に入れといたからそれ食べてね、それじゃ行ってくるから」

服を着替え終わるとせわしなく歯を磨き、ほぼノーメイクでカバンをひったくるようにして、めぐみさんはあわただしく出て行った。忙しい人だな…僕は再び眠りに落ちた。

お昼過ぎに目が覚めて、テレビをつけ作り置きしてくれた食事を食べる。朝ごはんがお昼になってしまったな。と、床にUSBメモリが一つ落ちているのに気がついた。これめぐみさんの?

何が入っているのか気になった。ちょっとイタズラ心もあり、結局誘惑に負けパソコンを起動するとそのUSBメモリを差しこみ、中身を開いてみる。そうするとたくさんの画像ファイルと動画ファイルが整理されて表示された。

試しに一番古そうな画像ファイルを開いたら、僕と知り合う前のめぐみさんがライブでドラムをたたいているシーンだった。へぇかっこいい、打ち上げでお酒を飲んでピースをしている画像や、陽一さん、順平さんの画像もあったりして、とても楽しそうな画像ばかり。

僕の知らないめぐみさんや陽一さん、順平さん達を見て、もっと早くにこの人たちと知り合いたかったって思いながら、順番に画像を開いていく。

 

でもある画像ファイルを開いた時、頭をぶん殴られたような強い衝撃を受ける。

 

それはベッドの上で髪が乱れ、うつぶせになって足を開いたまま倒れ込んでいるように見える、めぐみさんらしき全裸の女性だった。

…マウスを触る手が震え、一気に動悸が激しくなり口が震えだす。

直ぐにファイルをとじようと思ったが、他にもあるんじゃないか?動画ファイルもそうなのか?左手で右胸近くのシャツを握りしめながら、落ち着け、おちつけ。

そして画像ファイルを続けて開いてみる

開いた残りの画像ファイル半分は、とろんとした目つき、恍惚としためぐみさんのそう言う画像だった。

…でも、でもさ僕と、ぼくと付き合う前のことだから、前彼の趣味にあわせたのかもしれないし、もう過ぎ去ったことで今僕のそばに居るじゃんか、そりゃあショックだけど昔のことはどうしようもないし…。

続けて動画ファイルを今度は一番新しい物から開く。

その一つ目でささやかな希望も打ち砕かれた。僕が見たことのない表情。ベッドでのたうち悲鳴に近い声。そして肌がぶつかり合う音。

ベッドの先に映る置時計は、日付表示付きで日にちが昨日だった…。

…画像も動画も相手の顔は写っていない。声も録音されていない。まぁ男が声を出さずとも、めぐみさんは次にすることが分かっているようで。

 

敗北と無能感。どれくらい時間が経ったのか。何時日が暮れたかも分からない。部屋の電気をつける気力もなくって、ずっと電源を落としたパソコンの前に座り込み、呆然としていた。

ガチャ。扉が開く、僕は慌ててパソコンからUSBを引き抜いてポケットに隠した。

「あっれ?まさるいるんじゃん。どうしたの電気もつけないで、びっくりするじゃない」

部屋の明かりが点く。僕は立ち上がると、まだ靴を脱いでいる途中のめぐみさんに抱き着こうとした。けれど半日近く座っていたせいで、足元がふらつき立ち眩みがした。玄関先でそのまま彼女に縋りつく。

「きゃ、どうしたの急に、まさる?」

…みぐみさんの胸に顔をうずめながら声を殺して泣いた。

 

かなり心配しためぐみさんが、その後しつこく聞いてきたが、何でもないとへらへら笑顔を作ってやり過ごす。そうしたら、これ以上は無駄だと思ったのか、諦めたのか触れてこなくなった。

それから数日はいつも通りに過ごし、めぐみさんと普通にしゃべって、笑ってご飯を食べ、一緒に寝て起こされて。仕事に行って陽一さんの冗談を聞いて。

「まさる。そう言えば曲の方はどうなったんだ?」

「陽一さんできてますよ。それであのお願いがあるんですけど」

「ん?」

「アレンジのこともあって皆さんに相談したいんで、今度陽一さんちに皆さん集めて欲しんですけど」

「おお、そう言うことか。良いよ、じゃあ今週の土曜日の夜にでも俺の家に集まろう」

「よろしくお願いします」

・・・・・・・・・・・・・・

土曜日の夜。陽一さんちにいくとめぐみさんも順平さんも、既にL字型に配置されたリビングのソファに座って待っていた。リビングに通され、お疲れ様ですと僕はめぐみさんから離れてソファに座る。

「みなさん遅くなりました。陽一さんすみませんが音源再生するのに、ノートパソコンお借りして良いですか?」

「いいよ」

ソファの前のガラステーブルにノートパソコンを置いてもらい起動、USBメモリを差し込む。皆がパソコンに注目する中、再生ボタンをクリックしてから、おもむろにソファを立ち上がって寝室に向かって、扉を勝手に開けた。

動画に映っていたベッドと置時計が目に入る。同時に後ろの方でめぐみさんの嬌声が聴こえた。

 

それから…黙って家を出た。

誰も追いかけてこなかった。

別れ

その夜、自宅に帰るとめぐみさんが帰ってくるのが嫌で、いや。嫌って言うのは間違っている、めぐみさんを見るのが怖かった。どんな顔して良いかもわからなかったし。

そこから数日はネットカフェを転々とし、スマホが鳴っても電話には出なかった。LINEも開く事さえ面倒で、最後の方はスマホの電源も切った。会社も無断欠勤。

クビになってもいっか。そのうちお金も無くなって、スマホのバッテリーも充電切れ。あの夜から食事も殆どとってなかったが、不思議とお腹は減らなかった。

ただ何もかもがどうでも良かった。ほんとどうでもいい、どうしよっかなこれから。どこをどうあるいたのか、とある河川敷のベンチに座って。そのうち座っているのもつらくなって横になり目をつぶった…。

・・・・・・・・・・・・・・

…あたしさ、昔から好きって気持ちがよく分かんなくって。ん~でもまさるはね、そうだなぁ、ポカポカする。そう、まさるはあたしにとってポカポカする人なんだよ。もう、そんなにすねた顔しないの。じゃあまさるが教えて?まさる…、まさ…。

 

…目が覚めると白い天井、蛍光灯が少しまぶしい。ここはどこだ?点滴がある?気がつくとそこは病室のベッドで、横に母親がいた。

まだ少しボーっとした頭に、あんた何やってんの?親に心配かけて。涙目で母親が僕に問いかける。過労と栄養失調で倒れ込み病院に運び込まれたと知った。

あぁ、生きてんだ。僕。

後日、順平さんがお見舞いに来てくれた。その風貌はやっぱりこんな病院に、不釣り合いだなぁって思いながら、その事を伝えると苦笑いして、

「痩せたな、げっそりした顔しやがって。でも謝らないといけない、あいつらのこと実は知っていたんだ、昔っからそういう関係でな」

「…」

「陽一には別に彼女はいるし、めぐみもまさるの前の彼氏がいた時でも、まぁずっとそんな関係が続いててさ、めぐみがまさるんとこ転がり込んだのは、その事が前彼にばれちゃったから…なんだよ」

「……」

「おまえとめぐみが付き合いだして、お前ら内緒にしてたけどすぐにわかったよ、そんで心配してたんだけど人の恋路にごちゃごちゃ言えねぇなって。まぁうまく行ってるようにも見えたし。そんでな一応伝えとく。バンドは解散した」

「そうですか…」

「あんなになっちゃったらさすがに続けられないしな。あの夜結構大変だったんだぜ?めぐみは顔を覆って泣いてたし、陽一は青い顔しててな。腹立つから一発殴ってそれっきりだわ、悪い事は言わねぇ。あいつらの事は忘れろ」

「…」

「あぁでもエレキは続けろよ?お前センスあんだぜ?続けてりゃあまたいい出会いがあるかもよ、俺ともどっかのライブハウスで会うかもしんねえし。上手く言えねえけど…がんばれよ」

「…」

「なんかあったら連絡して来いや、じゃあな」

握手をして順平さんは病室を出て行った。それから…退院して、1人暮らしの自宅に帰って。

玄関を開ける。

めぐみさんのバッシュも、ヒールも、コートも、ジャンパーも、茶碗も、お箸も、コップも、歯ブラシも、シャンプーも、リンスも、リップも、ブラシも、ドライヤーも、ない。

そして丸テーブルに鍵が一本。

ああああああああああああああああああああああああああああああああ!

 

大事な人を失うのはこんなにも、こんなにもつらい事だって、初めて分かった日だった。

・・・・・・・・・・・・・・

あれから3年くらいたったかな。

今じゃ部屋に何本もエレキギターが置いてあって、関連機材もたくさん買ったからそれで部屋が一杯。バンドも3つ掛け持ち。自分で言うのも何だけど、結構弾けるようになったんだ。

それから、やっぱさ彼女が欲しいんだけどさ、

今の世の中便利になって、スマホやパソコンで色んな出会いを利用できるけれど、僕個人はそう言う出会いにやっぱり抵抗あって。

さてどうしようかな?

saito著

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