そんなの、ドラマの中の話。と思っていた
高校生の頃の私は『教師と生徒の恋』というものはドラマやフィクションの中にしかない、ファンタジーも同然だと思っていました。教師は大人、生徒は子ども。大人が子どもを相手にするようなことなどあるわけがない、と。
それが、ある、と思い知らされたのは私が高校を卒業して進学してから半年ほどしてからのことでした。
A美との出会い

進学した先で私はA美という子と仲良くなりました。彼女は私よりも2つほど年上で、入学当時には既に成人していて、酒豪という言葉がぴったりの子。お酒が入った彼女にキスをされたこともありました(笑)よく笑い、よく喋り、面倒見もよくて同級生たちも私も『A美姉ちゃん!』と呼んで慕っていました。
その頃、私は心配性の両親と実家で暮らしており、バイトをするにも学校の友達と遊ぶにも両親の許可が必要でした。それが息苦しくもあり、その実家から少しの時間でもいいから離れたくて、学校の近くにあった彼女のアパートに度々遊びに行っていました。彼女には何度となく両親の愚痴も聞いてもらっていたので、快く受け入れてくれていました。
本当にあるの、こんなこと

ある日、私はいつものように授業を終えて彼女の家に行きました。その時はA美の方から『話があるから、今日泊まりに来ない?』と誘ってきてくれたのです。よく笑う彼女が神妙な面持ちでそう言ってきたときは、いつも頼らせてもらっている『A美姉ちゃん』が私に頼ってきてくれた!と嬉しくて、いつも私の話を聞いてくれているのだから私だってA美の話はいくらでも聞くよと快諾しました。
電気代の節約のためにいつも日没ギリギリまで明かりをつけない薄暗いアパートに入って鞄を置き、『それで、話って?』と切り出します。
「実は、彼氏ができて」
ドキリとしました。なんとなく予想はしていたけれど、やっぱりか。いや、おめでたいことじゃないか。そう思った私は『そうなんだ、よかったじゃん!』と祝福をしました。まあこれでここに頻繁に遊びに来られることもなくなってしまうかもしれないけれど、それは仕方がない。むしろ今まで私はA美に甘えすぎていたのだ。ちょっと反省した私は今まで甘えすぎててごめん、これからは彼氏との時間を大事にして、と言おうとしたのですが、A美はそれを遮りました。
「これからここに彼氏が来るから、ちょっと待ってて」
これには驚きです。こちらはそんな心構えしていません。さすがにそれは、と断って帰ろうとしたのですが、A美は私を引き留めます。
「お願い、ちょっとだけでいいから」
と。
それから20分ほど、どんな人なのか、どこで出会ったのかなどA美を質問攻めにしていると、ドアチャイムが鳴りました。
来た。心臓がバクバクいっている。
こんにちは、A美の友達のT村です、などと脳内で挨拶のシミュレーションをしていた私でしたが、そこに現れた男性を見てそれらは全部吹っ飛びました。
何とも言えない顔をして現れたのは自分も世話になっているゼミの先生、S山先生だったのです。

人間は驚くと声も出ないし思考も表情も固まる、というのと同時に、フィクションの世界のものだとばかり思っていた『教師と生徒の恋愛』が目の前に現れてしまったのです。
しかしこれだけでは終わりません。
A美のお腹にはS山先生の赤ちゃんがいるというのです。
S山先生は当時40代半ば、テディベアのような見た目の優しい先生でした。バツイチの独身であるということは知っていたのですが、生徒を妊娠させる教師って本当にいるものなのか、それもこんな身近に。まだ若かった私にはあまりに衝撃的な事実でした。最早『彼氏ができた』どころの話ではなかったのです。
「…どうするの?」
そうA美に問うとA美は、学校は辞めてS山先生と結婚する。でも事実がそのまま明らかになるとS山先生の学校での立場が危うくなる、だから協力してほしい、と私に言いました。
それは嘘の噂を流すこと。親が倒れてしまい、その看病のためにA美は退学して地元に戻ることになった、という嘘。急なことで他の同級生たちに挨拶もできなくてごめん、て言ってたよ、と私は数人の同級生に話しました。残念がったり、A美に直接メールをする同級生たちの姿に心が痛みましたが、S山先生の立場が危うくなればA美とお腹の赤ちゃんの生活も危うくなりかねないのだからと自分に言い聞かせてできるだけ気にしないようにしました。それとほぼ同時期、S山先生の左手の薬指に銀色の指輪がつけられるようになりました。同級生や先輩たちは祝福していました。誰もS山先生の奥さんがA美だとは思っていなかったでしょう。
A美は幸せに暮らしている、と思っていたのに

退学したA美とは時々連絡を取り合っていましたが、その間隔は少しずつ開いていってしまいました。私はちょうどこの頃始めたバイトがとても楽しくて、そちらに夢中になっていたせいもあるかもしれません。
A美が退学してから半年ほどたった頃、S山先生の薬指から結婚指輪が消えていることに私は気が付きました。どうかしたのかとS山先生を問い詰めたのですが、煮え切らない返事。帰宅した私はA美に直接電話をしました。時期からすればまもなく産まれる頃。その見舞いを装っての連絡でした。
「もしもしA美?久しぶり!そろそろ産まれる頃かと思って。具合どう?もしかしてもう産まれちゃった?」
電話でそう問うたのですが、A美は無言です。
「A美?どうしたの?」
『……DV』
「え?」
『S山にDVされて、……逃げてるの…』
またしても私の脳内は真っ白になりました。見た目はテディベアのようで優しくて笑い声はとても大きくて、授業もとてもわかりやすいS山先生がDV男だなんてどうしても信じられない。だからと言ってS山先生を問い詰めればA美に危害が及ぶかもしれないからそれもできない。もしかするとS山先生がバツイチというのも原因は…。いや、今はA美のことだ。でも何をどう言えばいいのだろう。私にはわかりませんでした。
「私にできることがあれば連絡して」
そう言うのが精一杯でした。
以降、A美からの連絡は途絶えたまま。A美と産まれた子が幸せであることを願ってやみません。
koron著









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