【仲の良い二人】

本当にジロウとカエデは仲がいい。いつも一緒にいる。今日も2人で昼メシ食べているな、と学生食堂の奥にチラリと目を向けて私は微笑む。ジロウもカエデもサークルの後輩だ。カエデに一目惚れしてしまったジロウのためにふたりが付き合う様になるまでエスコートしたのは私だ。今の楽しそうな二人を見ていると本当にいい仕事をしたと改めて満足をする。
【事の成り行き】

真面目で実直ないい奴だけどちょっと内向的。あまり人付き合いが上手くないジロウと、社交的で誰とでもすぐ仲良くなり友人も多いカエデ。最初にジロウから相談を受けた時は正直、難しい、と否定的な考えだった。カエデはひとりのヒトにあまり縛られたくないタイプと聞いていたからだ。その上、何というか、対人距離が非常に近いため並みの度量では彼氏になっても毎日、ヤキモキすることが容易に想像できる。それに対して、ジロウは一途で決めたヒトにとことん尽くす代わりに自分だけを見ていて欲しいタイプだ。きっと上手くいかない。ジロウには諦めるよう勧めてみたが一度決めたらなかなか意思を曲げないタイプのジロウ。
私に対してそんなに積極的なんだら、本人が何とかしていくようではないか、と思いながらも熱意に負けて協力をする様になった。
サークルの集まりでカエデの近くにジロウを座らせたり、サークルのお遣いを二人で行く様お願いしたり、三人で遊びに行ったり、カエデと話をする時にそれとなくジロウの魅力をアピールしたりと私自身もカエデに積極的に働きかけた。その甲斐あってか、ジロウは益々、カエデを好きになり、カエデもジロウのことを意識する様になってくれ、ふたりの距離は一気に縮まった。
更に、ちょっと前にカエデが彼氏と別れたばかりで寂しい思いをしていた事も幸運であった。兎にも角にもこうして気づけばふたりは付き合う様になっていたのである。
【異変、離れる気持ち】

ふたりの仲睦まじさに安心していたある日、私は突然カエデから呼び出しを受けた。何やら改まった様子で相談があると言う。今日はジロウがいない。どうしたのだろうかと思いながら話を聞いてみると一言で言えば「ジロウの気持ちが重い」と言うことの様だ。失恋して落ち込んでいた時に、ジロウの一生懸命さと熱意が伝わり心動かされた。また、これまでジロウの様な一途なタイプとは付き合ったことがなく、それも新鮮でジロウと付き合うことにしたと言う。更に付き合ってみると何をおいても「カエデファースト」で何時も一緒に居てくれ、細かいことまで色々と気遣ってくれるし、想像以上に居心地がよく、楽しかった。
しかし、暫くすると気付いてしまった。自分はジロウに縛られているのではないかと。ひとりでどこか行きたい時や別の友人とどこかに行きたい時も必ずついて来ようとする。初めはもっと一緒に時間を過ごしたいとか、カエデの友人とも知り合いになりたいのかと思い、誘っていたがいざ一緒にいくとジロウは楽しそうな雰囲気でもない。男女問わず他の友人と過ごしている時は特に早く帰りたそうにしている。それどころかずっと監視されている気分になる。
こんな事もありジロウを連れずに出かける様になると、今度は会う度にその時の様子を根掘り葉掘り聞いてくる。やはり、監視されている様に感じる。この様なことが続いた結果、益々冷静になってしまい、会う頻度が最近下がって来ているのだが、今度は会う度に「将来結婚したら~」みたいな話をされる。ただ、普通にしていればふたりでいる時は優しいし、楽しいのでどうしようか、困っていると言う。
ジロウの性格を考えると想像出来なくもない状況でカエデが悩むのもわかる気がする。そこで、今度それとなくジロウと話しておくのでもう暫く様子をみたらと言うことでその日の相談は終わった。
【すれ違い、ふたりの気持ち】

ジロウにどう伝えようか悩んでいると、ジロウの方からカエデのことで相談があると言ってきた。やはりお互い思うところがある様だ。
ジロウが言うには、カエデは明るくてよく話を聞いてくれて一緒にいると自分まで開放的になれて楽しい。友人も多く社交的なので友達も増えて嬉しい。たまに、心配になる事もあるけど、いつも一緒に居てくれるので安心していた。付き合うことができて本当に良かったと思っている。ただ最近はひとりで出かけることが多くなり、以前のように友達と会う時に誘ってくれない。どこへ行って、誰と会っていたか聞いてもはっきり話してくれない。自分が如何にカエデのことを考えているか伝えても真剣に聞いてくれない。それどころか、真面目な話をすると敢えて避けるような態度をとる。すっかり、一緒にいる時間が減ってしまった。自分はこんなにもカエデのことを考えているのに、と言う。
なるほど、ジロウの心配性が事態を悪化させている。カエデが「重い」と言うのも分かる気がする。そこでジロウには側から見たら十分仲の良いカップルに見えるからあまり心配しないで、少し自分の思いを抑えてカエデの考えを聞いてお互いの丁度良い距離感をみつけてみたら、と提案した。この時はジロウも渋々ながら納得して帰っていった。
【混沌、ウンザリ】

これ以降、暫くの間、ジロウと会えばカエデから呼びだされ、カエデと会えばジロウから呼びだされ、の繰り返しが続いた。しかし、ふたりが付き合うきっかけを作った責任感から
ふたりの話に付き合った。
それでもいい加減ウンザリしていたある日、ジロウが「先輩、初めからカエデのこと狙っていたでしょ」と突然言い出した。被害妄想もいいところだ。どの様な言い分でその様な事態になったのかと確認すると、ジロウは自分をキッカケにカエデの相談にのることでカエデの好感度を上げてカエデと付き合うつもりだ、と言う。
確かに、カエデから色々と話を聞かされて彼女のことに詳しくもなったが、色々と順序がおかしい。
更に、この話の理論では同じくらいジロウのことも詳しくなっている。だから、ジロウからの好感度が下がっているのにカエデの好感度が上がっている様にも思えない。特に、最近は面倒になって適当に話を聞き流していた。
ウンザリしながらも戸惑っているとジロウは更におかしな事を言い出した。最近、カエデはなかなか会ってくれない上、会えば彼女は先輩の話ばかりをしていると言う。私は色々相談に乗ってくれ頼りになるいい先輩らしい。
更に、私はカエデとよくふたりで会っているらしい。確かに、相談の時はふたりで会っているが話の内容はジロウの事ばかりだ。「よく」会う定義も曖昧だ。何れにしても私の知らないところで勝手に色々話が進んでいそうだ。カエデにも確かめなければならない。納得いかないジロウを振り切りその日の話は終了した。
【まさかの展開】

早速、カエデに連絡して話しを聞くと、こちらはいきなりおかしな事を言い出した。「ジロウに聞いたのであれば話が早い。先輩、私たち付き合いませんか。先輩、私のこと嫌いではないですよね。嫌いならこんなに親切に相談乗ってくれませんよね。何も、本気じゃなくてもいいですよ。」どう言う展開だ。最初に相談して以来ジロウとは何度も話し合ったがその度にジロウの束縛が強くなり既に我慢の限界になっていると言う。別れ話をしているのだが全く進展しないので別に好きな人が出来たと言うことにしたらしい。
その際ジロウに相手を追及され、私と答えたらしい。私であればジロウも諦めるであろう、と考えたらしい。その上、付き合ってしまえば完璧だと判断した様だ。
なんだ、この自分勝手な展開は。人を巻き込むな。私の気持ちはどう考える?
ジロウもジロウと思ったがカエデはその上を行く様だ。呆れて目眩(めまい)がする。こんな話、受け入れられるわけもなく、即座にお断りした。
しかし、それからしばらく経つが相変わらずジロウとはカエデのことでよく会うがいつも私の隣にはカエデがいる。
kurata著









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