些細な事と思っても?彼女は刃物で向かってきた!

きっかけは些細なことだった。

少し連絡を怠った、その程度のことだったはずだ。

それでも今、彼女の手には包丁が握られている。

向けられた強い怒り。

リュウはその感情の大きさに、首筋に汗が伝うのを感じた。

彼女との出会い


大学の入学式を終えて、リュウは教室棟の廊下を歩いていた。

スーツに身を包んだ男女が、まだあまり知らない周囲の人間のことを学友とは認識しきれ

ず、おどおどと廊下を歩いていく。案内された教室には、すでに自分の名前が書かれた札が

机に置いてある。そこに座るように、という指示らしい。

「ここに座ればいいのかな・・・」

少し戸惑いながらリュウが椅子に腰を下ろすと、ほぼ同時に隣に誰かが着席した気配があった。

ちらりと視線を向ければ女子だった。その視線に気づいたのか、女子は怪訝そうに眉をひそ

め、それでも会釈をしてきた。リュウも会釈を返す。

それが、彼女との出会いだった。

友達から恋人へ


交際

彼女はサチ。同学年同学科ということもあり、受けている授業も同じことから次第に仲良く

なっていった。

「今度どこか出かけない?」

そう言ってきたのはサチからだ。

「いいね、どこ行こうか」

「そうだね、あのお店なんかどうかな。新しくできたレストラン」

その二人でのデートをきっかけに、リュウとサチは交際を始めることとなった。

入学して初めての秋。

彼女もできたリュウはとても充実した日々を送っていた。

一緒に住んでみる?


付き合い始めてからは、お互いの家を行き来するようになった。

二人とも一人暮らしということもあり、家族に気兼ねすることもなかったので、毎週末はお

互いどちらかの家に泊まり、月曜日はそこから学校に行く、ということが増えたのだ。

そんな付き合いを何か月か重ねたある日、サチが口を開いた。

「もし、よかったら、私の家に住めばどうかな?」

「え」

唐突のことにリュウは驚いた。それまでも毎週末お互いの家に泊まってはいたが、「住む」

とはおそらく、毎日同じ家から出かけて同じ家に帰ってくることを意味するのだろう。

「嫌だったらいいんだけど・・・」

少し困ったように黙り込んだサチを見てリュウは慌てて首を振る。

大好きな彼女と一緒に住める。嫌なわけがない。

幸い、サチの家の方がリュウの家からより学校にも近かったので、リュウは喜んで快諾し

た。

後輩の恩返し


後輩の恩返し

春になり、単位も順調に取っていたリュウは、二年生へと進級した。

新入生も入ってきて、リュウにも仲の良い後輩ができた。同じ学科で選択授業が同じだった

ため、わからないところやチームワークなどを二人で行ううちに、仲良くなっていった女子

生徒だった。

「先輩、このあいだは助かりました」

後輩が本当に助かったというように、拝むのでリュウは笑った。

「別にいいよ。去年、俺のとっていた授業と同じ内容だっただけだって」

「じゃあ先輩の力じゃないんですね」

「お前なあ」

「あはは」

そして、思い出した、というように後輩の女子生徒は声を上げた。

「よかったら、お礼にご飯おごらせてもらえませんか?」

「え、そんな大したことはしてないよ」

「私の気が済まないんですよ、行きません?」

「うーん」

リュウは彼女のサチのことが頭をよぎったが、ご飯くらいなら問題ないだろうと思い、わか

った、と返事をして、女子生徒と夕飯を食べに行くことにした。

サチに連絡を入れておこうかとも思ったが、そんなに遅くならないだろうということで特に

連絡をするのはやめておいた。

そこで何してるの?


後輩の女子学生のおすすめの店、ということで夕飯を食べに来たリュウ。

「なあ」

「なんですか?」

顔を上げた後輩の手には包丁が握られている。

「店、じゃなかったのか?」

「ああ~」

そうですね、と苦笑いをする後輩。

二人は学校を後にし、そのおすすめの飲食店に向かったのだが、飲食店は定休日で休みだっ

た。

別の日でも構わない、とリュウは申し出たのだがそれでは気が済まないと後輩の押しに負

け、近くのスーパーで食材を買って後輩の家でご飯を作ることになったのだ。

「大丈夫です、私が作るので先輩はくつろいでいてください」

「いや、それはいいんだけど・・・」

後輩とはいえ、女性の家に上がり込むのは申し訳ないなと思うのと同時に、サチに対し

ても罪悪感が少し湧いてきた。

それでも、長居しなければいいかと思い直し、出来上がった料理を二人で食べ、少し他愛の

ない話をして後輩の家を後にすることにした。

「かえって申し訳なかったね」

「そんなことないですよ、ほんとに助かりましたから」

笑顔の後輩に見送られ、後輩のアパートを後にしようとしたとき、

「リュウくん?」

と声をかけられた。

振り向くと、サチがいた。

思い出の傷


まずい。

とっさにリュウの脳裏をよぎったのはその言葉だった。

後輩の家を後にしたリュウはサチとともに家にたどり着いた。その道中は無言。

何もやましいことなどしていないのだが、サチが発する雰囲気からはまずいという言葉し

か思い浮かばなかった。

「あのさ」

とりあえず弁解しようと口を開いたリュウの目に飛び込んできたのは、キッチンから包丁を

手に握ってきたサチの姿だ。

「なにしてるんだ?」

「それはこっちのセリフでしょ!」

包丁を前に突き出し、サチが叫ぶ。

幸いリュウを刺すことはなかったが、サチの突き出した包丁は壁に見事な傷を作った。

その後、何とか落ち着きを取り戻したサチに事のいきさつを説明し、許しを得たリュウです

が、今後はこまめに連絡を入れるようにしよう、と、一か所だけ色の違う壁を見るたびに思

い出すようです。

 

100著

 

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