大学に入って3年が過ぎた。
キャンパスライフにもすっかり慣れ、卒業に必要な単位は2年生までにほぼ取り終えた。
3年生にもなると、必修科目は減り、それぞれが受けたい授業を選択するようになる。
それらも必須科目ではないので、私は取らないことに決めていた。
すると必然的に、空き時間が増える。
もちろん大学生らしくバイトに明け暮れる日々も悪くはないし、
実際そうしている友人も数多くいた。
しかし、自分はそういう気分にはなれなかった。
そんな時、大学の掲示板にとある貼り紙を見つけた。
「英語クラブの受講生募集」の文字。
当然会費はかかるし、それほど興味もなかった。
ただ、2年生のころから受講している友人の勧めと、
「将来を考えたら英語もできておいた方がいいか」との考えから、申し込むことを決めた。

最初に簡単なテストを受け、実力に合わせてクラス分けがされた。
受ける授業自体は特別なものではない。
指定されたテキストに従って、講師の先生と英会話をするという単純なもの。
半ば勢いで参加を決めたものの、そこまで前向きでなかった私は、正直授業が楽しくなかった。
英語はできた方が良いと思うけれど、日常生活に必須ではないので身が入らない。
そんな気持ちの私は、惰性で授業を受けていた。
同じクラスのメンバーは数名いるが、毎回の授業で全員が集まるわけではない。
それぞれ学部学科が異なるため、空き時間もさまざま。
英語クラブは週のうち何回か開講しているため、それぞれの空き時間に合わせて受講するといスタイルになっている。
私も授業や実習の合間に受講していたが、ある日、一人の女の子に目が留まった。
というより、その顔に見覚えがあった。
地元にいる中高時代の同級生と顔がそっくりだったのだ。
何とかして声をかけたいと思った。
彼女は英語も達者な方だが、偶然にも同じクラスに所属していた。
明るい性格でノリも良く、どちらかというと男子からの人気が高かった。
正直、どうやって声をかけたのかは覚えていない。
しかし、この出会いが私の人生を大きく動かすことになる。

話しかけてみると、思っていた通りの明るい性格で、ぱっちりとした目が可愛らしかった。
名前はYといい、同級生というのは間違いだったが、地元は同じで学年は一つ下の後輩だった。
Yと私は学部学科が異なるため、普段の生活では全く接点がなかった。
しかし、英語のクラスではもちろんのこと、それ以外の時間でもキャンパスで見かけたときは
積極的に声をかけるようにしていた。
元々Yとは地元が同じというぐらいしか接点がなかったが、少しでも声をかけることで距離を縮めていった。
気づけば、1対1で飲みに行くほどの仲になっていた。
何を話していたかまでは覚えていないが、とにかく一緒にいて楽しかった。
それでも、お互いにやりたいことはあったし、時折飲みに行って親しくはしていたものの、
それ以上の関係へ発展することはなかった。

気づけば私も大学卒業の時期を迎え、地元を離れ引っ越すことが決まった。
最後に多くの友人と遊び、これまでの時間を懐かしみながら、これからの社会人生活への期待を語り合った。
私もYも、それぞれのゼミで忙しくしていたため、しばらくは疎遠になっていたが、
最後にふとYに会いたくなった。
私はYに声をかけ、地元を離れることを伝え、「最後に食事でもいかないか」と誘った。
Yは喜んで時間を作ってくれた。
どれぐらい会っていなかっただろう。
思い出せないぐらい時間が経っていたが、Yはいつもの通りの明るさで接してくれた。
それがとても懐かしく、心地よかった。
最後に別れる時、一緒に写真を撮った。
大学時代の数年ほどの付き合いだが、二人とも大人になったなと感じた。
するとYが突然、「近くにいなくなっちゃうなんて寂しい」と言った。
私はYを抱き寄せた。
人々が行き交う駅前だったが、二人だけの時間が流れていた。
どれぐらい抱き合っていただろう。とても長い時間が過ぎたように感じた。
「ありがとう」と私は言った。
そして、「俺は離れてしまうけど、何かあったらいつでも連絡してきな」と付け加えた。
Yは「うん」と言って、そこで本当にお別れとなった。
ここから新しい生活が始まる。Yとの関係も一区切りだな、そう思いながら帰路についた。

勤め始めて1年半が経過し、毎日忙しくしながらも私は仕事に慣れつつあり、充実した日々を過ごしていた。
新しい趣味にも出会い、同期はもちろん先輩たちとも親しくなった。
定時後に飲みに行ったり、同じ趣味を持つ同僚と休日は出かけたりと、
社会人らしい生活を送っていた。
そんなある日、一通のメールが届いた。Yからだった。
「Nさん!お久しぶりです。今度出張で近くまで行くんですが、会いませんか?」
実はYとは、社会人になった後も連絡を取ったことがあるが、たった1度きり。
就職でどの道へ進んだらいいか迷っていたYが、私に相談してきてくれた。
その後どうなったかは聞いていなかったが、無事希望の会社で勤め始めているようだった。
そんなYからの突然の誘い。断れるわけがなかった。
しかも、出張を延泊してわざわざ時間を作ってくれるという。
そこで私は、Yにこう提案した。
「せっかくなら、うちに泊まりに来る?」
Yからは、こう返事が来た。
「嬉しい!じゃあお言葉に甘えてお邪魔させてもらいますね。
一緒にお出かけするいい練習になりそう^^」
Yとは学生のころから、一緒にお出かけしたいねと話していた。
でも、当時は実現することがなかった。
それが今回、ひょんなことからYが私の家へ泊まりに来ることになった。
まだ何ヶ月も先の話だったが、私はその日が楽しみで仕方なかった。
n646著
後編
あっという間にその日は訪れた。
Yは金曜まで仕事を行い、土日は延泊して友人と会っていたようだった。
私とは日曜の夕方に合流することになっていた。
Yと対面するのは、地元を離れる前に会った時以来なので、1年半ぶり。
そこまで久しぶりというわけではないが、お互い社会人の立場で会うのは初めてのこと。
顔を合わせるのが楽しみだった。
そして日曜の夕方、先に集合場所へ着いた私は、Yの到着を待っていた。
待つこと数分。Yが現れた。彼女はまだ私を探しているようだったが、
こちらはすぐに見つけることができた。
私の呼びかけに反応したYがこちらを向き、笑顔で走ってきた。
走った勢いそのまま、Yは私の胸に飛び込んできた。
久しぶりの感覚だった。
空いた時間を取り戻すかのように、私はしばらくその時間を堪能した。
ほんの数秒ほどの話だが。
私の胸から顔を出したYは、あの時と何も変わっていなかった。
服装や容姿は、社会人らしく大人びたものだったが、中身は私の知るYそのものだった。
久々の再会を喜んだ私たちは、近くのお店で夕食を済ませ、私が暮らす自宅へと向かった。

何を話したのかまでは覚えていないが、とにかく楽しかった。
お互い違う道へと進み、長い間会っていなかったにも関わらず、
とても話は盛り上がり、会話が途切れることはなかった。
あっという間に時間は過ぎ、夜も更けてきたところで、交代でお風呂に入ることになった。
私もYも汗を流し、それぞれの寝巻に着替え、再び飲み直して話を続けた。
再会したこの日は、秋の終盤で夜は冷え込んでいた。
もちろん暖房をかけてはいたが、深夜まで話していると、体が冷えてきてしまった。
もう、お風呂を出てから何時間も経っている。
「結構冷えてきたね。ちょっと寒気がしてきたよ。」
私がそう話すと、Yは
「じゃあお布団の中で話しましょ」
と言ってきた。
そして、私とYは向かい合うようにしてベッドに寝転んだ。
私のベッドは、いたって普通のシングルサイズ。
大人2人が寝るには少し狭い。
電気は消していたのでよく見えなかったが、目と鼻の先にYの顔があるのが感じられた。
布団に入っているおかげもあるが、普段一人で寝る時には感じることのできない温もりが、私を包んでいた。

気持ちよくなってそのまま寝てしまうかと思ったが、目が冴えてなかなか眠れない。
それもそのはず。
後輩とはいえ、一人の女の子が自分の目の前で寝ているのだ。
意識しないわけがない。眠るどころじゃなかった。
しばらく温もり身を任せていた私は、ふと気になった。Yは寝たのだろうか。
「ベッドに入って話そう」と提案してくれたYは、あれから一言も声を出していない。
寝息を立てているようにも思える。
でも、「寝た?」なんて聞くのは面白くない。
そこで私は、イタズラするような気持ちで、Yの口に私の口を重ねた。
突然のキスにYはピクッと驚いた様子だったが、すぐに状況を理解し応じてくれた。
それまでの時間を取り戻すかのように、お互いを求めあった。
どれぐらいの時間そうしていたか覚えていない。
ただとにかく、二人の時間に夢中だった。

その日を境に、大学の先輩後輩という関係だった私たちは、男女の関係になった。
特に告白をしたわけでもないが、お互いを見る目は以前と変わっていた。
普段は遠く離れた場所に住んでいるため、会いたい時に会える環境ではなかったが、
Yが出張で近くまで来てくれる時が、私たちにとって二人で過ごせる唯一の時間だった。
出張も決して多い方ではなかったが、なかなか会えないという環境が、
かえって私たちの関係をより熱くしてくれた。
どれだけ一緒にいられる時間が少なくても、Yは私との時間を作ってくれた。
泊まりでなく日帰りで会うことしかできなくても、わざわざ私の家まで来てくれた。
その気持ちが嬉しかった。
私は少しでもその気持ちに応えようと、できる限りのことをした。

そんな幸せな時間はあっという間だった。
社会人にとって異動はつきもの。
Yの所属が変わり、これまでのように出張で近くまで来ることが無くなってしまったのだ。
私の方は所属が変わることも少なかったが、元々出張で外出することが少ない部署にいたため、
Yと会う回数が大きく減ってしまった。
今振り返れば、これが最後の時間だったんだなという日がある。
実際、その日を境に私はYと一度も会っていない。
最後に会ってから、もう6年近くが経過した。
その日、Yが久しぶりに出張で近くまで行くという連絡をくれた。
私はぜひとも会いたいという気持ちだったが、逆に自分が外せない用事で自宅を離れなければならず、会うことが叶わなかった。
その日以来、Yが私の住む町まで来ることは無くなった。
私はというと、今は結婚もして子供もいる。
Yと過ごした街も離れ、家族で仲良く暮らしている。
Yとは今でも連絡を取ることがある。
彼女も母親になり、働きながら息子を育てているとのことだった。
「近くに行ったら連絡するね。」
そう伝えて実際に連絡したこともあった。
しかし彼女はもう一人ではない。私もそうだが家族がいる。
もう、簡単に会える関係ではない。
その時も、都合がつかず会うことはできなかった。
お互い幸せに暮らしているのなら、それでいいと思う。
でも時に、今もYと一緒に過ごしていたらどうなっていたのだろう、と考える時がある。
またお互いの子育てが落ち着いたら、どこかでゆっくり話すことができたらいいな。
そんなことを時折考えながら、私は今日も日常を過ごしている。
na646著









コメント
コメント一覧 (2件)
pr
今回の作品は、大学の英語クラブで出会った後輩との恋愛物語の前編です。
大学に入って3年。卒業に必要な単位はすべて取得し空き時間があった著者は、英語クラブの受講者募集のポスターを見て参加することに決めます。
ある日、そこで見覚えのある女性がいることに気付き話しかけてみると、地元が一緒の一つ下の後輩だったことが分かります。
彼女Yに積極的に声をかけているうちに仲も深まり、2人で飲みに行くほどの関係になりました。
卒業の時期が近づき地元を離れることになり、Yと二人で食事に行く約束をします。そして別れを名残惜しみながら、著者は社会人として地元を離れていきました。
社会人となり1年半が過ぎた頃、Yから突然会いたいというメッセージが届き、著者の家に遊びに来ることになります。著者はその日を楽しみにしていました。
男女が偶然大学で再会し、社会人となっても繋がりのある関係を保ち続ける様子が描かれています。
一度別れを迎えた後に再び交流が始まろうとしている展開は、主人公の希望や期待が感じ取れます。
今後の展開に期待できる素敵な作品です。
検収者 kitsuneko22
㊵kitsuneko22-10
後編
今回の作品は、大学の英語クラブで知り合った後輩との恋愛物語の後編です。
2人は一年半ぶりの再会を果たすと、久々にもかかわらず話が盛り上がり会話が途切れることはありませんでした。
後に著者の自宅で2人は男女の関係となり、短い時間の中、幸福な時間を共有しました。
しかしYの所属部署が変わり、2人は簡単に会えなくなってしまいます。久々に会える機会があったものの、時間が合わず、結局会わなくなって6年が経過してしまいました。
その後著者は結婚し子供にも恵まれ、彼女のほうもまた新たな家族を築いていました。連絡を取ることはあっても、もう簡単に会える関係でもありません。
日々幸せな生活を送る中、もし彼女と過ごしていたらと考えることもあり、子育てが落ち着いたらいつか会いたいと思うのでした。
久々の再会を果たし友情が恋愛に発展した男女が、現実の流れの中で別れを迎える結末が描かれています。
お互いに別の生活がある中、共有できる時間は本当に貴重なものであり、それを維持し続けることの難しさを感じました。
最後はそれぞれの幸せと会えないことの寂しさが描かれており、現実的でありながらも感情豊かな作品になっています。
検収者 kitsuneko22