恥ずかしい季節

「赤面」

皆様こんにちは。今日は私の二十年前の苦い記憶について紹介します。

中学校に入った頃から、私はよく、人前で赤面するようになりました。子供から大人へと
移り変わろうとしている中で、肉体と同様に感情もまた細胞分裂を繰り返し、その数を増やしながら
より複雑に変化している途中だったのでしょう。特に同級生の女子生徒たちと会話をしている時に
恥ずかしいと感じることが多くなったのです。

私の内側では恋愛というものに対する期待が芽生えつつありました。いつかは恋人が出来、
いわゆる青春を手に入れることが出来るかもしれないと密かに憧れを抱き始めていたのです。

しかし、私は自分の容姿に自信がありませんでした。何度鏡に映してみても、私の顔は
他の男子生徒と比べて劣っているように見えました。そういった恋愛への期待と
自身への失望の間に生じる未熟な緊張が私の赤面をさらに加速させていたのだと思います。

一度でも恥ずかしいと感じるとみるみるうちに顔が熱くなっていき、
自分ではどうすることも出来ませんでした。恥ずかしいことで顔が赤くなり、
顔が赤くなっていることで一層恥ずかしくなり、私はどこまでも沸騰していくようでした。

当時の私は上手く扱うことの出来ない自分自身の置き所に悩み、
ただひたすらにうろたえていたように思います。



「苦痛」

二年生に上がった時、Wという女子生徒と同じクラスになりました。彼女はとても明るく活発で
よく喋る女性でした。その上いたずらっぽいところがあり、魅力的な女性が皆そうであるように
いつも甘い匂いを漂わせていました。

何かのきっかけがあって、Wは私とも喋ってくれるようになりました。彼女の勢いと可愛さに
圧倒され、私は常に「受け手」のように振る舞うしかありませんでした。私たちが会話をする時、
その主人はいつも彼女でした。Wはいたずらっぽい女性がよくするように、何かを試しているような
目つきで私を見るのです。私は毎回赤面し、彼女はそれをからかって笑うのでした。

思春期の少年にとって、異性から馬鹿にされることはとても耐えがたいことです。それは断続的に
繰り返される透明な拷問のようでした。しかし、私がWに魅力を感じていることも事実です。
その事実がある限り、私の赤面が止むことはありませんでした。

何度目かの席替えの時、私とWは隣同士の席になってしまいました。嬉しいことには違いないのですが、
余りにも大きな魅力がすぐ側にあると、かえって苦痛の方が上回ります。私は逃げ出したいと考えていました。
彼女と会話をしていない時でも、彼女が近くにいるという温度が伝わってくるだけで息苦しいのでした。

一番恐ろしいのは給食の時間でした。他の学校でもそうなのかもしれませんが、私たちは隣り合っている席を
向かい合わせになるようにして動かし、六人ごとの集団の形になって昼食をとりました。私の正面にはWがいます。
彼女は意地悪く笑みを浮かべながらこちらを眺めています。私の好意などとっくに嗅ぎ取っていたのでしょう。
すでに答えを知っているような余裕を持って接してくるのです。

Wは毎日私の赤面をからかいました。私は下を向いて、顔を腕で隠しながら給食を食べました。
それは私なりの必死の抵抗でした。何で前を見ないの?恰好つけてるの?と彼女は面白そうに
茶化してきます。自分の魅力が一人の異性を征服していることが楽しくて仕方がなかったのでしょう。

私は彼女のことが好きでしたが、彼女と向かい合わせになることは大嫌いでした。



「台詞」

ある時、私たちは進路の話をしていました。どの高校に入りたいと考えているのか、
教師から渡された紙に志望校を書いて提出しなくてはならないのでした。
どこに行きたいの?とWが尋ねてきます。私は付近の公立高校をこたえました。
わたしもそこを目指してるの!と彼女は目を丸くして一際大きな声で言います。

「頑張って勉強して、一緒に合格しようね」Wはこう続けました。いつも通りの試すような
微笑を浮かべています。その言葉に本心が込められていないことは私でも分かりました。
それは単なる台詞なのでした。

同じような言葉を誰かが言っているのを聞いたことがある方も多いかもしれません。思春期という季節特有の
軽薄な空気が彼女にそう言わせたのでしょう。それはスタンプラリーのカードを埋める感覚に近いのだと思います。
学校生活を送る間に交わしておくべき会話の雛形が、私たちの頭の中に一覧としてすでに用意されていて、
彼女はひとつの実績を残すためにその一文をなぞったのでしょう。

私は彼女のことが好きでしたが、そう言われた時、何も嬉しくありませんでした。



「動揺」

三年生に上がり、私とWは別々のクラスになりました。同じ廊下沿いではありましたが、
教室はその端と端に離れています。彼女と会話をする機会はほとんどなくなりました。
時々遠くから姿を見掛けることがあるくらいでした。

Wに脅かされる心配が減り、私はほっとしていました。しかし、彼女の教室の前を通る時は
やはり緊張してしまうので、部屋の中を見ないようにして足早に過ぎることにしていました。

中学校での生活が残り少なくなってきた頃の、ある日のことでした。Wが廊下の向こうに
立っているのが見えました。彼女は泣いているようでした。私はとても動揺しました。
私の知っている彼女はいつも活力に満ちていて、何でも跳ね返してしまえるような
強い笑顔の持ち主だったからです。

私はWから目を離すことが出来ませんでした。そのうちに彼女も私に気付きました。
古い友人を見つけた時のようにぱっと表情が明るくなり、それからすぐに弱々しく笑いました。
本当なら、急いで彼女に駆け寄って話を聞けばよかったのです。しかし、私は動けませんでした。

私とWは互いに遠くから視線だけを送りました。それは私たちにとって唯一の無言の会話の瞬間でした。
次の授業が始まるチャイムが鳴りました。私たちはそれぞれの教室へと戻っていくのでした。

後日、廊下を歩いている時にWに呼び止められました。あの時わたしを見ていたでしょ、と
彼女は普段通りの口調で言います。「君の顔を見て、ちょっとだけ元気が出たのよ」

それは私が何度となく聞かされ続けてきた彼女の意地悪な冗談だと思ったのですが、
ひとつだけ、今までとは違ったことがありました。彼女は赤面していたのです。
もしかすると、ほんの少しくらいは本心が込められていたのかもしれません。
返事に迷っている間にWは行ってしまいました。彼女が何故泣いていたのか、
私は今でも知らないままです。

数か月後、私は志望していた高校へと進学しました。Wの姿はそこにはありませんでした。

i540著
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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 今回の作品は、思春期の男子学生が経験した苦い記憶のストーリーです。

    中学生になった頃から人前で赤面するようになった彼。特に同級生の女の子の前では、その変化が顕著でした。
    二年生で同じクラスになったWという女子生徒がおり、可愛く魅力的な彼女は彼とも話すようになります。
    いたずらっぽい彼女は彼が赤面することをからかい、彼はそれが苦痛でしたが、同時に魅力を感じているのも事実でした。
    ある時、同じ高校を目指していることが分かり、「一緒に合格しよう!」と彼女に言われましたが、彼は彼女を好きな反面、嬉しさは感じませんでした。
    三年生で別々のクラスになり、ある時、廊下の向こうで泣いているWと目が合います。
    後日、彼女は「君の顔を見て元気が出た」と赤面しながら言いました。
    彼女が泣いていた理由は分からず、同じ高校に通うこともなく彼女との縁は切れてしまいました。

    このストーリーからは、思春期の男子学生の繊細な感情と、彼女との関係に苦悩する様子がよく伝わってきます。
    恋愛に興味を持ちつつも異性の前で赤面してしまうこと、それを好きな異性にからかわれて苦痛を受けることは、思春期の多感な時期を経験した読者なら共感する部分も多いでしょう。
    最後は彼女の感情にも目を向け、同じ道を歩まなかったという結末から、様々な憶測を呼ぶ点が非常に印象的で面白いです。

    検収者 kitsuneko22

    ㉘kitsuneko22-10

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