生徒Aと憧れの女子高生 . . .

人前で努力する奴はニセモノ。

必死にアピールする奴はカッコ悪い。

 

学生時代、そんなふうに思っていた時期があった。

 

「タイガース中村 連日の1000本ノック レギュラー奪りへ猛アピール!」

満員の通勤電車に揺られながら、俺はスポーツ新聞の一面を眺めていた。

目次

プロローグ

ユミコを知ったのは高校の入学式だった。

 

凛とした背中と、その背中にまで伸びた長い黒髪。

二重の大きな瞳は、まるで芸能人のようだった。

田舎から出てきたばかりの俺は、すっかり目を奪われた。

 

俺がチラチラ見ていると、前をまっすぐ向いていた彼女は、

ふと、こちらに視線を向けた。

 

思わず目があった彼女は、ニコっとほほ笑んで軽く会釈をした。

女子に免疫の無い俺は赤面しながら固まっていた。

 

「それでは新入生代表!1年6組タカハシユミ!」

 

うちの学校は、入試トップの生徒が新入生代表として挨拶をする。

「はい!!!」

さっき俺にほほ笑んでくれた彼女は、大きな声で立ち上がった。

(タカハシって言うのか・・・)

俺とユミコ

うちの学校は、3年間クラス替えがない珍しい学校だった。

俺はそのクラスで、ユミコと3年間ともに生活をしていた。

 

ユミコは常に成績トップだった。

クラブ活動は女子バスケットボールで、高校選抜にも選ばれていた。

入学時から学級委員長を務めていたし、3年になると生徒会長も務めた。

さらには性格も明るく活発で、女子からも好かれる学校中の人気者だった。

 

一方で俺は、中身は中学生のままで、身体だけが大きくなっていた。

どこか熱くなれず、クールさを装い、ワイワイ騒ぐ輪の中には入らない。

常に一歩引いた立場で、クラスメートと話していた。

 

ユミコとは名簿順が1つ違いだった。

ユミコの席順は、3年間ずっと俺の前。

キラキラした生活を送る女子高生を、俺は後ろの席から眺めていた。

 

そんなユミコに好意を抱く男子は、俺だけじゃなかった。

何人もの男子がアプローチをし、そして撃沈をしていた。

 

(そんな成績じゃ、ユミコは振り向かないよ)

 

うぬぼれでもなく、ユミコが3年間でもっとも話した相手は俺だと思う。

 

実際、好きな男子のタイプは、騒がない大人のタイプで、

さらっと気配りができる、優しくて大らかな男性。

そして身長は自分より高くて、健康的で明るい人だ。

 

俺たち2人は、口には出さずとも、お互いを思い合っていたのは明白だった。

少なくとも周りからは、そう思われていただろう。

文化祭

高校生活3年目。

最後の文化祭は、受験前ということもあって男子は誰も手を挙げなかった。

仕方なく俺は、文化祭の委員に立候補した。

 

それに影響されたのか、ユミコも立候補をした。

他の女子は手を挙げていない。

決まりだ。

 

前に立って軽く挨拶をした。

俺は3年間で初めてクラスメートの前に立った。

ユミコは3年連続3回目だった。

 

そこからは、怒涛のように過ぎていった。

ユミコと俺の頑張りもあって、高校生活最後の文化祭は、成功に終わった。

 

お疲れ様会と称して、俺たちは、いつも打ち合わせに使っていたファミレスに向かった。

 

この数週間、2人でゆっくりと話し込む時間もなかった。

しかし、今日ばかりはと文化祭の思い出話や、これまでの高校生活を振り返っていた。

 

楽しい時間は一瞬だった。

時間はすでに21時。窓の外には、塾帰りの小学生が歩いていた。

 

俺たちはファミレスを出て、駅へ向かった。

2人の思い

「ずっと好きだった。俺と付き合ってみない?」

 

俺は、文化祭終わりで気持ちが昂っていた。

今しかないと思った。

 

ユミコも同じ気持ちだっただろう。

この言葉を待っていたはずだ。

 

しかし、俺の思いは伝わり切らなかった。

 

色々と何か話していたような気がするが、少なくとも俺の耳には届いていなかった。

彼女は笑って手を振り、ホームへと消えていった。

エンドロール

季節はすっかり冬。

俺は希望する大学への進学が決まっていた。

 

あの事件のあとも、ユミコとの関係は何も変わらなかった。

次の日も教室は、文化祭の話題で盛り上がっていた。

 

重苦しい空気感は、まったく無く、

むしろ、あの事件はなんだったのか?と思えるほど淡々と、

卒業式までの時間が流れていた。

 

卒業式。

挨拶はもちろん、生徒会長のユミコだった。

 

クラスでお別れ会をした後、校門の前で俺はユミコに話しかけた。

「タカハシさん。あの日から教室でも気を遣わしてごめん」

「色々あったけど、3年間ありがとう」

 

彼女は一瞬だけ首をかしげて、そしてほほ笑んだ。

「ん?あの日?なんだっけ?」

「あ!文化祭?あれ楽しかったね!」

 

「ユミコーーー!みんなでカラオケ行って打ち上げしよーーー!」

「はーーい待ってーーー」

校門の向こう側から、ユミコの友人たちが呼んでいた。

 

「とにかく3年間ありがとう!」

そう言って去った彼女を、俺は遠い目で追っていた。

 

高校生活、最後の1ページ。

彼女の台本に、俺のセリフは載っていただろうか。

 

(もっとアピールをしていたら)

(入学式のあとに話しかけていれば)

(連絡先を交換していれば)

 

役名は生徒A。

俺は、セリフの無い台本を握りしめて、ひっそりと出番を終えた。

ny8545著

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この記事を書いた人

コメント

コメント一覧 (2件)

  • ny8545さん

    2記事目の投稿して頂きまして有難う御座います。

    それでは検収をさせて頂きます。

    今回の作品は、高校生男子の淡い恋と切なさと純粋な思いが入り交じった作品です。

    読者の誰もが身近な生活の中で見てきた生徒同士の関係が上手く表現されています。

    初めて見かけた彼女の輝きと自信と美しさは、彼女自身気づいていないことが有ります。

    何時も全力で学び動き回っている彼女にとって理想は高く、自身は未熟に思えて仕方ないのでしょうか!

    そばで、嬉しさと緊張と憧れで見つめる彼は、彼女にとって弟のような存在なのかも知れません。

    高校生の活き活きした学生生活を魅力的に表現しています。

    そして男子高校生から見る女子生徒の姿が今、目の前に居るように感じます。

    色んなことを作品の中では取り上げて頂きましたが、一瞬の出来事のように読み終える事が出来ました。

    読者の気持ちを捉えることが出来た証です。

    今回の検収はこれにて完了と致します。

    次回の投稿記事も楽しみにお待ち致します。

    井上保夫

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