初めての恋人

「閲覧ありがとうございます!はじめたばかりで緊張していて…」
もう何度言ったか覚えていないセリフ。
20歳を目の前に控えた柚希は、画面越しの男性を前にわざとらしく上目遣いをする。
高卒派遣社員。趣味はバンドの追いかけ。
もちろんお金に余裕があるわけもなく、彼女はチャットレディでバンドマンへのお金を調達していた。
「早く脱いで」「もっとエッチな姿見せて」
よく言われるセリフ。
男性経験が無い柚希は上手にパフォーマンスができず、長く閲覧してくれる男性は少なかった。
「表情が暗いけど何かあった?」
「今日は何食べたの?」
「柚希のこと好きだよ」
アダルトサイトの為、下心がある男性が大半を占める中変わった男性がいた。
名前は雄大。
決して安くはない登録料だが今日の出来事や好きな食べ物。
趣味や特技など彼は柚希という人間に興味を持ってくれていた。
男性と触れ合う機会があまりない柚希は初めは緊張していたが雄大を男性として意識するようになるのに時間は掛からなかった。
週に数日、ただ会話をして終了するまるで遠距離の恋人のようなやり取りを重ねていたある日
「我慢できない。柚希の全部見せて」
いつもとは違う熱を帯びた瞳で雄大は言った。
見慣れない「雄」の表情に戸惑いつつも柚希は優しい声色に誘われ画面越しで雄大にすべてを委ねた。
「雄大さんの特別になりたいです。」
「柚希は俺とどうなりたいの?」
「もっと近くに行きたいです。もっともっと知りたいです」
「…かわいいね。柚希を俺だけのものにしたい」
雄大の優しい声が柚希に甘く刺さる。
これが柚希にとって初めて彼氏が出来た瞬間だった。
幸せな日々と小さな不安

38歳。東京で起業したが両親が心配で会社を後輩に託し、
現在は実家がある札幌でフリーランスとして働いている。
年上・起業・フリーランス
世間知らずな柚希にはそれらがより雄大を洗練された大人の男性に魅せた。
大阪に住む柚希とは遠距離のため会える頻度は3~4か月に1度。
会いたい時に会えない。辛いときに傍にいてあげられない。
遠距離恋愛という寂しさに何度も押しつぶされそうになり何度も泣いた。
それでも毎日のLINEと電話で年上の気遣いと沢山の愛情を注いでくれる雄大。
約3年、2人は大きな喧嘩をすることなく順調に交際を重ねていた。
「あのね、友達が最近結婚したの!羨ましいな…」
「俺たちもいずれは一緒に住みたいね。でもまだ柚希は若いからもっと色んな経験をしてほしい」
何度か交わしたやり取りだ。
最初は気遣ってくれていると感じていたが何度か聞くうちに柚希の中に不安という小さなシミができ始めた。
彼は本当に将来を考えてくれているのだろうか…。
遊ばれているだけかもしれない…。
一つ不安になればすべて気になるのが人間。
会うときのホテル代や食事代はすべて折半。
両親に会いたいといえば体調が芳しくないからもう少し待って。
同棲の共同貯金を提案すれば今は収入が不安定だから落ち着いたら。
電話は家の中からではなく必ず仕事帰りや食後の散歩中。
周囲の人に反対され続けたが何年も関係を続けていた見栄と彼への気持ちとゆっくりと向き合う。
友人に相談し柚希はある行動を取ることにした。
別れの時

「雄大さん!会いたくなって来ちゃった!!」
12月。クリスマスを目前にしたある日。
柚希は雄大の会社の前で彼を出迎えた。
「…柚希?何でいるの!?」
一瞬の表情を柚希は見逃さなかった。
決して笑顔とは言えないあからさまに強張った表情。
最悪の方向にゆっくりと確実に動き出す。
「最近会えてないからどうしても会いたくて…迷惑だった?」
「そんなことない!とっても嬉しいよ…」
いつもと変わらない優しい、大切な物を慈しむかのような表情で柚希に歩みよる雄大。
大好きで仕方がない骨ばった大きな手が柚希の頬に伸ばされようとした時
「…あなた。その子誰?」
まるでドラマのワンシーンのような瞬間が訪れる。
恐らくスーパーの帰り道だろう。
ネギが顔を出す買い物袋を提げた柔らかい雰囲気の女性。
左手には小さな手が繋がれていた。
咄嗟に柚希と距離を取る雄大。
大好きな手が離れていく。
もうあの手には触れられない。
「あ…彼女は 「長谷川と申します。雄大さんには仕事でお世話になっております」
そこからの会話はあまり覚えていない。
自分だけだと思っていた笑顔を目の前の女性に向ける雄大。
彼の足元に駆け寄る幼い女の子。
柚希の目の前には理想の家族があった。
止まった時間

「はじめまして!柚希って言います!…私の恥ずかしい姿見てほしいな」
もう何度言ったか覚えていないセリフ。
25歳を目の前に控えた柚希は画面越しの男性を前にわざとらしく上目遣いをする。
沢山のコメントと沢山の固定客。
彼女はサイトのランキング上位に掲載されるほどの売れっこになっていた。
「柚希。本当にごめんね」
メール機能で定期的に入るとある男性からのメッセージ。
柚希はそれに気づかないフリをし今日も配信を始める。
あの日、精一杯の強がりで名字では無く名前で呼んだことに彼女達は気付いただろうか。
あれから何人かと交際したが大好きで仕方がない大きな骨ばった手が忘れられない。
私だけまるで時間が止まったかのように同じ場所にずっと取り残されている。
soowimid著


コメント
コメント一覧 (2件)
pr
sayo0908さん
記事の修正をして頂きまして有難う御座います。
タイトルの修正は作者でなければ、成りません。
他の方が修正したものはどんなに気遣っても違和感が生まれるものです。
今回のタイトルは、作者の気持ちが出た良いタイトルになりました。
有難う御座います。
それでは検収を完了と致します。
次回の記事も同じテーマにて投稿サイトも同じに成ります。
楽しみにお待ち致します。
井上保夫
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114.163.101.139
sayo0908さん
初めての投稿記事をして頂き有難うございます。
それでは早速検収をさせて頂きます。
今回の作品は詩情漂うsayo0908さんの独特の雰囲気が出ている作品になっています。
これだけの雰囲気を若くして出せるのであれば、更に誠実な作者の魅力を出すことで読者を虜にする個性ある作品を造りあげて行かれる事でしょう。
作品ではチャトレディをしながら好きなバンドマンを追っかけてお金をつぎ込んむ女性の物語です。
そんな彼女に、心のすきに入り込んで来た気になるお客さんが出来ます。
閲覧画面では余りにも、歯がゆいお客さんとの距離を解消したくて遭いに行ってしまいます。
いけない事と分かっていても彼女にとって夢を抱く存在だったのでしょう。
切ない日々の中男性のあやしい返事に我慢出来ず彼の会社へと行ってしまいます。
そして現実の哀しさが其処にはありました。
読者は彼女の気持ちをどう受け止めていいか分かりません。
余りにもお人好しなのか!仕事の上での情事と諦めるプロ意識なのか!
良い作品です。
ここでタイトルに関する注意点を指摘しておきます。
タイトルは読者に興味を持って貰うための手がかりになります。
読者はタイトルを見た瞬間に読む読まないを決めてしまいます。
そんな読者が求めているキーワードを入れて上げて読みたくなるようにしましょう。
今回の作品では「長く閲覧」「画面越しの男性」「チャットレディ」と言ったキーワードを入れて読者の興味を引いみて下さい。
「初めての彼氏と止まった時間」を更に読者が中身に興味を引くように、内容を少し分かるようにキーワードを入れて見て下さい。
それでは今回の検収をタイトルの修正をして頂く事で完了と致します。
どうぞ宜しくお願い致します。
井上保夫